古屋朋

詩人、言葉を綴る人。

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古屋朋について

はじめまして。 学生時代から日中の翻訳・校正をしつつ、詩を書いている古屋朋と申します。 ここにはわたしの活動履歴を記していきます。 Twitter Instagram ✦活動履歴✦ 2016.11.28 「ユリイカ」今月の作品「ひとつゆび」掲載 2019.5.27 「ユリイカ」今月の作品「とける海」掲載 2020.8.25 第一詩集『ひとつゆび』(書肆子午線)出版 shichigatsud.buyshop.jp/items/33246054 2020.12 「現代

    • pommeのうた 5

      毛に覆われたまるいものからなにかが生えている 茱萸(ぐみ)のような小さな欠片が五つ 大きいものがひとつあり、 その上に小さなものが四つならんでいる それが四本もあるので、 茱萸は十六個あることになる もちもちとさわると、 逃げるように引っ込んだ 喰んでもいいと思える足先は 今日も無防備に天を向く 腹を触ろうとすれば好き勝手にあばれ なにか意思を感じ取れる動きで たまにこちらの手をとらえようとする 体毛がまだ伸び切っていないからか、 幼い日からよく飛び跳ねていたからか、四肢

      • 《詩》白木蘭

        どうしてもあなたを認識できない 手を取ろうとしても いつの間にか霞のなかへ溶けている 強いまばたきのあとの ぼやけた世界のように けれどあなたはどこにでもいる 机に向かうときの背後 風呂場の隅 気付いていないだけ 時々姿をくらまして いるはずなのにいないという 探すわたしを取りのこし 月へと還ってしまってから もうどれくらいが経っただろう ひとり 夜空を見上げる 残寒の風をまとって木がゆれる 足元に落ちた花弁をひろいあげると ほどなくして先端から溶けた ほろほろとまるで春

        • Valeur 3 -taupe-

          あたりはひっそりとしている 空はやすらかに暗い 地平線に発光する線がみえる それは鳥居のようでもあって 扉の枠のようでもある 穴から這い出て そっと砂浜へ足を踏み出す つま先に感じるなにかの息づかい 砂のなかの命が ぷつぷつとこちらの世界へあらわれて こわくなって走り出す 草地に出た 大きな黒い塊が広い草地に点々とある 森だろうか 風にふかれて左右にゆれている 喉が渇いたので森の一つに入ってみる 想像よりも明け透けな木々の合間を縫って。 誰かが焚き火をした跡があり水はなかっ

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        古屋朋について

          《詩》雪と雷

          初雪が降る 遠くの峰々にかすかに積もり始め 半透明な幕が空から落とされたようだった 最近の寒さに慣れたと思っていたけれど さらに寒さは増していく 心で瑠璃鶲(るりびたき)が鳴いているような こまかに震えだしてしまう朝だ 白く色づいた山や道がとっぷりと沈む夜中 どこからか何か張り裂けたような音が聞こえた うっすら雷線がみえる また空が光り、先ほどよりも早く雷鳴がする 瑠璃鶲はひそかに震えだし 見えないところに隠れてしまった ・ 二つの実を持つちいさな小鳥は 羽根をぷるぷる

          《詩》雪と雷

          《詩》オーロラ

          腹に還れと言うあなたの 背中に北極星が泣いていた どうしようもなさの砂金のように しずかにひとつ泣いていた 犬が吠えている 赤く流れる渓谷に向かって 何かをそこにみたかのように 私の源が白い飛沫へと変わる 波に揺られて命が宿るように 月と川辺に座り 岩間からにじみ出る 透き通った赤を見つめている 目を細めた どこをみているのかはわからない けれど横に長引く目の真中にとらえた ひっそりと立ち こちらを見つめるあの獣を そっと地を蹴り暗幕のなか 消える姿を 犬が吠えている

          《詩》オーロラ

          pommeのうた 4

          手     手 手    手 手   手 手  手 手 手 手手 お湯が沸いた 鼻    手 鼻   手 鼻  手 鼻 手 鼻手 雨がやんだ 毛    手 毛   手 毛  手 毛 手 毛   手 毛手 おまえがわらった 古屋朋

          pommeのうた 4

          第一詩集『ひとつゆび』を出版するまでのこと

          はじめに 今これについて書かなければいけない、となぜか思ったので書こうと思います。きっと第二詩集出版のことや、第一詩集から第二詩集の間のこともまた別で書くかもしれません。 第一詩集を出版するまでのことを書くには、まず詩との出会いやいつから書き始めたのか、という部分は必要かと思うのでだいぶさかのぼりますが小学時代から語ります(長くなりそう!)。 詩との出会い、詩の力 確か小学四年生か五年生のころ、授業の一環で一人一つ詩を書くように言われました。 私が書いたのはさくらの花

