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利き手の器用さは、筋シナジーからの逸脱かもしれない

📖 文献情報 と 抄録和訳

手指の不自由さは、異なる手指の筋肉を支配する脊髄運動ニューロンへの共通入力の少なさと関連する

📕Maillet, Jean, et al. "Handedness is associated with less common input to spinal motor neurons innervating different hand muscles." Journal of Neurophysiology 128.4 (2022): 778-789. https://doi.org/10.1152/jn.00237.2022
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🔑 Key points
🔹利き手と非利き手で手先の行動の神経制御がどのように異なるかは、まだ十分に理解されていない。
🔹本研究では、等尺性回転課題において、利き手の異なる筋肉を支配する運動ニューロン間の共通シナプス入力が、非利き手よりも少ないことを示した。
🔹このような共通入力の少なさが、運動単位の採用に高い柔軟性を与えている可能性がある。

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[背景・目的] 手指行動の神経制御が利き手と非利き手で異なるかどうかは、十分に理解されていない。本研究では、同じ筋あるいは異なる筋を支配する運動ニューロンへの共通シナプス入力のレベルが、利き手と非利き手で異なるかどうかを明らかにすることを目的とした。

[方法] 17名の参加者は、等尺性ピンチとピンチしたダイヤルの等尺性回転という、異なる力学的要件を持つ2つの運動課題を行った。各課題は最大努力の30%で行われ、利き手と非利き手で繰り返された。高密度表面筋電図記録から、2つの内在筋(屈筋間と掌筋)と1つの外来筋(屈筋浅部)から運動単位が同定された。共通のシナプス入力を推定するために、2つの相補的なアプローチを使用した。まず、同じ筋の運動神経細胞と異なる筋の運動神経細胞のグループ間のコヒーレンスを計算した。次に、運動ニューロンの放電速度の低周波振動を相関させることで、すべての運動ニューロンのペアに共通する入力を推定した。

[結果] 利き手では非利き手に比べて異なる筋肉を支配する運動ニューロン間の共通入力が少なく、これは等尺性回転課題中にのみ観察された。同じ筋の運動ニューロン間では、共通入力の左右差は観察されなかった。

[結論] この共通入力の低さは、運動単位の採用、ひいては機械的出力に高い柔軟性を与える可能性がある。利き腕と非利き腕の間のこの違いが、手話の原因なのか結果なのかは、まだ解明されていない。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

積み木でつくられた城と、1個1個のブロックのランダムな集合は違う。
1曲を奏でることと、一本一本の腱板をランダムに叩くことは違う。
歩くことと、膝伸展だけを意識的に行うことは違う。

非利き手は、なんだか塊の手だ。
掴んだり、離したり、大まかには動く。
だが、字を書いたり、箸を操作したり、巧緻性が求められると、途端に不十分となる。
一方で、利き手は、自在の手だ。
字を書く、箸を操作する、なんでもござれだ。
今までしたことのない動きだって、器用にやってのける。
この違いは、なんだろう?

この疑問に、本研究は1つの答えを与えた。
それは、『非利き手は筋シナジー的であり、利き手はそこから逸脱できる』ということ。
筋シナジーとは多数の筋の活動に見られる協調構造を意味しており、端的に言えば複数の筋の同時活動のことである。
つまり、複数筋に指令が共同入力された運動、と言える。

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今回の研究で明らかになったのは、
・非利き手は、共同入力的であり、
・利き手は、この共同入力的ではない
ということ。
面白いのが、遡ると一次運動野(M1)にも共同運動を司どるM1(Old M1)とそこから逸脱した自在な単一の運動を司どるM1(New M1)があるということ(📕Rathelot, 2009 >>> doi.)。

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これに当てはめて考えると、非利き手はOld M1の活動の比重が重く、利き手はNew M1の活動の比重が重いのかもしれない。
利き手交換などは、New M1経路の開発と言い変えることができるのかもしれない。

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