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リンパ浮腫と理学療法:手技による介入は必要か?

▼ 文献情報 と 抄録和訳

リンパ浮腫の除痛治療における理学療法;無作為化非劣性対照試験

Forner-Cordero, Isabel, et al. "Physical therapies in the decongestive treatment of lymphedema: A randomized, non-inferiority controlled study." Clinical Rehabilitation 35.12 (2021): 1743-1756.

[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

[背景・目的] リンパ浮腫の除痛治療において、間欠的空気圧迫+包帯治療による治療が、徒手リンパドレナージュを伴う古典的トリモダール療法に劣らないかどうかを評価すること。

[方法] 研究デザインDecongestive Lymphhedema Therapyにおける3つの物理療法のレジメンの有効性を比較する無作為化、非劣性、対照試験。参加者ステージII-IIIで過剰体積が10%以上のリンパ浮腫患者194名を、上肢と下肢で層別化し、3つの治療群のいずれかに無作為に割り付けた。ベースラインの特徴は各群で同等であった。介入は、全患者に以下のレジメンを20セッション処方した。A群(対照群):手技によるリンパドレナージ+間欠的空気圧迫+包帯治療、B群:空気圧によるリンパドレナージ+間欠的空気圧迫+包帯治療、C群:間欠的空気圧迫+包帯治療だけであった。エンドポイントは、過剰体積の減少率(PREV)。

[結果] 治療後、全例が改善した。PREVの全平均値は63.9%であり、群間で有意差はなかった。B群とA群、C群とA群のPREVの差の信頼区間の下限は15%以下であり、非劣性基準を満たした。最も頻度の高い有害事象は不快感およびリンパ管炎であり、群間差は認められなかった。多変量解析では、ベースラインの浮腫が大きいこと、上肢リンパ浮腫、皮膚リンパ管炎の既往が奏功率悪化の独立した予測因子であった。

[結論] 空気圧による間欠的圧迫と包帯のみで行う除痛リンパ療法は、手技によるリンパドレナージュを伴う従来の三分割療法と比較して劣っていない。この方法は有害事象を増加させなかった。

▼ So What?:何が面白いと感じたか?

どうしてこのような研究が必要になるのか。
その「臨床的意義」について不思議に思った。
意義の1つが、「リンパ浮腫に対する治療の専門性と効果の関係」を明らかにすることだ。
すべての医療的(理学療法)介入は、その専門性と効果性の程度によって、以下の図に示した4章限に分かれる。

スライド2

✅ 介入の専門性と効果性における4象限
1. SE領域:専門性・効果性ともに高い介入
2. NSE領域:専門性は低く、効果性が高い介入
3. SNE領域:専門性は高いが、効果性が低い介入
4. NSNE領域:専門性、効果性ともに低い介入

この4象限が重要なのは、その介入の運営に関わるからだ。
例えば、図に示した上の2象限(SE、NSE)は、介入の効果性が高いため、実施した方がいい介入と判断できる。
一方で、下の2象限(SNE、NSNE)は効果性が低いため選択の優先順位は低いと判断できる。
ただし、下の2象限は、まだその効果性が明らかにされていないだけかもしれない(スポットライトバイアス)ので、効果性の検討や調査の継続が望ましいだろう。

そして、ここからが面白い。
SE領域とNSE領域で、何が変わってくるか。
専門性が高い介入は「理学療法士」が患者と1対1で実施しなければならない。今回の研究の中では、「徒手的なドレナージ」がSE領域に該当する。

一方で、専門性が低い介入は「誰が」実施するかは問わないことが多い。例えば、電気刺激療法やホットパックの準備・用意などはNSE領域であり、バイトスタッフに任せたり理学療法士以外が実施しているところも多いだろう。今回の研究の中では、「間欠的空気圧迫(メドマー)」、「包帯治療」がSNE領域に該当する。
これらの介入は誰がやっても良いだろうし、機械による自動化も進めやすいだろう。

スライド3

長くなったが、この研究が明らかにしたことは、以下のことだ。

● リンパ浮腫に対する介入は、専門性が低い介入でも専門性の高い介入と比較して同等の効果が期待できる
● そのため、リンパ浮腫に対する介入は誰がやっても良いだろうし、機械化も進められるかもしれない

今回紹介した4章限に当てはめながら介入の運営方法を検討することは、金銭的コスト・労働力コストの効率化が期待できて、有用かもしれない。

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