_9_ごはんぐるり

#9 インサイトは日常に、食事に、転がっているものだ:ごはんぐるり

こんにちは!すがっしゅです。

第9回では、西加奈子さんのエッセイ「ごはんぐるり」をご紹介します。
これめっちゃオモロイです!

西加奈子さんには一読者として大変御世話になっており、
「円卓」「i」等 オススメしたい作品はたくさんあるのですが、
今回はあえてエッセイをご紹介します。
※「i」は過去に紹介していました。こちらから

上から目線で勝手でなおかつ月並みな言葉ですがあえていうと、
優れた作品は全て、人の心理を言語化して切り取るのが本当に上手で秀逸だな~と思います…特に西加奈子さんの文章は、スゴイ!

「…あたらしいものは、たいていひんやりしている。…」とか、
一見プロの広告コピーだ…と思わせる文章が出てきたと思えば、
「…俄然張り切る。私は調子に乗りやすいのだ。…」
「…運転中に見えるドライブスルー、なんて魅力的な!…」
と、急に茶目っ気を出してきたり。読んでいて楽しい気持ちになるし、きっと西さんって茶目っ気と鋭さを兼ね揃えた、素敵な人なんだろうなぁ、と勝手に思っています。

そんな西さんのエッセイ「ごはんぐるり」。
タイトル通り、ごはんにまつわる小話が数多く詰まっています。


★当たり前すぎて忘れがちな「食」のありがたみ

西さんは大阪人ですが、エジプト・カイロで育った過去があるそうで、
カイロで生活した経験からか、フィンランド、トルコ、セネガル、ベネズエラ、と様々な国の食文化に触れていて、
「ごはんぐるり」では、そんな海外でのお話も数多く紹介されています。

カイロでは、まず材料が日本とは全く違って、野菜は生では食べられないし、魚は日本のように内蔵を取って捌いて、なんてしてくれないそう。
お米は、石と死んだ虫入り。西さんのお母さんは、ちゃんと日本食を食べられるよう、お米をテーブルに広げ、ピンセットで石と虫を一つ一つ取り除いていく作業をしていたのだそう。。
日本では考えられない環境ですよね。

そんな西さんにとって、当時のごちそうは「卵かけごはん」。
野菜さえ生で食べられない国で、生卵なんてとても無理だったそうで、
日本に一時帰国した際 生卵のパックを抱え、機内に持ち込んでいたそう。

西さんはこうおっしゃっています。

帰国してから、もう20年ほど経つが、実は、カイロで食べた、
あの卵かけごはんほど美味しいものには、まだ出会えないでいる。

食生活において、ひいては恋愛や、仕事においても、少しばかりの「不自由さ」というのが、思いがけない幸せをもたらしてくれるものである。

でもそれを忘れ、私は今日も、たくさんの食べ物の中から、
自分の食べたいものを選び、悠々と、食べている。

「当たり前にごはんを食べられることに、感謝しましょう」なんて、
月並みな言葉が心に刺さることはあんまりありませんが、
貴重な体験談と共に、西さんのようなスゴイ表現で言われると、こうも
「当たり前」について考えさせられるとはなぁ…
と思いました。


★食べ物・食事には、インサイトが溢れている

私はフリーで「企画屋さん」を営んでいて、プランナーとして、
ありがたいことに、まだまだ未熟ではあるものの、色んな業界の色んな事業に、根幹から関わらせて頂いている身なんですけれども。

そんな私から言わせてもらうと、
プランナー・クリエイター・デザイナー系の職種で活躍している方や、
企画系のお仕事をしていらっしゃる方、
マーケティング系のお仕事をしていらっしゃる方に、
この「ごはんぐるり」はとてもオススメです。
なぜなら、ごはんや食事を楽しむ生活シーンに詰まっているインサイト・深層心理を、西さんが言語化してくれている一冊だからです。

・朝起きて最初にすることは、コーヒーを淹れること
 飲みたくなくても「儀式」をしてしまう。

・旅行は現地の食べ物を食べるのが良い!のはわかってるけど、
 運転中のドライブスルーや、新幹線の駅弁や、エコノミークラスの
 狭い座席で食べる機内食が、なぜか美味そうで魅力的に感じてしまう

・居酒屋で頼むメニューには、「正解」がある気がする。
 コロッケや唐揚げや揚げだし豆腐は、不正解。
 ソラマメの天ぷらなり、ホワイトアスパラのグリルなり、が正解だ!

・「肉じゃがが好き」などという男性は、
 「好きなタイプは小林麻央さん」というのと同じだ。
 なんかムカつかないか!唐揚げもしょうが焼きも却下。春巻きが正解だ!

・大阪人が「お好み焼きが好き」「たこ焼きが好き」などと言うのは、
 モーレツに恥ずかしい。べた過ぎる!
 ごめんたこ焼き!ほんまはめっちゃ好き!

みたいな、そんなしょーもないはなし‥と言いたくなるけど、
めっちゃ首を縦に大きく振ってしまうような、「よくぞ言ってくれた!」と称賛したくなるようなお話が、たくさん語られています。


こういう、微妙な心の動きを知ることは、
人の心を扱うプランナーとしては非常に大事だと思うんですよね。
「インサイト」という言葉が広告業界やマーケティング界隈で当たり前になっていますが、その本当の意味を捉えている人は少ないのではなかろうか、と思うのです。

インサイトは打ち合わせの場で生まれるものではなく、
日常に、生活に、人生に、転がっているものなのです、きっと。
だからもちろん、日々の食卓の中にも転がっている。
それを取り出して、言語化してみて、初めてインサイトマーケティングなるものは可能になると思います。

ここまで綺麗にインサイトを言語化できる西さんは、とても感性豊かなのだろうなぁ、と思うし、ここまでたくさんのインサイトを切り取り、綺麗に表現したエッセイは中々ないだろうな、と思います。


以上。ソラニン第9回「ごはんぐるり」でした!
ぜひ読んでみてください。

ではまた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?