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ふしぎなたけのこ

その日、ウサギは駅へと続くいつもの道を軽やかに歩いていた。道の両側には若葉がきらめく木々が立ち並び、風が穏やかに吹いていた。彼女はその風に長い髪を揺らしながら、こんもりと繁る竹林に差し掛かった。

ウサギはふと足を止めて、竹林を見つめた。彼女の目の前のたけのこは、数日前に見た時よりもずっと大きくなっていた。「こんなに早く大きくなるものだったかしら?」と彼女は心の中で問いかけた。その小さな疑問は、静寂に包まれた竹林の空気に優しく抱かれ、そっと溶けていった。

こんなに大きかったかしら?

考えを巡らせたウサギは、駅に向かう前に図書館に立ち寄ることにした。館内に足を踏み入れるやいなや、彼女は迷うことなく絵本のコーナーへと向かった。低く並べられた書棚の間を縫うようにして、彼女は一冊の本に手を伸ばした。その本は松野正子さんの「ふしぎなたけのこ」だった。

ウサギは閲覧席にふわりと座り、ゆっくりとページをめくり始めた。物語は、山へたけのこを掘りに行く少年「たろ」の冒険を描いている。たろが掘り進めるうちに汗ばみ、脱いだ上着を偶然たけのこの上に掛けた。すると、そのたけのこは天まで届くほどに急激に伸び、驚いたたろはそのたけのこに飛び乗る。それが不思議な旅の始まりだった。

「そのあとの展開が意外なのよね」とウサギは小さくつぶやいた。物語の中で、村人たちは一致団結して、天を突くように成長するたけのこを切り倒すために奮闘した。彼らがたけのこに沿って進んで行った先にあったのは、想像もしなかった場所だった。

絵本を静かに閉じたウサギは、図書館を後にし駅へと歩を進めた。読んだ物語から湧き出る不思議な力が、彼女の心をほんの少し幸せで満たしていた。電車のドアが開く音と共に、「ありがとう」という言葉を心の中で静かに呟き、彼女は車内へ足を踏み入れた。

※ふしぎなたけのこ
松野正子・さく/瀬川康男・え/福音館書店


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