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短編小説Vol.15「遊戯の祭り」

夏の猛暑が街を包んだある年、反抗期を迎えた高校生・悠人は、日常からの逃避を求め続けていた。
彼の中には、ある本を読んで以来、強烈な野心が芽生え、自分も何か衝撃的な行動で世間に名を残したいと考えるようになった。
彼には同じように反抗心を持つ仲間がいた。
都会の喧騒から少し離れた山間にある実家の別荘で、高校生の悠人は友人たちと共に暑い季節を過ごし始める。

「俺たちの夏は、他の誰の夏とも違うんだ。」
悠人は言った。

そして、
「この社会に、俺という存在を刻み込む。」
これが彼らのスローガンになった。

それの第一歩として、彼らは祭りの計画を立て始める。
計画の内容は、この無駄に広い別荘で一夜限りの祭りを開くことだった。
しかし、彼らが目指していたのはただの祭りではなかった。
それは、反骨精神を表現し、社会に一石を投じるための「行動芸術」であった。
準備期間を経て、彼らは別荘を掃除し、手作りの装飾で飾り立て、SNSを通じて秘密の祭りの噂を広めた。

そして、夏の終わりが迫ったある夜、祭りは始まった。
予想以上に多くの高校生・大学生が集まり、別荘は一瞬にして生き生きとした祭りの場へと変化した。
音楽、ダンス、花火、そして秘密の祭り特有の開放感が混じり合い、参加者たちは日常から解放された特別な時間を楽しみ続けた。

ただ、この祭りは長くは続かなかった。
ドン!!ドン!!
その音が悲劇の始まりを教えた。


別荘の裏山を見ると、大きな炎の塊がゆらゆらと揺れてる。
誰が火をつけたのかは全くわからない。恐らく大量の花火を上げたので、それが引火したのかもしれない。
ただその巨大さからして、どうすることもできなかった。
悠人は仕方なく、消防車を呼んだ。

呼んでから、5分、10分、15分経ったがなかなか到着しない。
炎はその範囲をさらに広げていき、別荘に燃え移ろうとしていた。

20分経ってから、ようやく着き、消化を始めたが、もう手遅れであった。
別荘には火は移り、激しく燃え上がっていた。

そして、消防車が来るなり参加者たちは散り散りになって夜の闇に消えて、祭りは終焉を迎えた。

そして、祭りを計画した悠人と友人は、警察に捕まり、保護された。
彼らの行動は、SNSで拡散して、テレビでも大きく取り上げられて、多くの批判を受けた。
同時に若者たちの強い反骨精神と、変わりゆく世代の象徴として一部からは称賛を受けもした。
悠人はその称賛がただ気持ちよかった。

祭りから数週間後、悠人は一人で廃墟となった別荘を訪れた。
夏の夜の祭りが終わり、すべてが元の静けさを取り戻していた。
彼は、あの時読んだ本を読み返しながら、自分たちが何を求め、何を表現しようとしたのかを思い返した。

「本当に価値のあることを、俺たちはしたのかな?」悠人は自問自答した。彼は、夏の終わりの空を見上げながら、青春の一瞬一瞬が、かけがえのない青春であることを実感した。
彼らの行動は、ある意味で社会に警鐘を鳴らすものであり、青春の輝きを放つための試みだったのかもしれない。
悠人は、これから先も変わらぬ反抗心を持ち続けるだろうが、その中にも成長と理解の種を見つけることができるだろう。

夏の終わりに、悠人は新たな季節への一歩を踏み出した。
彼と仲間たちが体験したことは、彼ら自身の物語として永遠に心に刻まれる。
そして、彼らの遊戯は、次の世代へと受け継がれていくのだった。

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