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歩行中の視線。練習により前方へ移動

📖 文献情報 と 抄録和訳

足元を見るな。視線行動はターゲットステッピング課題の練習によって適応される

📕Cates, Alexander, and Keith Edward Gordon. "Don't watch your step: Gaze behavior adapts with practice of a target stepping task." Journal of Neurophysiology (2022). https://doi.org/10.1152/jn.00155.2022
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🔑 Key points
🔹人は、歩行に必要な視覚情報の利用方法を常に変化させている。
🔹しかし、何がこのような変化を引き起こすのか、また、サンプリングされた視覚情報が運動学習によってどのように変化するのかについては、十分に理解されていない。
🔹本研究では、被験者が目標歩幅の課題を練習することで、視線固定位置がより前方に移動し、歩幅誤差が減少することを見出した。
🔹この結果は、参加者が練習によってフィードフォワード運動制御戦略を用いるようになったことを示唆している。

[背景・目的] 視覚は運動学習において重要な役割を担っており、運動エラーを修正するためのフィードバック情報や、学習した運動計画に情報を与えるフィードフォワード情報を提供している。視線行動、すなわち固視位置の分布は、運動学習過程において視覚情報がどのように利用されるかを定量的に示すことができる。運動学習中や運動パフォーマンスの変化に対応して、視線行動がどのように適応していくかは、あまり理解されていない。本研究では、個人の視線行動がシーケンス学習、ターゲットステッピング課題中に適応するかどうか、またどのように適応するかを検討した。

[方法] 我々は、12名の健康な若年成人がトレッドミル上を歩行し、可変距離(好みの歩幅の80%、100%、120%)離れた移動標的を正確に踏むことを試みる間、視線行動をモニターした。参加者は102歩ずつ、計11ブロックの試行を行った。我々は、経験によって平均固視距離が増加し(参加者はより前方を見るようになる)、ステップの誤差が減少すると仮定した。

[結果] 被験者の固視距離は0.27±0.18歩(P<0.001)、踏み間違いは4.0±1.7cm(P<0.001)有意に増加し、仮説が支持された。

[結論] これら結果は、学習過程の初期において、参加者の視線行動はフィードバック運動制御に必要な視覚情報の収集に重点を置いていたことを示唆している。また、運動パフォーマンスが向上するにつれて、被験者の視線はより前方に移動し、フィードフォワード運動制御のための視覚情報がより重視されるようになった。これらの知見は、歩行パフォーマンスの向上と並行して視線行動がどのように変化するかについて重要な情報を提供する。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

「足元を見ず、胸を張って遠くを見てください。」

この口頭指示は、理学療法士から患者に対しての口頭指示あるあるのベスト10には入るのではないだろうか。
だが、この口頭指示は一律に善なのだろうか。
足元を見ること、遠くを見ることには、それぞれ違った役割があるのではないだろうか。
ミニレビューをしてみた。

✅ 足元を見ること、遠くを見ることの役割
■ 足元を見ること
・視聴者が地面に足を踏み入れる場所の近くに凝視することで、スイング肢の動きと正確な足の配置を導くことができる(📕Patla, 2003 (1) >>> doi.)。
・これらの近接固視位置が遮られたり無視されたりすると、足の配置がより不安定になり、姿勢の安定性が低下する(📕Koren, 2021 >>> doi.)
・障害物 (縁石など) の足のクリアランスが少なくなる(📕Timmis, 2012 >>> doi.)
・運動学習のフィードバック段階で活用されることが多いことが想定される(📕Cates, 2022 >>> doi.)
■ 遠くを見ること
・当面のステップと今後のステップを計画し、目的の目的地に向かって歩いていることを確認するために使用される(📕Patla, 2003 (2) >>> doi.)
・先を見る能力が取り除かれると、個人は、経路上の障害物を説明するために、単一の連続的な動きではなく、別個のセグメント化された動きを行う(📕Saeedpour-Parizi, 2020 >>> doi.)
・運動学習のフィードフォワード段階で活用されることが多いことが想定される(📕Cates, 2022 >>> doi.)

とくに注目したいのは『運動学習段階との関係』だ。
運動技能学習の3相説(Fitts)で考えると分かりやすい。

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🌍 参考サイト >>> site.

今回の研究では、この3相のうち「連合相」(意識を向けながら運動を修正・獲得する段階)「自動相」(連合相で獲得された運動が自動化する段階)へ移行するにつれて、視線が前方へ移動していく可能性を示唆した。
ここから考えると、一律に「足元を見ず、胸を張って遠くを見てください。」は必ずしも善ではないと思われる。
その使用が善になるのは、歩行の運動学習が自動相に入った後に限られるのではなかろうか。
運動学習の連合相においては、濃厚にフィードバックを得ることが大事になる。
その段階では、視線を無理やり前方に変移させることは、むしろFB情報を低減させ学習を阻害することも考えられる。

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そして、今回の研究によって示された重要なことは、視線の位置が練習によって変わることが明らかにされたことだ。
歩行の運動学習における連合相が済み自動相に入った段階で、この練習が必要になるかもしれない。
ただし、そもそも傷害からの回復段階で歩行を再獲得していく場合に、視線は歩行の回復とともに自然に前方に変移するものなのか、練習で変えなきゃならんものなのか、それは不明である。
リサーチクエッションの1つとしてストックしておく。

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