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ストーリーとしての食事

自粛期間中に家族でアマゾンプライムビデオをよく見るようになった。その中でもハマっているのがグルメアニメの『美味しんぼ』である。

『美味しんぼ』といえば、架空の東西新聞社の文化部にて、山岡士郎と栗田ゆう子を主人公に、食に関する騒動を描いた日本を代表するグルメ漫画である。

その中で、「直火の威力」という中華料理屋のチャーハンにまつわるエピソードがある。チャーハンが下手な料理人に対して、料理の知見が豊富な山岡士郎が自ら厨房に入り、料理人にチャーハンの炒め方を教えるのだ。

山岡士郎曰く、チャーハンとはフライパンを大きくふって、米粒が中を舞う中で、直火に触れて油が焦げ落とされて、米粒一粒一粒がパラッとして独特の香ばしさを醸し出すのであって、直火に触れないチャーハンはベタッとして、米粒がくっつきあって美味しくないと。

そんなウンチクを聞きながら、アニメとはいえチャーハンが出来上がる様子を見ていると美味しいパラッとしたチャーハンが食べたくなってくる。私だけでなく家族の脳内もパラッとしたチャーハンに占拠されたようだ。

そうなると週末に家族で中華料理屋に行こうとなるのは自然な流れであった。

☆☆☆

『美味しんぼ』の直火チャーハンに脳内を占拠された状態で、週末に近所の中華料理屋に家族で行った。有名店という程ではないが、食べログでも好評な地元にある焼きそばが名物の老舗家庭中華料理店だ。

野菜炒めと餃子を前菜に、名物のソース焼きそばと今回のメインディッシュである五目チャーハンを頼んだ。

餃子、青菜炒め、焼きそばと出てきて、順番に食していく。とっても美味しい。この価格でこのクオリティーなら大満足だ。

いよいよ待ちに待ったチャーハンの番だ。俺たちの脳内をずっと占拠していたパラッとした香ばしい直火チャーハンだ。

念願のチャーハンについにご対面。

ついに会えた。

家庭用のコンロの火力では再現が不可能なパラッとした香ばしい直火チャーハンだ。よーーし、食べる。

もぐもぐ


ん??


パラッとしてない。

そこにあったのは脳内を占拠していたパラッとした直火チャーハンではない。明らかに米粒が直火の上を舞っていない。『美味しんぼ』の中で料理人が散々怒られた互いの米粒が仲良くくっつきあってブロックになっているベタッとしたチャーハンであった。

こんなチャーハンを作ろうものなら激怒した山岡士郎が厨房に乗り込んできて、「チャーハンっていうのは鍋を揺すって、中を舞う米に直火が触れて、油を燃やしてパラっとするんだ。直火をぎょする強い心がないなら辞めちまえ」と説教タイムが始まってしまう。

家族全員で、思っていたのと違うチャーハンを食べながら、チャーハンの味については店内では触れず、アイコンタクトによる無言の会話を交わした。

そのお店はチャーハンが違っただけで、焼きそば、餃子、野菜炒めは十分美味しい。店は悪くない。チャーハンだけが悪い。

なんとも言えない空気の中、会計を済ませ家路についた。

帰宅後に、冷たい麦茶を飲みながら、『美味しんぼ』の山岡士郎とできの悪いチャーハンの話題で会話が行われる。

「もしかして、『美味しんぼ』によって期待値が上がりすぎていて、それに見合わなかっただけで、何も考えずに行ったら美味しいのかも。美味しんぼを見ちゃったのが悪かったのかなぁ」

「いや、ベタベタのチャーハンと一緒に化学調味料が口の中を踊っていた」

「あれなら俺の方がうまくできる気がするからやってみようかな」

たまたま見た『美味しんぼ』のチャーハンを起点に家族の会話は弾んだ。チャーハンの出来が悪かったが、これだけ食事を楽しめるってスゴイことだと逆に思えてきた。

ストーリーがあると食事はもっと楽しくなる

最近、「何事にもストーリーが必要だ」みたいな話をよく聞く。

会社の商品やサービスでも差別化が難しい場合にストーリーが求められるし、同じぐらい儲かりそうな投資案件があればストーリーが面白くてワクワクする方に投資は実行されるだろう。

逆に言えば、人間はストーリーのないものは楽しめない。

食事においても店選びや食べる料理にもワクワクするようなストーリーがあった上で、それを共有した者同士が同じ食卓を囲むとその食事にはプレミアムが乗っかってくる。期待どおりであれば話は弾むし、期待はずれであればそれを肴にまた食事をすればいい。

食事を最高に楽しい時間にするために、食事に至るストーリーも一緒に作り込んでみてはどうだろうか。

食事を楽しくできるストーリーが創れるようであれば、仕事においても商品・サービス設計にストーリーを乗せることができるだろうし、投資家を魅了するストーリーのある事業計画だって創れるようになるだろう。

まずは一番身近な食事から意識してみてはどうか。

アマゾンプライム会員(30日無料体験あり)の方は、定番の『美味しんぼ』でも最近の『ワカコ酒』でも好みのものを見つけた上でぜひ試してほしい。

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