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Muscle Memoryの正体。それは筋核の永続性か?

📖 文献情報 と 抄録和訳

骨格筋の記憶における筋核の永続性:ヒトおよび動物実験の系統的レビューとメタ解析

📕Rahmati, Masoud, John J. McCarthy, and Fatemeh Malakoutinia. "Myonuclear permanence in skeletal muscle memory: a systematic review and meta‐analysis of human and animal studies." Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle (2022). https://doi.org/10.1002/jcsm.13043
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✅ Muscle Memory (マッスルメモリー;筋記憶)とは?
- 筋トレをして鍛えた筋肉には、人間でいうところの「記憶力」のようなものが備わっている。
- たとえばダンベルの重さ、トレーニング時の動きや負荷、そして鍛え上げられていたときの状態などを、遺伝子レベルで記憶しているという。
- マッスルメモリーの正体として、もっとも有力とされているのは「筋細胞の核の数」に着目したものだ。
- 筋細胞はほかの細胞よりもサイズが大きく、その分多くの細胞核が含まれている。
- この核のおかげで筋肉は肥大することに加え、筋トレで増殖した核はトレーニングを中断しても長期間、消失せず残るという。
- トレーニングを一時的に中断したとしても、マッスルメモリーがあれば身体が反応し、再開から短期間で元の筋肉量に戻る。以前鍛えていた人ほどマッスルメモリーが残りやすいため、トレーニングを再開するとより短期間で効果が出る。
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[背景・目的] 骨格筋の記憶の1つの側面として、以前にトレーニングされた筋肉が、トレーニング解除後、より急速に肥大する能力があること。筋記憶の分子的基盤はまだ完全に解明されていないが、筋記憶を媒介する潜在的メカニズムの1つは、肥大成長の初期段階に獲得された筋核の永久的保持であると考えられている。しかし、筋核の永久保存については議論があり、骨格筋可塑性のこの重要な側面に関する分野の現状を明らかにするために、メタアナリシスが有益であると思われる。本研究の目的は、身体活動および加齢の変化に伴う筋核の永続性を評価するためにメタ解析を行うことである。また、衛星細胞(satellite cells, SC)が存在する場合は、筋核の存在量の変化に影響を与える可能性があるため、その存在量も考慮した。

[方法] (1-2)ヒトおよびげっ歯類の研究では、筋肥大に対する反応を評価し、(3-4)ヒトおよびげっ歯類の研究では、筋萎縮に対する反応を評価し、(5)ヒトの研究では、加齢による筋応答を評価した。

[結果] 骨格筋の肥大は、筋核量の増加と関連しており、それは齧歯類では保持されていたが、ヒトでは萎縮と関連して減少した(SMD = -0.60, 95% CI -1.71 to 0.51, P = 0.29, and MD = 83.46, 95% CI -649.41 to 816.32, P = 0.82; respectively)。ヒトでは筋核量、SC量ともに萎縮後に低下したが(MD = -11, 95% CI -0.19 to -0.03, P = 0.005, and SMD = -0.49, 95% CI -0.77 to -0.22, P = 0.0005; respectively)、ネズミでの反応は対象となる筋肉の種類と萎縮の様式に影響されていた。ネズミの筋核は、萎縮の様式にかかわらず、より永続的であることがわかったが、30%以上の萎縮は、筋核量の減少と関連していた(SMD = -1.02, 95% CI -1.53 to -0.51, P = 0.0001)。ヒトでは、サルコペニアは筋核およびSC含量の低下を伴っていた(MD = 0.47, 95% CI 0.09 to 0.85, P = 0.02, および SMD = 0.78, 95% CI 0.37-1.19, P = 0.0002; それぞれ)。

[結論] 今回のメタアナリシスで得られた主な知見は、筋核は永久的なものではなく、萎縮期や加齢に伴って消失するというものである。これらの知見は、筋核の永続性に基づく骨格筋の記憶の概念を支持するものではなく、エピジェネティクスなどの他のメカニズムが、骨格筋可塑性のこの側面を媒介するより重要な役割を担っている可能性を示唆している。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

「以前からトレーニングしていたから、それが残っているんかね?」
「貯筋が貯まっていたんだね、多分」
「継続は力なりだね、散歩をずっと続けていたから、まだ力が残っているだね」

脳卒中発症後や、外傷後に身体機能が良いことや、回復が良いことに対して、上記のようなコミュニケーションがしばしばとられている。
確かに、病前の活動性というのは、発症後の予後に大きな影響を与えるファクターの1つだ。
その側面の1つが「Muscle Memory」。
骨格筋は、「筋肉の記憶」と呼ばれる現象である、トレーニングを一時的に中止した後の、トレーニングを再開すると、以前の肥大状態を「思い出す」という驚くべき能力を持っている(📕Gundersen, 2016 >>> doi.)。

そして、その正体は長らく「筋核の永続性」にあると思われてきた。
すなわち、トレーニングを中止した後も増加した筋核は残っていて、次のトレーニングに対する反応を良好なものにする、という考え方である。
だが、今回のレビューによって、この仮説はある程度否定された。
トレーニング中止後の筋萎縮に伴い、特に人間においては筋核も一緒に減少を認めたのだった。
では、筋核でないとすれば、何がその正体なのだろう。

論文の考察の最後の方で、DNA低メチル化「記憶」、分子基盤、という用語が出てきて辟易とした。
どうやら、スパッと、明快にわかるようなものではないのかもしれない。
ブラックボックスは、まだ残ることになった。

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