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足部進行角の威力。膝OA者のKAMを11%減少

📖 文献情報 と 抄録和訳

変形性膝関節症患者における歩行時の足部進行角度の変化は膝関節内転モーメントを減少させ、股関節モーメントを増加させないことが明らかになった

📕Seagers, Kirsten, et al. "Changes in foot progression angle during gait reduce the knee adduction moment and do not increase hip moments in individuals with knee osteoarthritis." Journal of Biomechanics (2022): 111204. https://doi.org/10.1016/j.jbiomech.2022.111204
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[背景・目的] 変形性膝関節症の人が歩行時に足部進行角(foot progression angle: FPA)を変更すると、膝関節の内転モーメントが減少し、多くの場合、その効果が得られる。しかし、FPAの変更が股関節荷重の代用指標である股関節モーメントを増加させ、関節への力学的負荷を増加させるかどうかは不明である。本研究では、FPAの変化が股関節モーメントにどのような影響を与えるかを検討した。

[方法] 変形性膝関節症の患者を対象に、ベースライン歩行、10° toe-in 歩行、10° toe-out 歩行を行い、計測されたトレッドミル上を歩行させました。筋骨格系モデリングパッケージを使用し、実験データから関節モーメントを計算した。より大規模な研究から、修正FPAを用いて膝関節のピーク内転モーメントを減少させた50名の参加者が選ばれた。

[結果] 10° toe-in 歩行で膝関節内転モーメント(Knee adduction moment: KAM)の第1ピークが7.6%減少し、10° toe-out 歩行で第2ピークが11.0%減少した。FPAを変更することで、屈曲および内旋モーメントを増加させることなく(p>0.15)、股関節接触力がピークとなる初期立脚股関節外転モーメントを10° toe-in 歩行で4.3%±1.3%(p=0.005、d=0.49)、10° toe-in 歩行で4.6%±1.1%(p < 0.001、d=0.59)減少させた。さらに、74%の人が修正FPAにより股関節接触力ピーク時の股関節全モーメントを減少させた。

[結論] 以上のことから、膝関節内転モーメントを減少させるFPAを採用した場合、参加者は平均して股関節負荷の代理指標を増加させることはなかった。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

トリム・タブという言葉をご存じだろうか。
これは、船の構造の一部を指し示す言葉。
トリム・タブは「舵についた小さな舵」で、舵全体のほんの一部分の大きさしかない。

スクリーンショット 2022-06-29 6.59.27

だが、その小さなトリム・タブの少しの方向転換が、大きな船の大きな進行変更を生む
今回抄読した研究を読んで、歩行における足部進行角は、さながら、トリム・タブのような役割を果たしている気がした。
たった10°のtoe-outが11%もKAMを減らしてしまったのだ。
まるで、手品か魔法のようである。
考察では、この手品の仕掛けを知ることで、応用可能性を高めたいと思う。

まず、本文をよく読むと、歩幅がtoe-in, toe-outともに低下していることがわかった。
すなわち、選択的にKAMが減少したというより、総負荷が減少した可能性がある。
Toe-in、toe-outを意識すると、歩行自体が緩慢なものとなり、結果的に一歩の総負荷が下がるのだろう。
この仮説が正しい場合には、口頭指示としてtoe-in, toe-outを意識してもらうことは、方向関係なく歩行の負荷量を下げることに貢献するだろう。

次に、こちらがより興味深い仮説なのだが、負荷の分散が変わった可能性だ。
今回の研究の中で示されていないパラメータがある。
それは、関節間力、だ。
モーメントが回転力を指すのに対し、関節間力は直線的な力を指す。
膝でいえば、屈曲モーメントは膝をぐにゃっと曲げる方向の回転力で、関節間力(圧縮方向)は関節面を押しつけるようなグッという直線的な力だ。
1つの体重を支えるとき、この回転力と直線的な力に分散される。
スクワットのような姿勢でいるときには、多くは回転力に分散され、
膝ロッキングのような姿勢でいるときには、多くは圧縮力に分散される。
今回の研究の場合、この分散比率が変わった可能性がある。
そして、それは膝関節水平断のどこに負荷が加わるかという位置をも変えるかもしれない
仮説としては、toe-inではより内側に、toe-outではより外側に負荷が加わりやすい気がする。

仮説に仮説を重ねる。
もし、上の考察のように負荷分散が変わるとすれば、FPAは評価にも介入にも使える。
評価としては、FPA-angleを少しずつ変えながら疼痛を評価することで、膝関節のどこに疼痛惹起箇所があるのかをスクリーニングできる。
介入としては、1つ箇所への負荷の持続を避けることができる。
たとえば、慢性腰痛者は、同じ姿勢の座位を取り続けることが明らかになっている(📕Bontrup, 2019 >>> doi.)。すなわち、特定のある肢位が問題なのではなく、同じ肢位の持続が問題になる障害がある。
膝OA者でも類似の現象があるとするならば、長距離歩行時など、「5分ごとにtoe-in, normal, toe-outを変えながら歩いてください」は関節軟骨の摩耗やらに効果があるかもしれない。

「私に支点を与えよ。さらば地球も動かさん。」、アルキメデスはそういった。
「患者にFPAを与えよ。さらば膝を動かさん。」、僕たちはそう思ってもいいかもしれない。

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