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選択肢が増えることは幸せではない、という話

最近の小学校では、課題提出やテストをオンラインで行う場面が増えつつあります。「どんなマシン使ってるの?」と聞いてみたら、Chromebook とのこと。

僕は仕事上、資料作成や UI 設計は Mac を使い、銀行業務はWindowsで行っているのですが、これまで Chromebook は使ったことがありません。家の共用マシンも、MacbookAir と Surface 。ここは一つ、興味本位で買ってみるかという話になりました。

ですが、結局買えずじまい...
まだ購入までたどり着いていません。

理由は、タイトルにある通りで、
「その購買行動で満足感が得られにくいから」です。

順を追って説明します。

Google 2021年に40機種のChromebookを投入

噂のChromebookですが、ざっくり調べてみることにしました。
すると、こんな記事がヒット...

Chromebook は2020年、世界で記録的な販売台数を達成した。学校政府が、リモート学習を支援する手ごろな価格のコンピューターを購入しようと対応を急いだ。そのような中で、2021年に新しいChromebookが登場する。

これは、今年2月に発表された Chromebook の動向に関する記事です。年内、新たに40機種の市場投入が予定されている、というもの。その背景には、公的機関での利用増があるようで、まさに需要がうなぎのぼりに増えているとのこと。

1478自治体がGIGAスクール構想で748万7402台の端末を調達したと回答。
OS別ではGoogle Chrome OSが327万8110台と、43.8%のシェアを獲得

特に、国内の学校向けマシンとして、Chrome OS は圧倒的なシェア獲得しているらしく、約327万台(全体の43.8%)が該当するという結果も出ていました。

この他にも、Chromebook についてのニュースはたくさんあります。本来、公的機関のマシンというとWindows一択だった気もするのですが、WindowsでもMacでもない、第3の存在として Chrome OS の存在が確立されつつある模様。

今後も、この流れは続くのだろうと思います。

一方で、「新たに投入される40機種」という記事を見たのちに、実際にChromebook を購入しようと試みたものの、僕個人の UX は、決して良いものではありませんでした。


同じような機種がたくさんありすぎる

実際に調べた結果がこちらです。

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「ん、178件?」
「あー、これは型落ち品とか含まれてるんだな」

そう思って、最新モデルから1つ選ぼうと公式ページを見てみました。

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「そうそう、そんなに多いはずないよね」
「8機種ぐらいかなー」

なんて、たかをくくっていると。
なんと「29機種」もありました...
これは、メーカーの好き嫌いで選べってことなのか?
仮にそうだとしても、同一メーカーでも同じような価格設定だし。
そもそもの違いがよくわからないし。

そして、2021年には新たに40機種が市場投入される予定。
ゾッとするわけです。

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↑例えば、上記は ASUS が展開しているラインナップです。
同じようなものが並んでいてよくわからない。

もはや、学校で使っているものを特定し、まずはそれを購入したほうが早そうな気もしてきたので、

「学校で使ってるのって、どれ?」

と息子にヘルプをお願いすると。

「んー、これの気もするけど、こっちかもしれない。いや、これかな。」

そんな珍問答の往復で、結局、機種を特定できない始末...
見事に「選択のパラドックス」にはまってしまったわけです。


選択肢が多いと人は選べない

選択のパラドックス
この言葉、どこかで耳にしたことがあるかもしれません。
どんなものなのか最初にお伝えしますと、ざっくりこんな概念です。

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何かを選択した時の満足度(幸福感)は、
その選択によって得られた結果 から、
他の選択を選んだときに得られた期待値を引いた残り。


つまり、
満足度 = 選択の結果 - ( 選択肢の数 × 期待値)

興味深いですよね...
本当なら、

・自分の好きなものを自由に選べる
・そういう選択を取れることは幸せだ
・そして、満足度が高いものになる

はずなのに。

実際には、与えられた選択肢の数だけ、満足度が下がってしまう
今回のケースだと、こういうことです。

「商品が無数にあると、かなりの情報通でもない限りフィルタリングがうまくできず、選択のリスクが取れない」

仮に、28機種ある Chromebook から、何かを拠り所に1つ選択したとしても、

「この機種もいいんだけど、本当は、悩んでいた向こうのメーカーを選んでいたら...もっとよい体験ができたかもしれない」

という考えがよぎるわけです。
まさに選択のパラドックス。
どうしてこんなことが起きてしまうのか?


