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ギプス固定+電気刺激。固定化による弊害を軽減

📖 文献情報 と 抄録和訳

ベルト電極装置を用いた筋収縮運動による固定化ラット腓腹筋の筋繊維萎縮、筋収縮、筋痛の防止効果

📕Honda Y, Takahashi A, Tanaka N, Kajiwara Y, Sasaki R, Okita S, et al. (2022) Muscle contractile exercise through a belt electrode device prevents myofiber atrophy, muscle contracture, and muscular pain in immobilized rat gastrocnemius muscle. PLoS ONE 17(9): e0275175. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0275175
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[背景・目的] 骨格筋を固定すると、筋萎縮、筋収縮、筋痛が生じるが、そのメカニズムにはマクロファージの蓄積が関与している。しかし、ベルト電極装置を用いた筋収縮運動は、マクロファージの蓄積を緩和する可能性がある。我々は、このような運動が筋繊維の萎縮、筋収縮、筋肉痛の予防に効果的であると仮定した。

[方法] 本研究では、この仮説を固定化したラット腓腹筋で検証した。合計32匹のラットを以下の対照群と実験群に分けた:固定化(固定化処理のみ)、低頻度(low-frequency, LF;固定化処理と筋収縮運動を2秒(do)/6秒(rest)duty cycleで行う)、高頻度(hih-frequency, HF;固定化処理と筋収縮運動を2秒(do)/2秒(rest)duty cycleで行う)。電気刺激は50Hz、4.7mAで行い、筋収縮運動は下肢筋に15分または20分/回(1日1回)、2週間(6回/週)実施した。行動試験終了後、両側の腓腹筋を採取し、解析を行った。

✅ ラット固定化と電気刺激の方法詳細
・実験群の動物は、0.375 mg/kg のメデトミジン (Kyoritu Pharma、東京、日本)、2.0 mg/kg のミダゾラム (Sandoz Pharma Co., Ltd.、東京、日本)、および 2.5 mg の組み合わせで麻酔された。
・各ラットの両方の足首関節を石膏ギプスで完全な底屈で固定し、腓腹筋を短縮した位置で2週間固定した
・膝関節の上から遠位足に装着された石膏ギプスは、筋萎縮による緩みのため、毎週交換された
・電気刺激装置は、コントロール ユニット (刺激サイクル、周波数、および強度を設定するため) とベルト電極で構成されていた。
・LF群とHF群のラットに麻酔をかけ、電気刺激装置をベルト電極に接続した。
・ベルト電極を大腿近位部と下腿遠位部に巻き付け、両側の下肢骨格筋にギプスを外して電気刺激を加えた (周波数 50 Hz)

[結果] HF群におけるマクロファージ数、Atrogin-1およびMuRF-1 mRNA発現、ヒドロキシプロリン含有量は、固定化群およびLF群に比べ低値であった。HF群における表層部のIIb型筋線維の断面積(cross-sectional area, CSA)、PGC-1α mRNAの発現量、背屈可動域は固定群およびLF群に比べ有意に高かった。圧痛閾値は固定群に比べLF群およびHF群で有意に高く、神経成長因子(NGF)含量は固定群に比べLF群およびHF群で有意に低値であった。

スライド2

[結論] ベルト電極装置を用いた筋収縮運動は、固定化ラット腓腹筋の固定化に伴う筋繊維の萎縮、筋収縮、筋肉痛の予防に有効である可能性が示唆された。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

体の最適化は、現在の需要に呼応するようにして進む。
・現在、ベッドに寝ている→抗重力筋が要らない→抗重力筋の萎縮
・現在、下肢がギプス固定→ギプス内関節運動が要らない→可動域の低下、筋萎縮
・現在、ベンチプレスをしている→大胸筋に最大の需要→大胸筋の筋肥大

傷害後、手術後のリハビリテーションにおいては、時空がゆがむ。
すなわち、現在の需要と将来の需要に大きなギャップが出現するのだ。
「将来、歩くために下肢の筋力は必要にも関わらず、安静のために現在はベッドに寝ている」、というように。
だが、そんなこと、身体は知ったこっちゃない。
現在需要がないなら、身体は抜け目なくその形態を奪う。

だからこそ、「未来の需要を今の需要に落とし込む」ことはセラピストの仕事の重要な1つだ。
・現在は足関節ギプス固定
 →将来はもちろん歩くから可動域、筋力は大事
 →ギプス内での等尺性筋トレを実施
・現在は圧迫骨折のコルセット装着前で臥床中
 →将来は脊柱伸展筋用いる
 →ベッド上で等尺性の脊柱伸展筋筋トレを実施
だが、ギプスで固定中、ベッド上臥床では、やはりトレーニングしにくい。
そこに動きを出す、空間的な自由度がないから。
その中で、習慣的にその動きを実現しようと思っても、なかなか難しい。
今回の研究で示された電気刺激は、その部分に革新をもたらす可能性がある。

例えば、ベッド上臥床中の圧迫骨折患者に、電気刺激付きのベルトを装着してもらう。
あとは、患者は日常生活をベッド上で送るのだが、時々電気刺激が流れる。
「おお、きたな」と患者は思うだろう。
そのとき、等尺性の脊柱伸展筋の筋トレを指導しておき、並行して行ってもらう。
これを1日に何度か、自動的に流れるようにしておく。
すると、ベッド上臥床で最も萎縮しやすい、脊柱伸展筋の筋断面積、筋力が維持される。
『現在-将来需要ギャップ』を克服できる、というわけだ。
(※ 単なる著者の妄想、理想であることに注意)
この研究は、個人的な興味のアンテナにかなり強力に引っかかった。
しっかりアーカイブしておき、自分自身の研究に生かしたい。

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