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それでも僕が、海外の旅を求めてしまうのは

以前、ある人に、こんな質問をされたことがある。

「日本にも素晴らしい場所はたくさんあるのに、どうしてそんなに海外の旅を求めるんですか?」

そのとき僕は、海外が好きだから、と単純に答えたことを覚えている。

でも同時に、この答えは何か違うな、と感じたことも記憶している。

……僕は本当に、海外が好きだから、海外の旅を求めてしまうんだろうか?

確かに、僕は日本の旅よりも、海外の旅へ行きたくなることが多い。

もちろん、日本という土地でも、素晴らしい旅はいくらだってできる。

実際、日本の旅も大好きだし、日本にしかない旅の魅力も知っているつもりだ。

だけど、それでも海外の旅を求めてしまう自分がいる。

その理由を、うまく言語化することが長くできなかった。

でもようやく、それに気づく瞬間が、つい先日訪れたのだ。

つい先日、中東のカタールへ、サッカーワールドカップを観戦する旅に出た。

その最終日、試合の観戦もすべて終わり、ホテルをチェックアウトして、ドーハの街中を歩いていたときだった。

ふっと、世界遺産のアル・ズバラ遺跡へ行ってみたい、と思ったのだ。

ドーハから100km近くも離れた砂漠地帯にある世界遺産だ。

遠いだけでなく、タクシーでしか行けないので、たぶんお金も相当かかる。

だから今回の旅では、アル・ズバラ遺跡までは行く予定を立てていなかった。

でもこの最終日、このままドーハの街中を歩いただけで帰るのは、なんだかすごくもったいないような気がしてきたのだ。

どうしようかと考えて、すぐに答えは出た。

アル・ズバラ遺跡へ行ってみよう!

ドーハの青空の下、スマホのUberアプリでタクシーを呼び出した。

マップを見ていると、タクシーは近くの交差点に到着したようだ。……が、あまりにタクシーの数が多すぎて、どれが僕が呼んだタクシーなのかわからない。

そこで、停まっているタクシーの運転手さんに片っ端から声を掛けて、スマホの画面を見せた。どの運転手さんも、違うと言う。でもようやく、後ろの方に停まっていたタクシーの運転手さんが、笑顔で合図してくれた。

タクシーに乗り込むと、僕は英語の単語を簡単に並べて、運転手さんに説明した。

アル・ズバラ遺跡へ行ってほしい。そこを観光した後、またドーハに戻ってきてほしい、と。

運転手さんはすぐに了解してくれた。料金も往復で8500円ほどと、意外と安い。

ドーハの街中を抜けたタクシーは、茫漠とした砂漠地帯の中を爽快に走っていく。

パキスタンから移住してきたという運転手さんは、クリスティアーノ・ロナウドの大ファンで、ポルトガル代表の優勝を信じているという。

延々と続く静止画のような砂漠を眺めながら、運転手さんとワールドカップの話で盛り上がっているとき、ふっと思った。

今この瞬間の自分、なんだかすごくいいな、と。

そして、ようやく気づいたのだ。

きっと僕は、海外が好きなのではなく、海外を旅してるときの自分が好きなんだ、と。

たぶん、日本にいるときの僕だったら、100kmも離れた遺跡へ、当日いきなり行くことを決める決断力なんてなかっただろう。

タクシーの運転手さんに片っ端から声を掛ける勇気もなかったし、見知らぬ運転手さんと慣れない英語で盛り上がるコミュ力もなかったはずだ。

海外へ旅に出ると、いつもより勇敢で、どこまでも前向きで、不思議なくらい活動的な自分になれる。

それは日本を旅してるときの自分とは、明らかに違う自分だ。

海外という場の力が、日本で羽織っている衣を脱いで、素に近い自分の姿に返らせてくれる。

そんな自分に会いたくて、僕は海外の旅を求めてしまうのだ……。

もしも、最初に書いた質問を今受けたなら、僕はこう答えるだろう。

「海外を旅してるときの自分が好きだから、海外の旅を求めてしまうんです」と。

綺麗な景色を見たいとか、美味しいグルメを味わいたいというだけなら、日本の旅で十分だと思う。

そしてもちろん、日本だからこそできる旅の魅力もいっぱいある。

でも、あんなにも晴れやかに、不思議な力で溢れた日々を過ごせるのは、やっぱり海外の旅しかない。

海外の旅はいつだって、日本では気づけなかった自分の一面に出会わせてくれて、未来への微かな光を感じさせてくれる。

きっと、そんな自分に返る時間として、海外の旅は僕に必要なものなのだろう。

……アル・ズバラ遺跡からの帰り道、砂漠の向こうに、カタールの夕陽が沈もうとしていた。

来年もまた、僕は海外へと、新たな旅に出ることだろう。

心の底から、今この瞬間の自分が好きと思える、そんな自分に出会うために。

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