選択のパラドックスについて

これは、アメリカの心理学者バリー・シュワルツが提唱したもので、彼の著書「なぜ選ぶたびに後悔するのか」に詳しく記載されています。

いくつものオプションが複雑に絡み合った意思決定では、どの点から見ても最高のオプションは存在しない。総合的にみて最高のオプションを選ぼうとすると、代わりに失われる機会コストが意識される。

オプションの数が増えると、選んだオプションよりなんらかの点ですぐれた特徴をもつオプションも増える。したがって、オプションの数が増えるほど、機会コストも膨らんでいく

機会コストが膨らむほど、後悔も膨らむ。

引用:なぜ選ぶたびに後悔するのか オプション過剰時代の賢い選択術 P.195〜196
オプションの数が増えるほど、じゅうぶんな情報を集めて、適切な判断を下すのは難しくなる。情報を集めるのがむずかしくなるほど、他人の判断に頼ることが多くなる。

〜中略〜

他人と比較しはじめると、それが度重なるにつれ、影響を受けるようになる。影響を受ける方向はマイナスであることが多い

引用:なぜ選ぶたびに後悔するのか オプション過剰時代の賢い選択術 P.237

意思決定の満足度。

少なくとも、その決定をしたのは他でもない自分なのに。
本当は、自信を持って誇るべきものなのに。

人は、無数の選択肢を提示されると選べなくなる。
内面に残るのは、後悔に似たマイナスの感情となってしまう。

著書には、もっと細かな考察が書かれていますが、時間のない方におすすめは、こちらの動画です。


この件から僕が得るべき教訓

今回の Chromebook の件で、僕は「選択のパラドックス」について思い出したのですが、これは、ここ数年、何かのたびに思い当たっていたものです。

コンビニでも、スーパーでも、レストランでも、洋服店でも、ショッピングモールでも、百貨店でも、そしてECサイトでも。

業種もさまざま。取り扱っている商品や点数もさまざまですが、
僕らはいつでも過剰な選択を迫られている気がするわけです。

それは、消費者に提供されるものが無尽蔵に増えていることを意味し、一見すると「選択の自由が与えられている」という望ましい光景なのかもしれません。

「自分にあった一番いいものを自由に選べる」

こんな、最高のシチュエーションなのに、何かひっかかるものがあります。

・他のメーカーはどうだろう?
・他者の評価はどうだろう?
・まとめサイトのレビューは?
・自分へのおすすめはなんだろう?

頭の片隅では、いつもこんなことを考えている。
そして、実際に商品を買うときに「選べない」ことも多くなってしまった。

選択肢の数だけ自由で良質な体験を得られる、ということにはならない。
それを意識しておかないといけない、そう思った次第です。

何も買い物だけではありません。
TED の中でシュワルツ氏の言っているこんなシーン。

ある日、子供のサッカーの試合を観に行った。
あなたはその間も、ポケットのスマートフォンや、膝の上のパソコンに気を取られている。仮に、これらの電源がすべて OFF になっていたとしても、

「もし、この電話にでなかったら」
「このレポートをチェックをしなかったら」
「このメールに返事をしなかったら」


自問自答を繰り返している。

例え、それらの答えが NO であっても、
我が子のサッカーの試合を見るという体験は、自問自答がなかっときとは違うものになっている。

判断が蝕まれる前に、
過剰な選択肢から目をそらし「身軽になること」が本来の自由なんだと、つくづく思います。


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