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「読書感想文」犬とハモニカ

江國香織さんの川端康成文学賞 受賞作です。

たとえば、パスタを出すお店ならば「ペペロンチーノ」を食べれば、その店の実力がわかる、とでもいうくらいの、野蛮に強引な言い方をしてしまうとしたら。

この短編集は、その「ペペロンチーノ」だと思う。

江國香織さんの感覚や、言葉運びや、遊びや切なさの度合いという、基本的なセンス。
それが要所にちりばめられた、これを読めばおそらく、江國香織という作家のベーシックな語り口が垣間見れるのではないだろうか、と思うのだ。

私は定期的にそれに触れることで、
「あぁ、大丈夫だ」と、まるで運転免許証の更新のような安堵をおぼえる。

「犬とハモニカ」は、しばらく読んでいなかった。ふと、「私の本屋さんみたいな本棚*」を眺めていて、今欲しいものを手にとったのだった。

台風でこどもたちは休校になり、ここに居れば安全な孤立を、どこもかしこも灰色な1日をたっぷりと味わったあとの。
目覚めれば、色見本のようなスカイブルーの空と、はっきりとくっきりと何もかもを照らす黄金に、頭が痛くなるほど、ぼんやりと取り残されてしまっていたものだから。

優しくて濃い何か。

それは、それぞれの空港の「犬とハモニカ」の、豚のぬいぐるみにハムと名付けるセンスだったり、オリエンタルな湿った紙の匂いだったり。雑多でてんでんばらばらな景色。

あるいは、「おそ夏のゆうぐれ」の至さんの皮であったり。

「アレンテージョ」の、乾いた明るい陽射しと、ほとんどお湯のようにあたたまった水を飲んだような頃には、私の部屋にも西陽が射し込んでいた。


西陽。



三つ折りにつくねた、布団の上に、猫のように丸まって。目から入る光の量に、脳みそがびっくりして、緞帳を降ろそうとして。

家には夫も、娘たちもいたけれど。

猫と、私と。
似たような、小さな孤独を抱えて。

いわゆる、プライヴァシー、を求めて。


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*本屋さんみたいな本棚


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