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発刊順:14 ブラック・コーヒー

発刊順:14(1930年) ブラック・コーヒー/麻田実訳

ロンドンの郊外に居を構える科学者エイモリー卿の邸は、異様な緊張に包まれていた。晩餐後のコーヒータイムに、卿が意外なことを言い始めたのだ。邸内にいる何者かが、金庫から極秘書類を夕食前に盗んだのだと言う。寛大な卿は誰とも知れぬ犯人に、部屋を暗くしている間に盗んだ書類をひそかに返すように命じた。が、再び明かりがついた時、卿はコーヒーに入った毒で殺されていた。そして、混乱のさなか、卿に緊急の調査を頼まれていた名探偵ポアロが到着した…大勢の前で卿の死を演出した大胆な殺人者とは?
ポアロ登場の、クリスティー最初のオリジナル戯曲。

ハヤカワ・ミステリ文庫の裏表紙より


イギリスはとても演劇がさかんなようで、クリスティーも数々の戯曲を書いている。
今作はクリスティーが書いた初めての戯曲。
長編と言えるほどの長さではないが、舞台で役者が演じていることを想像しながら読むと、とても面白く書かれている。

舞台はエイモリー卿の読書室。
第1~3幕の構成。

読書室に人が集まったり、出入りしたり、陰に潜んでいる者あり。場面場面で、観客の目を意識しながらのセリフが紡がれる。

エイモリー卿が毒殺されるシーンは、卿に毒入りコーヒーが渡されるまでに、なんと4人の人間がそのカップに触れているのだ。毒殺されたと分かった時に、一体誰の手にあった時に毒が入れられたのか!
目の前で観ていたのに…。とか。

エイモリー卿に呼ばれてポアロとヘイスティングズが到着した時には、卿はもう亡くなっているのだが、ポアロが捜査に乗り出し、ヘイスティングズのあまり深く考えずに話す言葉に、ポアロのひらめきが結びつくのはいつものパターンである。

ヘイスティングズとバーバラ(エイモリー卿の姪)との掛け合いなども、小説で読むよりも、舞台で観ると滑稽で笑いが起こる場面になるだろう。

「舞台」の部屋で、1分間だけ暗闇になり、音やセリフで何が起こったのかを想像させたり、観客の目の前で犯人のトリックが暴かれて証拠の品が出てきたり、劇場での楽しませ方が存分に練られた作品です。


HM1-74 昭和61年2月 第4刷版
2023年2月8日読了

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