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過去と今をつなぐ糸


夕暮れ時、街角の書店の棚を行き来する人の中にウサギとカメの姿があった。参考書の日の今日、二人は記憶をたどり過去へと遡っていた。「数学が好きだったんだ」と、カメが静かに呟いた。「答えは一つ。それがどこか安心だった。数式の世界はいつも僕を裏切らなかったから」

隣でウサギが小さく笑った。「私は勉強は好きじゃなかったの。やらされる勉強は退屈なだけだったわ」 窓の外では夕日が街を柔らかな光で包んでいた。「でも、今は違うわ。自分で知りたいと思うことはちゃんと調べている。それが今の私」

ウサギは続けた。「偉人の伝記を読む意味も、昔は分からなかったの。他人と自分は違うと思っていたから」カメは頷いて、静かに先を促した。「今は誰かの生き方からでも、学べることがあると思えるようになったわ。心を打つ生き様をしている人を見つけたから」

「迷いながら歩む、生きてゆくその道を、優しく照らしてくれる参考書が、今の僕たちにもあるんじゃないかな。時には他人の言葉に耳を傾けること。それが助けになることもあると思うんだ」カメはそっと呟いた。

「教室で参考書を見ていた、あの頃の延長上に今の私たちはいるのかしらね?」ウサギの言葉は静かに二人の心に溶け込んでいった。外の景色はすっかり夜に変わり、街の灯りが一つまた一つと灯り始めた。二人はそれぞれの思索にふけりながら、過去と現在をつなぐ糸を紡いでいた。

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