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絶滅危惧茶はいかが?

夕暮れの二子玉川のアーケードを、ウサギは跳ねるように歩いていた。「これは私のためにあるようなクッキーだわ!」蔦屋書店の雑貨コーナーで見つけたクッキーを抱きしめながら、彼女の心は誰よりも弾んでいた。


桜のよこで本を読んでいるウサギのクッキー

「次はこれにふさわしい紅茶を見つけなくちゃね」ウサギは意気込んでライズ・ショッピングセンターの入口をくぐると、展示されていた盆栽の絵に真っ先に目を留めた。

「ここは何かのイベント会場かしら?」そんな疑問を抱く彼女のもとへ、可愛い店員さんが滑るように近づいてきた。店員さん曰く、「絶滅危惧茶はいかがですか?」

「絶滅危惧種茶って何ですか?」首をかしげるウサギに、店員さんが優しく説明した。「このお茶は、室町時代から富山県朝日町に伝わるバタバタ茶と言いまして、今では生産者がほんの一握りしかおらず、もうすぐこの世から消えてしまうかもしれません。それで絶滅危惧茶なんです」

「ここにある、すす竹で作られた茶せんで点ててからお飲みください」と店員さんは続けて言った。ウサギは言われた通りにお茶を手早くかき回すと、そっと茶碗に口をつけた。「これは飲むというより泡を食べる感じね。唇に触れる感触が何とも言えないわ」

ウサギはふと考えた。「さっきのクッキーとこの絶滅危惧茶、なんとも素敵な組み合わせね。紅茶もいいけれど、日本茶の奥深い味わいもまた魅力的だわ」

他の絶滅危惧茶も勧めてくれる店員さんとの会話は弾み、最後にお礼を言うと、ウサギは温かい気持ちでお店をあとにした。「絶滅危惧茶のことは、すぐにカメくんに教えてあげたいわ」と、彼女はひとり微笑みながらコートの襟を合わせ、駅の改札に姿をけした。

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