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完全閉じ込め状態の患者。最新技術でコミュニケーションが可能に

📖 文献情報 と 抄録和訳

聴覚ニューロフィードバック訓練による完全ロックイン患者の皮質内信号によるスペリングインターフェイスの実現

Chaudhary, Ujwal, et al. "Spelling interface using intracortical signals in a completely locked-in patient enabled via auditory neurofeedback training." Nature Communications 13.1 (2022): 1-9.

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar, Nature Japan

🔑 Key points
- 完全閉じ込め状態にある患者の脳信号から文字を解読するというコンピューターを使った意思伝達方法が実証されたことを報告する論文がNature Communications に掲載された。
- 今回の知見は、完全閉じ込め状態にある患者が、脳–コンピューター・インターフェース(BCI)を用いて言語コミュニケーションを行える可能性があることを示唆している。

[背景・目的] 筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者は、運動ニューロンの変性が進行すると、筋肉を使ったコミュニケーション経路をすべて失い、最終的にはコミュニケーション手段を失う可能性がある。筋肉が残っている状態でのコミュニケーションについては他の研究者によって評価されていますが、完全にロックインされた状態でも神経ベースのコミュニケーションが可能かどうかは、私たちの知る限りでは不明である。

[方法-結果] 本研究では、完全閉じ込め状態にあるALS患者(34歳、男性)の補足運動野と一次運動野に64個の微小電極アレイを2つ埋め込んだ。この患者は聴覚フィードバックに基づいて神経発火率を調節し、この戦略で文字を1つずつ選択して単語やフレーズを形成し、自分のニーズや経験を伝えることができた(1分間に平均約1文字の速度で意思伝達するための単語や語句を生成した)

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✅図. 実験のセットアップ。2つの微小電極アレイを前頭前野と上前頭回に設置した(挿入図、L:左中心溝、A-P:前方から後方への正中線)。増幅・デジタル化ヘッドステージは、経皮的なペデスタルコネクタを介して信号を記録した。神経信号はNeural Signal Processorで前処理され、さらにラップトップコンピュータで処理、デコードされた。 患者に対し、神経活動の聴覚フィードバックを与え、脳内のニューロンの発火率を制御することによりフィードバック音の周波数を標的音の周波数に合わせるよう指示した。ニューロンの発火率の変化が、所与の範囲の上限または下限において、250 msよりも長く続いた場合、それぞれ「はい」または「いいえ」と解釈された。また、この男性患者は、聴覚フィードバックに基づいてニューロンの発火率を調節し、自分のニーズを伝えるために単語や語句を形成する文字を選択することができた。

[結論] 本事例は、完全閉じ込め状態にある患者でも、脳を使った意志伝達が可能であることを示す証拠となる。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

人生の意味とは、自分がやりたいと思うことをすること。
今、沢山の人々が、生きるのをやめています。
この人たちは怒りもせず、泣きもせずに、ただ、時間がすぎるのを待っているだけです。

パウロ・コエーリョ

大前提として、自由に発言・行動できている人間にとって、完全閉じ込め状態は、想像だにできないだろう、ということは言っておきたい。
この考察に向き合ったとき、「どういう感じなのか、全然想像できない」と思った。類似の経験が、ないから。
以下、そんな人間が、少しだけ考えてみたことだ。

まず、ALSに代表される進行性疾患を罹病している患者にとって、毎日は「できること」を探す日々である可能性が高い。

どうしてもできないことがあっても大丈夫
だって できることが山ほどあるから

サム・バーンズ

スライド2

絶対に、絶対に、上記のTED talkは見て欲しい❗️
人生を変えられるはず、大袈裟ではなくて。
早老症(Progeroid syndromes)を罹病していたサム・バーンズさん、出来ないことがどんどん増えていく中、動画を見ていただければわかるのだが、驚くほど、陽気で明るい✨。
その秘訣は、できることに全集中し、できないことは考えていないから、だという。

だが、そのできることも、どんどん減らされていく。
そして、ついに意思疎通の手段のすべてを失った状態が、完全閉じ込め(completely locked-in)
その状態は、冒頭にも述べたが、想像だに出来ない。
少し類似するかな、と思ったことを述べる。
「ベルリンの壁」、NHKの番組でメルケル元首相の特集をやっていた。
旧東ドイツでは、徹底した言論統制が図られ、ベルリンの壁によって外界との意思疎通が極限まで制限されていたらしい。
その時の人民のストレスといったら、その壁が打ち壊された時の歓喜といったら、凄まじいものだったようだ。
人間にとって、外界に何もうち出せない、影響できないということは、生きるということの大きな部分が制限されることに等しい、そう思った。

今回の抄読論文は、満場一致で正しい技術の使い方だ。
完全閉じ込め患者にとってのベルリンの壁を打ち壊す、黄金のツルハシだ。
「自己帰属感」、自分がなした出力と外界の変化が一致すること。
そこにいる人に話しかける。その人が微笑んでくれる。
究極、生きるとはそういうことじゃないか?
リハビリテーションは、その生きる手段を増やす仕事じゃないか。
その手にツルハシをもて。
上に大きく振りかぶり、壁をぶっ壊そう!

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⬇︎関連 note(サム・バーンズ詳細)✨

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