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【恋愛小説】余命1日の花嫁(4489文字)

「熊谷さん、うちの娘と結婚してくれないか?」
「え?」
 急なことで訳が分からなかった。

「すまんすまん、娘が君のことがものすごく好きなんだ」
「は、はぁ…」
 自分は公園のベンチに座っているといきなりそんなことを言われたのだった。
 正直何がなんだかよくわからなかった。

「頼む、娘は余命があと少しなんだ。現代では解明されていない謎の病気にかかっている」
「え…?」
 とりあえず話だけでも聞くことにした。

「ちなみに娘さんの余命はあとどのくらいなんですが?」
「………。」
 黙ってしまったようだ。口を開くまで待つことにする。

「実はな、今日までだ」
「え!?」
 自分は目ん玉が飛び出そうになった。

「今日って言ったらもうあんまり時間がないじゃないですか!」
「そうなんだ。今は午前9時ぐらいだから余命はあと半日ちょっとしかない。とにかく急いでいるんだ! 早く娘に会ってくれ! 車は用意してある!」
 なんと公園の外にリムジンが用意されていた。かなりのお金持ちだということはすぐに分かった。

「僕行きますよ」
「助かる」
 とりあえず流されるままに自分ははリムジンに乗って病院に来た。

「娘は病室で寝ている。もうあまり時間もないので病室で結婚式を行うことにするよ」
「なるほど、急ですね」
「まあでも結婚式と言っても正式な結婚式じゃないから、あんまり気を張り詰めすぎなくてもいいぞ」
「分かりました」
 そりゃそうだ。婚姻届とか何も書いていないのだから。とりあえず形式だけの結婚式を行ったのだった。

「君か…」
「………。」
 僕のことが好きだという女性がベットに眠っていた。ものすごい美少女だった。

「ちょっと良いですか? お父さん」
「なんだ」
「娘さんはいったいおいくつなんですか?」
「18歳だ」
 これはとても若い。ちなみに自分は27歳でまさに社会などでは脂の乗っている歳だろう。
 だが無職だ。

「何で娘さんは僕のことを好きになったんですかね?」
「そうだな、それはワシにも分からん。娘は何で君のような者を好きになったのかね」
「はっきり言ってくれますね」
「ハハハ、すまんすまん。でも娘はいつも君のことを楽しそうに話しておったな」
 なぜだろうか? 自分はぜんぜんその美少女になにかをした訳じゃないのに。とりあえず室内での簡素な結婚式はなんやかんやで終わったのだった。
 もう気がつけば外も暗くなり始めていたのだった。

「お父さん僕はどうすればいいのでしょうか?」
「すまないね、今日だけはずっと娘のそばにいてやってくれないか」
「分かりました」
「娘の命は夜中の12時までぐらいかな。12時になったら私はまた来るよ。あとは二人だけの時間にしたい。娘もそれを望んでいるはずだから」
 美少女のお父さんは病室から出て行ってしまった。

「さて僕達二人っきりになっちゃったな。どうして君は僕のことを好きになったんだ?」
「………。」
 当たり前だが話しかけても何も返答がない。


 美少女はずっと眠ったままだ。とりあえず自分は美少女の顔をずっと見つめることにした。
 うわー髪がサラサラで綺麗、それにまつげがものすごく長くてくるんとしている。スッと鼻も通っていて 顔は整っている。まさに美少女だ。

「君、18歳だったんだね。こんな若いのに寿命があとちょっとしかないなんて可哀想だ」
「………。」
「でも本当にどうして君は僕のことを好きになったんだろう? 僕っていつも公園でなんとなくのんびりしているだけだよ」
「………。」
「できることなら君に寿命を分けてあげたいくらいだよ。君の未来は明るいかもしれないけど僕の未来は暗いんだから」
「………。」
「君みたいなのが本来はもっと生きるべきなんだよね」
 そんなことを眠っている美少女に向かって話しかけていた。そして刻一刻と美少女の寿命は尽きようとしている。
 ただ自分だけが一方に話しているだけだが、この美少女が好きだという気持ちが時間が経つにつれて増えていった。

「もうすぐ君とはお別れだね。僕も君と別れるなんて寂しいよ。まだ知り合ったばかりかもしれないけど、最後にお別れのキスでもしようか」
 もうあと残された余命は30分だった。自分は美少女にキスをした。その瞬間に美少女は目を覚ました。

「たけるさん…。」
「え? 起きた!?」
 ちなみにたけるというのは自分の名前だ。

「突然だけど、僕と君は今日結婚したんだよ」
「すべて知ってます…。私ずっと聞いてましたから…」
「じゃあ僕の話していたことも全て聞こえたの?」
「はい…」
 超恥ずかしかった。

「さっきたけるさんは私に寿命を分けてあげたいみたいなことを言っていましたね…」
「ああ、そんなこと言ってたね」
「そんなの私が許しません…。たけるさんは自分は生きていてもしょうがない人間だと言っていましたが…。そんなことはありません…。ゴホッ…。ゴホッ」
「大丈夫!?」
 美少女の背中を擦る。

「大丈夫です…。それよりも、私はたけるさんに生きていて欲しいのです…」
「どうして?」
「私はたけるさんを愛しているからです…。だから、自分は生きていてもしょうがないなんてそんな悲しいこと言わないでください…」
 美少女はそう言った。

「そういえば君の名前聞いてなかったね。名前なんていうの?」
「あいりです…」
「そうか、あいりちゃんか」
 なんて可愛らしい名前なんだろうと思った 。

「たけるさん、お願いします…。もう一度、私にキスをしてください…」
「わ、分かったよ。キ、キスをしよう!」
「死ぬまで…。私のこと愛し続けてください…。お願いします…」
 自分は一瞬黙り込んだ。だが、すぐに口を開いた。