          第一詩集『ひとつゆび』を出版するまでのこと

          Valeur 2 -lamp black-

          森から飛び出ると 空がどこまでも伸びていた 濃い色から薄い色へ変化していく空 何も纏わない真っさらな身体で 果てもなく広がる草原を行く 足先から草のやさしい声がする きらきらとわらい、物語を話している 走るぼくの身体を包み 透明な力で運んでくれる そうして遊んでいるとあたりは暗くなり 遠くにたった一つある灯がぼくを待っていた はじめ、その奥には何もないように思えたけれど 次第にある輪郭が見え出した 慣れてきた目に映し出されたのは、巨大鯨のひとみ 深い青を超えた色 小さな砂星た

          Valeur 2 -lamp black-

          《詩》再会

          いちどあたためた部屋で すこし窓を開けると入ってきた 足元をそっとなでられて かすかに顔の前を通りすぎた それは冬の到来 かれがもつ、やさしいてざわり 産毛がうっすら生えた皮膚に風が吹く それは冬の頬ずり かれの知るたったひとつの挨拶の方法 肺が痛くなるくらい吸いこんで 空に向かって吐きだせば ふんわりと浮かびあがって あたらしい季節になれる たった数日、雪が町をしろくすれば わたしたちがリセットされて やっとあたらしい季節になれる ふたりは手を取り合って また会えたこと

          《詩》再会

          pommeのうた 3

          こちらを振り向いた顔 出会った当初にはなかった、口元をゆるませて笑ったような表情が ここ数か月で板についてきた 小さな身体のおまえがわが家へきたのはもうだいぶ昔のようなのに まだ十か月ほどしか経っていない 空は曇っていた すこしだけ肌寒く私たちは早歩きだった 何度目かの再会でおまえを手に乗せてみる 重みを感じない気さえする かすかな暖かさと、やわらかな毛の感触 それとあまりにも大きすぎる、生きているという意識が ただ手のひらに あった ひと鳴きした か細くも力強い色をもった

          pommeのうた 3

          《散文》学びたいこと

          素敵なタグがありましたので、ふと思ったことを書いてみます。 第二詩集『てばなし』刊行時に、詩人の峯澤典子さんと対談をする機会がありました。 そのとき第一詩集『ひとつゆび』に関するお話もしたのですが、第一、第二詩集どちらのタイトルにも共通するのは「ゆび」や「手」だということ。 詳細はNoteにもまとめてありますのでご興味ありましたらお読みいただければと思うのですが、私は指先や手先というものに注目しがちな性質らしく。 最近、クラシックギターを学び始めました。これも確かに指を使

          《散文》学びたいこと

          Valeur 1 -black-

          あなたは見る、星がかくれんぼする空のすみかを あなたは見る、月と闇の地平線をさまよう幽霊を 暗がりに横たわる人の絵がある シーツの上に深い緑色の長い髪を一つに結えて こちらに背中を向けて身を投げ出している 家のなかだろうけれど どこかこの世ではない場所にもみえる 夜の森の奥 もう少し歩いていけば 月を湛える湖に辿りつけそうな森 神話もしくはいつかの夢のなかで出会った白馬の身体が 闇に大きく膨らんで見える森 空から差し込む光のほとんどを呑み込み 直感で歩いていかなければなら

          Valeur 1 -black-

          Valeurシリーズの説明

          ・「Valeur」シリーズについて・ Valeur(ヴァルール)とは、絵画の制作や鑑賞に関わる概念で、絵画上の空間において色の三要素「明度、彩度、色相」の関係性が正しく表されているかを指し示す程度のこと。 ヴァルールが合っていれば、たとえ平坦に色を塗っても立体感を表現することが出来ます。すべての色に対して言える価値観で日本語では「色価」とも言われます。 本シリーズでは、黒から白までのグラデーションのなかから著者が言葉を乗せたいと思った色を選んで詩を書きます。 今回の色をなら

          Valeurシリーズの説明

          《詩》今日も詩がかけなくて

          今日も詩がかけなくて どうしようもない一日にとけていた スマートフォンをてのひらにのせて ながれるきみの人生をみています いきの音を いきているこそばゆさのままを そのままを くれたことを 顔をかたむけてかんじています 公園でなんとなくしゃがみこんでいたぼくに 声をかけてくれたきみは ギターを無造作にもっていた 練習中だという曲を弾いて聴かせてくれた ここにいていいんだと ゆるされたようにおもえた あの日木々はゆれて あたりまえにみどり色だった なにげなく かべにつけた頬と手

          《詩》今日も詩がかけなくて

          《詩》何度目かのはじめまして

          いいよ、僕のことをきらいでも ほら夕空が美しいから いいよ、僕のことをいやになっても 今夜もベリルがきらめいているから 前世のきみが手を振っている 後ろには風に波打つ草原と星 今回もさいごまで生きてみるよ きみの波うち際に腰をおろして みなもがひろがる 思うがままに 手を振り返してみる 笑った瞳の、 あざやかな色に似ている鉱石を探して 途方もないくらい 何度でもするよ だって今夜も見えない場所から そっとささやかに 話しかけてくれるから 何度でもこの命をしてみるよ

          《詩》何度目かのはじめまして