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なぜ、今、公共空間に取り組むのか?


公共空間の再構築を目指す社会実験「WORK PARK PACK」

公共空間への再着目

Region Worksの仕事は、地域の戦略的な事業のデザインである。


どの仕事も、最初のタスクは、リサーチによって「地域の急所」を見出して適切な課題を設定することなのだが、そこで「公共空間の質の向上」が浮かび上がることが増えて来た。この傾向は、顧客の官民や地域の大小を問わない。数年前は、ビジネス開発や不動産企画などが多かったことから、グローバル資本主義からの社会や経済の変化を実感している。

再注目と書いたのは、約25年前にも公共空間に個人的に傾倒していた時期があったためである。

イタリアの広場やオースマンのパリ改造にかぶれた当時の私が、米国の大学院に出願した際の目的は「公共空間のデザインを学ぶ」であった。この意思は、阪神淡路大震災の衝撃とともに一旦は封印され、専攻は「官民連携と事業開発」に軌道修正されたのだが、その当時に米国での学習や実務で体得した感覚が、今、新しい形で再構築されている手応えがある。

当時読んで考えさせられた古典たち

都市のデザイン(エドマンド・N.ベイコン)
街並みの美学(芦原義信)
見えがくれする都市(槇文彦ほか)
建物のあいだのアクティビティ(ヤン・ゲール)
都市のイメージ(ケヴィン・リンチ)
Great Streets (Allan Jacobs)
人間のための屋外環境デザイン(クレア・クーパー・マーカス)
都市という劇場(ウィリアム・ホワイト)
居住環境の計画―すぐれた都市形態の理論(ケヴィン・リンチ)

Yerba Buena Garden, San Francisco, CA (1997)
修士論文やサンフランシスコ市役所インターンではSoMAに日参

Pioneer Courthouse Square, Portland, OR (1998)
メトロ勤務当初はライトレール車窓から毎日観察

公共空間からの地域の活性化

日本では、都市政策と経済政策が分離しがちであるが、両者を結ぶ鍵の一つに公共空間が位置づけられるのではないか? このような、公共空間の新しい役割や時代の変化を考えさせられた最近の話を2つ。

徳島県の神山町での対話

この記事の中で、敬愛する若林恵さんはこう話している:

「経済を動かすには文化だ」という話が最初の理念としてあったと。それは後付けですか? それとも何かきっかけがあって? というのはこういう言うと僭越なんですけど、僕もずっと、いろんな人に言ってきた話なんです。 … で、本当に聞いてもらえない(笑)。「計画はもう立たないから、自分たちのアセットをちゃんと育てていくんだ」みたいな話とか、「経済を動かしたかったら、文化を動かさないとダメじゃないか」というような話って。 (若林恵、黒鳥社/blkswn publishers)

神山町の「地方創生戦略」は、経済成長の幻想を横に置いて、健やかな未来をつくることに専念している。例えば、Food Hub Projectの「かま屋」は、民設民営の「公共空間」であり、短期的な利益よりも、食と農に関する地域内経済循環の促進を目指している。

Mad City Riga 2018での対話

StockholmのUrban Research & Design事務所であるSPACESCAPEのCEO ALEXANDER STÅHLEは、「Stockholmの住宅価値の90%は『歩きやすさ(walkability)』で規定される」との分析結果(slide p4)を踏まえ、都市の経済開発には公共空間が重要であると講演した。

都心の経済開発の鍵の一つは「歩きやすさ」を重視した都市計画である

この考え方は「天神まちづくりガイドライン」「天神明治通りグランドデザイン」「福岡都心再生戦略」「渋谷計画2040」など、これまで携わった幾つものプロジェクトのコンセプトであった。これが、部分的とは言え、データ分析で裏付けされたことは爽快であった。

日本での大きなうねりの中で

バルセロナやニューヨークなど、海外の都市で公共空間が経済を活性化してきた事例はとても多い。

一方、日本の都市では、小泉政権による都市再生の導入以来、民間再開発による経済活性化ばかりが目立っていたが、最近では公共空間の質の向上に関する実践が顕著に増えており、国内地域のテーマとして公共空間が重要になって来ている実感がある。

私の身近なところでは、福岡市が進める「天神ビッグバン」の最初の引き金となったのは「水上公園」の再整備であったし、渋谷駅周辺の都市再生においても再開発に合わせた広場や水辺空間の整備が進んでいる。

水都大阪」や「水の都ひろしま」に続く水辺の活用を国交省がミズベリングで応援するようになり、国家戦略特区やPark PFIなどの制度も拡充され、「福岡市水上公園」や「南池袋公園」は視察が引きを切らない。

豊島区南池袋公園

このようなうねりを感じつつ、渋谷川沿い河川空間「渋谷リバーストリート」での社会実験「WORK PARK PACK」を開始した。日々、順調に課題だらけだが、とてつもない可能性を感じている。

2019年2月28日、ミズベリングフォーラムの後、社会実験開始前夜


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