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読書メモ|キヤノン特許部隊

note559ぺーじ。 #日曜知財劇場 も兼ねているとかいないとか。

「キヤノン特許部隊」(丸島儀一)を読んだメモ。

まだカメラ専業だったキヤノンが、多角化を目指し普通紙コピー機事業を立ち上げる頃をメインに、同社の特許部門のはたらきが描かれる。製造業の特許部門がどうあるべきか。特許がどう活用されるべきか。

(知財制度についても。ここは20年前の本とあってベースの状況が古い)

書名どおりいちばんの読み応えの話題は特許のしごとのこと。その具体的なエピソードはコピー機の開発、巨人ゼロックスとの対立のことが目立つ。だがビジネス、人の話もあってこれは後に。

キヤノンの特許部門、丸島さんの特許のしごと
特許の取り方・使い方に関する考え、権利化業務、交渉業務。権利化業務は親しみあってわかりやすく、交渉業務は経験が少ない(とくに敵対的なもの)のでわくわくと読んだ。

「自社の事業を強くするために、相手が持っている有効な技術をもらうのが特許ビジネス」(p.83)

特許部門の一番の働きは。それは企業、事業それぞれであるが丸島氏は特許は「排他独占的に、誰にも真似させない、ライセンスも出さない」(p.78)ように使うのが本筋としつつ、現実的な解としてクロスライセンスを非常に重視されている。ただまるっと闇雲にクロスするのではなく、自社の事業のために適当なかたちをさぐる。その姿勢、実行の話がおもしろかった。

「特許担当者が開発の初期から完成まで同伴的に協働する」(p.32)

発明~権利化段階は、特許部門が発明の現場に入り込むやり方。現在では典型であるが、だからといって容易ではなく。その行動、楽しさ、効果には納得するも、精進せねばの思い。

本書は代理人についての話も多い。下記ゼロックスとも関係するが、海外代理人との関係構築は覚えておきたい。

「巨人」ゼロックス
コピー機は当時ゼロックスが大量の特許で技術を押さえ、市場を牛耳っていた。キヤノンははじめからゼロックスは突破すべき壁と意識しその特許をかいくぐるように技術開発を進めたわけであるが、キヤノンの事業活動が目立つようになってからは直接対立するようになる。

ゼロックスは、下記などする。
 ・NDAなしで情報をうまく聞き出す
 ・誤訳を利用して自社の権利を拡張しようとする(失敗に終わる)
 ・海外事務所との契約を妨害する
これらの中でキヤノン側が外国人(ゼロックス、弁護士)の対面スキルの巧さ、体力に舌を巻きつつ奮闘するのも見どころ。その経験を契約の見極め、代理人とのつきあいなどその後に活かしているのはお見事。

のちのハネウエルとの特許紛争で危険な契約を見抜くなども含めて見どころ多く、映画にでもできるのではと期待(?)するほど。

ビジネスのこと
特許とあまり関係のないところでのビジネスの話題では「シンクロリーダー」の失敗、「フィルムバーナー」が印象的だった。

後者は他社の一言が刺さり、それをコピー機事業に応用し、実行する、というドラマチックなお話である(数行だが)。

人のこと

「必ず技術をよい製品として出せる」(p.27)

採用では専門家がいないので外から連れてきた話。上の言葉は技術者にはぐっと刺さるのでは。育成に関しては、特許業務に絡まった技術部門の特許マインド啓発の話も。

知財制度のこと
第四章「何のためのプロパテントか」はまるまる、その他でもちょこちょこと知財制度について丸島氏の意見が述べられる。いまと状況が違う面もあるが、20年前の考えとして読むと興味深くもある。懲罰的賠償などいまの話題かというものも。

丸島氏が〈特許権侵害の厳罰化〉を望み、かつ〈訴訟は非推奨〉のスタンスなのはおもしろい。訴訟をばんばん利用するために訴訟の影響力を強めるのではなく、訴訟によらぬ解決を目指して交渉のカードとして使うために訴訟の影響力を強める。カードに威力がなくては交渉でも使えない。

(ちょっと話逸れて)
物からソフトウェア、標準化、懲罰的賠償、知財への注目の高まりなど、いまの話かと思うようなキーワードがぽろぽろ。
知財職の希望者が“非常に”増えているとも。「最近は人気がでてきた」と聞く最近とはこの10年ほどかと思っていたが20年近いのか

ゆるみどころ
本書は全体的に読みやすく、緩急の間合いも心地よい。ちなみに執筆は丸島氏本人ではなく福井信彦氏による。(取材・執筆・構成が福井氏。本書の著者は丸島氏となっており、著作権的にも目がいくところでは)

緩ではとくに3点。これが丸島氏の茶目っ気か、福井氏の技術かはわかりませぬが。午前零時過ぎのシェパード、アメリカのステーキとウイスキ、ドイツの弁理士の民家のような事務所の3点にはいいぐあいに緩みました。


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