関西弁のじぇんとるまん

お酒が入っていなくても笑い上戸な私。
嫣然にアハハッと、そして品よく振舞うのが理想だけれど、マイクをオンにしたままで、ギャハハハッと高笑いしてしまうこともあり、通行人に好奇の眼差しを向けられることもある。
『楽しそうですねぇ。こういうお店は、店員さんが明るくて賑やかな方が縁起がいいよ』
と言われたときは恐縮しきりだった。

頭に帽子をちょこんと乗せたおっちゃん。
『はい、こんにちは〜。お姉ちゃん、あれ、あれや、あれ、あれを貸して欲しいねん』
『あれ?あれって…なんですか?』
『あ〜あれや、あれ、あれ、』
おっちゃんが、言葉の出てこない自分自身に吹き出した。
その様子を見て私も笑ってしまう。

おっちゃんは、肩を揺らしながら哄笑。
笑いすぎて言葉に詰まりながら
『あれや、機械や、機械貸して欲しいねん』
こちらも笑いが止まらなくなり、言葉に詰まりながら
『えっ?機械?機械って…なんやねん?』
『お姉ちゃん関西か?』
『ちゃうで〜』ワハハハッ。
おっちゃんは笑いすぎて涙目になっている。
落ち着いたところで
『機械ってなんのこと〜?』
『数字選ぶアレのことや』
あ〜、それのことね〜
手のひらサイズで、数選式クジの数字選びに迷ったときに使う、電卓のようなものがある。
押すと、ランダムに数字が出てくるのだ。

カウンターに出しておくと、持っていってしまう人がいるので、普段は店内に置いてある。
『あんなぁ、ぼくは本気買いの日と、適当買いする日があんねん、今日は6日やろ?本気買いの日やねん』
『そうなんですね、知らんがなぁ』
ワハハハッ。
そんな調子で会話をしながら、接客していた。
帰るとき、おっちゃんは笑いながら
『それにしても…けったいなお姉ちゃんやなぁ』と言った。
『おおきに、ありがとうございました〜』
これが、おっちゃんとの出会い。

たまにおっちゃんが来ると
『今日は本気でっか?適当でっか?』と聞いてはまた笑う。
『なぜかな、適当に買う日の方が当たんねん』
おっちゃんはそんなことを言って笑い、機械を使いながら、たっぷりと時間をかけて数字を選ぶのだった。

ある日の帰宅時、駅でおっちゃんを見かけた。おっちゃんは自販機の前で飲み物を買おうとしているようだった。
ちょっと迷ったが『こんばんは!』と声を掛けると、
『おー、宝くじのけったいな姉ちゃんかぁ、これな、Suicaで買えるんやろ?買えへんねん、なんでやろなぁ』
『なんでだろうね、ちょっと見せて』
おっちゃんが手にしていたのは、WAONカードだった。
『これ、Suicaちゃうやん、WAONだよ、これじゃ買えへん』
『えっ?WAONやったか?じゃあSuicaはどこやねん』
『知らんがなぁ』駅でも、ワハハハッとなった。
おっちゃんが
『ちょうどええわ、大阪土産お姉ちゃんにやるわ』と言って、紙袋から出したのは、横浜名物、崎陽軒のシウマイだった。
『なんでやねん、これ、大阪のじゃないじゃん』
『ワハハハッ、2つ貰うたからな1つお姉ちゃんにやるわ、それと、これもや』
おっちゃんが、小さな箱を差し出してきた。
マイメロちゃんの横に「関西弁ばんそうこうセット」と書いてある。
『お姉ちゃんは笑いすぎるからな、それで口塞いどいたらええねん』
『なんでやねん』ワハハハッ。

その夜、崎陽軒のシウマイを食べながら晩酌した。
もらった絆創膏セットを開けてみる。
「いたいやん…」「どないやねん」「おだいじにやで〜」「めっちゃすきやねん」「ちゃうねん…ケガとかしてへんしな ほんまか?」「あかーん!なにしとん?」とプリントされた大・小の絆創膏が入っていた。
飄々としたおっちゃんを思い出し、お酒を飲みながら一笑してしまう。

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