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糖尿病者の骨折リスク:1型 vs. 2型、高いのはどっち?

▼ 文献情報 と 抄録和訳

1型糖尿病と2型糖尿病の骨折リスクの比較:包括的なリアルワールドデータ

Ha, J., et al. "Comparison of fracture risk between type 1 and type 2 diabetes: a comprehensive real-world data." Osteoporosis International 32.12 (2021): 2543-2553.

[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

✅ Key points
- 韓国の6,548,784人を対象とした人口ベースのコホート研究により、糖尿病患者の骨折リスクは非糖尿病患者に比べ高いことが示された。
- さらに、すべての測定部位において、1型糖尿病患者は2型糖尿病患者よりも高い骨折リスクと関連していた。

[背景・目的] 糖尿病は骨折のリスクを高めると言われている。骨代謝に対する病態生理的影響は糖尿病のタイプによって異なるが、糖尿病患者の骨折リスクは非糖尿病患者よりも高いことが一貫して示されている。糖尿病患者の数が増え続けていることを考慮し、我々は大規模な集団データを用いて、この現象が実世界で有効であるかどうかについての最新の情報を提供することを目的とした。

[方法] 2009年1月から2016年12月までの韓国国民健康保険サービスの予防検診のデータセットを用いて、後ろ向き縦断研究を実施した。あらゆる骨折、椎体骨折、股関節骨折についてハザード比を算出し、糖尿病の有無と種類に応じて解析した。10,585,818人のうち、6,548,784人が解析対象となった(1型糖尿病[T1DM]の患者2418人、2型糖尿病[T2DM]の患者506,208人)。

[結果] 平均追跡期間(年)は、糖尿病なしの被験者で7.0±1.3、T1DMの被験者で6.4±2.0、T2DMの被験者で6.7±1.7であった。T1DM患者では、1000人年当たりのすべての種類の骨折の発生率が高かった。あらゆる骨折、椎体骨折、股関節骨折の完全調整ハザード比(HR)は、T1DMがT2DMよりも高かった(あらゆる骨折:1.37[95%信頼区間(CI):1.23-1.52]、椎体骨折:1.33[95%CI:1.09-1.63]、股関節骨折:1.99[95%CI: 1.56-2.53])。

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✅ 図. 追跡期間中の骨折の累積発生率(あらゆる骨折、椎体骨折、股関節骨折)

[結論] この大規模な集団分析では、糖尿病はすべてのタイプの骨折の高いリスクと関連していた。T1DM患者はT2DM患者よりもすべての測定部位で骨折のリスクが高く、股関節骨折のリスクが最も高かった。したがって、糖尿病患者に対する骨折予防トレーニングが望まれる。

▼ So What?:何が面白いと感じたか?

まず、1型糖尿病と2型糖尿病についての基礎知識を共有したい。

✅ 1型糖尿病と2型糖尿病の違い
1型糖尿病:インスリン産生自体が障害
2型糖尿病:インスリンはあるがその「抵抗性」が増大
詳細はこちら >>> site

僕はてっきり「2型糖尿病」の骨折リスクが高い、と思い込んだ。
理由はこうだ。
2型糖尿病は、生活習慣病による「全身の代謝系」の問題、だから骨折もしやすいでしょう。
1型糖尿病は、「糖尿病」だけの問題、だから骨折は関係ないのでしょう。と。
だが、実際には違かった。
1型糖尿病はインスリン産生の障害であり、そのインスリンが骨芽細胞を刺激するという病態メカニズムが存在していた(Terada, 1998 >>> doi.)。
つまり、思いっきり予測が外れたわけだ、股関節骨折に至ってはなんと2倍ほどの違いがある。

「食わず嫌い」という。
食べたことがなく、味もわからないのに嫌いだと決め込むこと。
だから、食べてみれば案外好きになるかもしれない、逆に言えば食べてないから嫌いとも言える。
勉強や知識の世界においては、「知らず嫌い」がある、と思った。
論文などをレビューしていても、タイトルの『2型糖尿病(Type 2 diabetes)』には敏感に反応するくせに、『1型糖尿病(Type 1 diabetes)』は完全にスルーだった。
それは、1型糖尿病がどちらかといえば希少疾患であることが大きな理由だと思う、「関係ないから!」というわけだ。
結果的に、僕の疾患に対する知識量の差も随分生じていた。
そして、そのことによって利用可能性ヒューリスティックが発生した。
この無知による利用可能性ヒューリスティックの発生が、「知らず嫌い」の病態だ(嫌いだから知りたくないのではなく、知らないから嫌いである)。

✅ 利用可能性ヒューリスティックとは?
1000以上の引用をもつ、非常に著名な研究がある。
この研究では、夫と妻それぞれに「家の掃除・整理整頓へのあなた自身の貢献度はどのぐらいですか?」と質問する。回答者はパーセンテージで答える。このほか「ゴミ出し」や「社交的な行事」などについても同様の質問をする。
夫と妻が答えた貢献度を合計すると、ちょうど100%になるか、それとも上回るか、下回るか。
結果は、貢献度の合計が100%を上回る。
仕組みとしては単純で、夫も妻も、自分のやっている家事は、相手のやったことよりはるかにはっきりと思い出すことができる。
この利用可能性の差が、そのまま貢献度の判断の差として現れるというわけだ。
このように、人間には頭に「思い浮かぶたやすさ」を「重み付け」として置き換えてしまうバイアスがある。
このバイアスは「利用可能性ヒューリスティック」と呼ばれる。
● Ross, Michael, and Fiore Sicoly. Journal of personality and social psychology37.3 (1979): 322. >>> doi.

僕が2型糖尿病を選んだのも、「知らず嫌い」によるものかもしれない。
知らなかったから、重要度が低いと認識した、無意識に。
今回の論文を抄読する中で、僕は1型糖尿病を少し知った。
知ることは、新たなチャンネルを構築することだ。
今後は、「1型糖尿病」を受信しやすくなることだろう。

「お前、また、時間が足りなくなったな。」
嬉しい悲鳴だ。
しんとした、
鼻の奥が痛くなるような凛とした空気の中で、
コツコツと勉強し続けたい
装飾的なことに費やしている時間は、もうない
copellist

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