「分かったよ、君を一生愛すよ。君のことを死ぬまでに愛するって約束する」
「私の寿命のことは知っています…。もう残り少ないんですよね…」
「全て聞こえてたんだね」
「お願いです…。12時になるまでずっとキスをし続けていてください…」
「分かったよ。だからもうこれ以上は無理しないで…」
 それ以上は何も言わなかった。そして長い間ずっと、12時になるまでキスをした。そして12時になる。

「あいりちゃん、うわあああああ!!!!」
 自分は彼女に抱きついて泣いてしまった。ガクッと力が抜けたのが分かった。


 あいりちゃんが死んで自分は泣いていた。程なくして彼女の父親もやってくる。

「いや、すまないね。娘の面倒を見てくれて」
「いえ、僕は何も出来ませんでした」
 あいりちゃんの体はもう動かなくなってしまった。

「まだこんなに若いのに早く死んでしまうなんて…。こんなのあんまりだろ…」
「熊谷くん…」
 2人でひどく落ち込んでいた。悲しみにくれていた次の瞬間だった。

「なんちゃってー! ドッキリ大成功!」
「………。え?」
「ど、どういうことだ…!?」
 そこには体を動かすあいりちゃんがいた。目玉が飛び出すんじゃないかと思うぐらいに驚いた。

「な、何で生きているのだ!?」
 お父さんの方も目ん玉飛び出すぐらいに驚いていた。お父さんと一緒にやってきた側近みたい人も目ん玉を飛び出すぐらいに驚いていた。

「現代医学では解明されていない病気なのにどうしてだ…!?」
「ふー! 体がかるーい!」
 次の瞬間にはあいりちゃんはベッドの上で 跳び跳ねていた。

「私、もうこんなに元気になったよ!」
 めちゃくちゃピンピンしていた。

「と、とにかく娘が生きていてよかった!」
 お父さんは胸を撫で下ろした。

「あいりちゃん、本当に生きていてよかったよ!」
 僕も泣いていた。

「私はこんなことじゃくたばらないよ!」
 なんか急におてんば娘みたいな感じになってきた。

「でもいったいどうしてだ!?」
 医者も聞く。

「きっとこれは愛の力なのかな」
「え?」
 彼女は急に愛の力が病気を治したと語るのであった。

「私はたけるさんにキスされて目覚めたの」
「熊谷くん、私がいない間にそんなことをしていたのか…」
「す、すいません」
 何か変な空気が流れる。

「そうなんだよね、12時になるまでずっと私のことをキスし続けてくれたよ」
「ちょっと熊谷くん…。娘になんてことを…」
「すいません! お父さん!」
 さらに変な空気が流れる。

「やっぱりどう考えたって私が生きているのはたけるさんの愛の力だと思うの」
「そ、そうか。とにかく生きてて良かったよ。熊谷くんとよくやってくれた」
「そ、そうですか。ハハハ」
 まあとにかく生きていて良かった。

「お父さん」
「なんだい、あいり」
「少したけるさんとお話があるから、2人だけにしてくれる」
「そうだな。熊谷くん、娘との話し合いは頼んだよ」
 そう言うとあいりちゃんのお父さんは病室から出ていった。

「さて、たけるさん」
「はい」
「………。」
「………。」
 今は2人だけの空間だ。時計の針が刻む音と心臓のドクドクした音が聞こえる。

「私、たけるさんのことが大好きです!」
「ほえー!?」
 彼女に抱き締められた。

「私、たけるさんのことは見た瞬間にビビっとくるものがあったの」
「え?」
「たけるさんを見た瞬間に身体に電流が走ったような感覚があったの。その日からは毎日公園に行って遠くからたけるさんのことを見ていたの」
「そ、そうだったんだ」
 次々と好きなった理由を話していくのであった。

「たけるさんが毎日公園のベンチで寝ころびながら本を読んでいるところを見て、自由な人で良いなと思ったの」
「全て見られていたのか、お恥ずかしい」
「本を読み終わったあとに遠くを見る眼差しはどこか知的でミステリアスな感じがしたの。それが本当に素敵で…」
「う、うん」
 とにかく自分はダメなやつだなと改めて思った。

「それよりもたけるさん」
「はい…」
「さっきの約束覚えてますよね?」
「え?」
 いったいなんのことだろうか?

「私のことを死ぬまで一生愛し続けてくれるって事ですよ」
「確かにそんなこと言ったような覚えがあるような…」
「それは死にそうになっていた時だけじゃないですからね。今も継続中ですよ!」
「え?」
「ちゃんと守ってくださいね!」
「で、でも。僕は無職で27歳のおじさんだよ?」
「それでも良いんです! 私はあなたじゃなきゃ嫌です!」
「ほ、本当にいいの?」
 こんな美少女と結婚出来たら幸せだろうなー。

「もう、そんなに私が信じられないんですか? じゃあこうしてやる! えい!」
「うわー!」
 そのまま押し倒されてキスをされたのであった。

「これで信じてくれますよね…」
「う、うん…」
 あいりちゃんはモジモジしながら恥ずかしがっていた。恥じらうあいりちゃんは可愛かった。
 そして自分はあいりちゃんを抱き締め返してまたキスをした。そして、そのまま2人は正式に結婚することになった。

……………………………………

結婚後、自分は無職をやめた。今はあいりちゃんのお父さんの会社を手伝っている。あいりちゃんとは相変わらず仲良くやっている。

「たけるさん!」
「なーに」
「一緒に良い家庭を築いていきましょうね! 子供も野球チームかサッカーチームが作れるくらい作りましょう!」
「ええ?」
 とほほ、こりゃ大変そうだ

「たけるさん、とっても愛してます!」
「僕もだよ、あいりちゃん!」

~おわり~

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