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いつも通りの日。

「今度結婚するんだ。」そうやって言っていたのは美玲という女だった。

美玲とは昔からの友人関係で、数年前から美玲には彼氏がいることを僕は知っていたが。僕自身、こちらから近状を伺う様子を示さなかったので。彼女からのそのような唐突な報告を受けては、少し戸惑っていた。

ただ、結婚すると言っている相手に対して、第三者である僕は祝福をするのが当たり前だろうと考えて。何より結婚というワードは幸せの象徴を示すようなものだから。たとえ結婚に否定的な人であっても、それは各個人が自身の生き方に対して決めることであり、自分の人生において必要か不必要か判別するだけでいい程度であって。彼女の決めた結論に対しては、軽々しく僕のような第三者が口を挟むことではないと思う。

それにしても、以前彼女が口走っていた言葉を僕は思い出していた。以前の彼女は、たしか「別に今の彼が好きな訳じゃないけど、付き合ってるんだ。」と言っていたはずだったが。僕は彼女に「おめでとう。」と祝福しながらも脳裏では、そんなことを、ふと過らせていて。ただ、好きではなかった彼と、今では結婚に至るまでの関係を築けたということは本人にとっても喜ばしいことだろう。

今幸せな人に対して、また、過去をぶり返そうとするのも野暮だと思うし。そんな思いつきの事をスグに言葉にする必要がないと感じたから言わないようにしたけど。それほどまでに、人が過去に言ってたことなんて時間が経てばすぐに変わるものだろうと考えて。現実の結婚なんかは、それくらい楽観的に受け入れられてしまうくらい自由な方がいいもんだと思えた。

それにしても美玲が結婚するのなら。まぁ今みたいに、こうして会うことも無くなるのだろうかと、寂しく思う。よくよく思い返せば、こうして彼氏持ちな女性と会っていたこと自体、あまり世間的には褒められるようなことでもなかっただろう、とか思っては。彼女自身それほど真面目に考えているタイプではないから。結婚したからと言って、会える頻度は少なくなるにしても、偶にくらいは顔を合わせるような気もしたし、そうであって欲しいと思っていて。

なんだか、少々僕は彼女に甘えているような節があるなぁと感じた。

美玲が好きだったとか、向こうの相手に屈辱な気持ちとか、劣等感のような気持ちがある訳ではないが。でも少し、そうした気持ちとは違っている、正しくはない感情が僕の中では駆け巡っていたかのように思えて。

人の気持ちなんて、適当であり、不安定なものなのだろうと思うが。今こうやって彼女の結婚の報告を受けて、純粋な気持ちではなく祝福をしようとする自分なんかを俯瞰してから。

やっぱり、僕自身の感情の在り方を正直に言えば、彼女にはまだ先に進まないで欲しい気持ちのようなものがあったのだろう。

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