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東京はいま|TOKYO NODE開館記念企画『Syn:身体感覚の新たな地平』

開業したばかりの東京・虎ノ門ヒルズ ステーションタワーでは、期間限定で体験型のダンスインスレーション『Syn:身体感覚の新たな地平』が上演されています。創り上げたのはRhizomatiksとELEVENPLAY。この場所で鑑賞する最先端のテクノロジーとアートのコラボレーションが、私たちに地球への共感を促していると思うのです。

 この秋に新しく開業した東京・虎ノ門ヒルズ ステーションタワーは、その最上層を「TOKYO NODE」という複合施設が占める。新しい街の一等地ともいうべきこの場所に、レストランや空中庭園だけではなく、ホールとギャラリーを設ける遊び心が今の東京を表している。オフィスやホテルはもう十分。こけら落としを担ったのはPerfumeの演出でお馴染みのRhizomatiks x ELEVENPLAYのコラボレーションだ。世界中を魅了するテクノロジーとアートの組み合わせが、東京の街に再び発信力を取り戻させることだろう。開幕初週から外国人の姿もちらほらと窺えた。

 タイトルは『Syn:身体感覚の新たな地平』。1500㎡ものスペースを使い、1ヶ月以上にわたって毎日17公演も開催される70分間のイベントを体験してみれば、私たちはダンサーに導かれて、奥へ奥へと歩みを進めることになる。そこでは客席と舞台との区別がなく、目の前で繰り広げられるダンスに圧倒される。これがまず一つ目の新たな地平だろう。物語は近未来的なラボの中で、異常を検知しながらも命を吹き込まれたアンドロイドたちが、外へ飛び出すところからスタートする。鼓動する球体は心臓なのか、分裂を繰り返す細胞なのか。いずれにしろ、プログラムだけで動作する代物ではないようだ。

 プロローグを終えると、3Dメガネが渡される。本編はたびたび現れる大型スクリーンの3D映像がダンサーたちと重なり合って、二つ目の新たな地平を感じさせてくれる。特に影の演出に驚かされる。これまでもRhizomatiksが得意としてきた、踊り手の影を自由に動かすアプローチが立体となって、より効果的に私たちの視覚を惑わせるのだ。ここは一体どこなのか。命を授かったアンドロイドたちは時にシンクロしながら、時にバラバラになりながら、伸縮する空間を旅していく。映像だけではなく、実際に動く巨大なオブジェクトがダンスを引き立てる。

 メロディーは無い。刻み続けられるリズムは、もしかすると最初の心音からつながっていたのかも知れない。それは大地の鼓動のように強く鳴り響き、アンドロイドたちにとっての同期信号として機能する。経済社会理論家・ジェレミー・リフキン(Jeremy Rifkin)氏は、近著『レジリエンスの時代』(集英社、2023)において、すべての生命にとってリズムが必要不可欠であることを述べた。それぞれが持つ生物時計が「内部活動パターンを調整し、地球の概日リズムや月周リズム、季節のリズム、概年リズムとの関係を同期させている」という。私たち地球上の生物は、地球のリズムの下で協調しながら生きているのだろう。

 リフキン氏が生命と地球との関係性としてもう一つ取り上げたのが、電磁場である。地球を包む電磁場は生物時計を正しく動作させるだけでなく、「それぞれの生命体のパターンと形を確立する「第一原因」かもしれない」。すなわち、私たちはこの地球に生まれたからこそ、今の姿かたちとなったのだ。会場内ではアンドロイドが、スクリーンに投影された虚像と共に踊っている。その形はどのように作られたものなのか。データを遺伝子として生成される映像は、ダンサーの動きを予測して自律的に動いている。もしも地球から電磁場が無くなってしまったらならば、私たちはAIでしかこの形を維持できないのかも知れない。

 次第に穏やかさを失いつつある光景に、アンドロイドたちは力を合わせて小さな結界を築く。あるいは魔法陣のようにも見えるその図形の中で、激しいダンスを続ければ、スクリーンに映り込む映像が逆再生を始めている。いつの間に撮影されていたのか、私たち自身の姿を見つけることもできる。いや、これが本当に録画された過去かどうかは疑わしい。AIが描く未来だという可能性もあるだろう。これまでのテクノロジーは記録し、保管したものを検索するばかりだったのだから、自分自身の映像を見せられればそれは過去だと確信する。しかしAI以降のテクノロジーはいとも簡単に未来を生成できる。そうやって、どんどんと地球のリズムからは離れていく。

 三つ目の新たな地平はエピローグ、1台のピアノが置かれた部屋で迎えることになる。美しい旋律に合わせて踊る一人のダンサー。しかしその姿はMRディスプレイを通さないと見ることができない。現実世界では機械仕掛けのピアノがただただ自動演奏を行なっている。人間はもう誰もいない。ディスプレイ越しに観るダンサーの踊りはとても美しく、どちらがリアルな世界なのかが分からなくなる。なるほど、私たちは岐路に立たされているのだ。このまま地球を見捨てて、テクノロジーに籠るのか。今一度、地球と、そこに生きる生物たちと共に戯れることを望むのか。

 アンドロイドを演じたELEVENPLAYのメンバーたちは統一された衣装を纏い、一糸乱れぬダンスを披露しつつも、髪型や髪色に個性が際立っていた。今回、距離が近かったからこそ、そこに目がいった。意図してか、意図せずかは分からないけれど、異なる一人ひとりが共創する様子が、テーマとなっている地球と生命の物語を補強していたように思うのだ。それはもちろん多くの人々が集まる街に始まる。ジェレミー・リフキン氏が言うように「進歩の時代」からの転換を加速させるのであれば、その震源地は東京であってほしい。だからこそ、この場所にホールとギャラリーが設けられたのだろう。最先端のテクノロジーとアートのコラボレーションが、私たちに地球への共感を促してくれると思うのだ。

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