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【満員御礼】短編パルプマガジン【千客万来】

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ぼちぼち書いてきた短編たちです 面白いですよ ぜひご一読あれ
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銃(ガン)とサーカス

銃(ガン)とサーカス

 長い長い廊下、その闇の中を歩む。ひたすらに。

 闇は好きだ。心が休まるから。静寂があればベスト。 
 今日の相手は誰だっただろうか。ここ最近、相手の顔や名前が覚えられなくなっている。戦う前も、戦ったあとも、だ。なんというか、印象に残らない。良くない傾向な気がする。僕にとっての戦いが、「特別なもの」ではなくなっているってことだ。

 歩み続ける先、闇の出口が近づいてくる。

 僕は懐から「仮面」

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『お肉仮面』 #第三回お肉仮面文芸祭

『お肉仮面』 #第三回お肉仮面文芸祭



 そいつに出会ったのは、部活帰りの夜道のことだった。

 部活帰り、コンビニで晩飯前の栄養補給をすませ帰りのバスを待っているときのことだ。何かに見られている妙な感覚を覚えて、俺は後ろを振り返った。
 夜道を照らす街頭の下、そいつは静かに立っていた。背格好や服装はいたって普通だった。だけどそいつの顔は鼻も口もなかった。生肉を貼り付けたかのような模様の顔面に、真っ黒い穴が二つ空いていた。
 「こ

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駆け抜けろ 性の六時間 #パルプアドベントカレンダー2023

駆け抜けろ 性の六時間 #パルプアドベントカレンダー2023

 コンビニエンスストアー、ファッキンマート佐賀致死ヶ崎駅前店の時計が8時を示したのと、同店のバイトである八ツ裂キふわりが襲撃してきたメカヒュドラの首をもぎ取り、煮えたぎるおつゆで満たされた業務用おでん鍋に叩き込んだのは、ほぼ同時の出来事だった。
 もがれてなおうごめくメカヒュドラの口から、致死性の化学物質が漏れ出した。おでんつゆが、名状しがたい色に染められていく。
「オ、オノレ! コンビニバイト風

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戦争の最果て #逆噴射小説大賞2023

戦争の最果て #逆噴射小説大賞2023

「貴様らは死ぬ。だが正しき時と場所にて死なねばならぬ。祝福はそこにこそあると知れ」
 教主様の御言葉を拠り所として、俺たちは赤い泥濘の中に腰まで浸かりながら歩く。灼けた泥と鼻をつく悪臭が、容赦なく俺たちを削り取っていく。魔導機兵に乗っている連中が羨ましくなる。空調の効いた棺桶の中は、死ぬのに相応しい場所かどうか怪しいというのに。
 閃光。
 二機の魔導機兵が爆散した。続いて隣にいたジェドが音もなく

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神饌を供す #逆噴射小説大賞2023

神饌を供す #逆噴射小説大賞2023

 尾頭さちと尾頭さえの姉妹は巫女装束に身を包み、深々と平伏して待っていた。部屋の寒さに、吐く息が白く染まる。遠くで鳴り続ける鈴の音が、耳に届く唯一の音であった。
 彼女らの前には一本の包丁が置かれ、さらにその前には純白の布地が広げられている。布の上には、一糸まとわぬ姿の女性が寝かされていた。
 少女というのがふさわしい女性の、それは死体であった。

 鈴の音が消えた。姉妹の体がわずかにこわばる。

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大決戦! アクズメさんVS深海潜神教団! #AKBDC2023

大決戦! アクズメさんVS深海潜神教団! #AKBDC2023

「ウナーギッギッギッギ!(笑い声) 恐れ入ったか、下等な人類どもめウナ。我等、深海潜神教団Ku-EELーulhuの神域を汚した罪、万死に値するウナ! そもそも、あのような醜悪きわまる鋼鉄の塊に頼らねば海を渡れぬその脆弱さ、正視に耐えぬおぞましさウナ!」
「「「「ウナーギッギッギッギ!(笑い声)」」」」

「うわっ?! いきなりなんなんだお前ら! あっやべ、ちょっと汁こぼしちまった。洗って落ちるかな

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古書専門店”アグ・マグル”における、とある日の出来事の記録

古書専門店”アグ・マグル”における、とある日の出来事の記録

 店に入ってきた男を目にした老店主は、我知らず口笛を吹いていた。
 濃緑色のローブに身を包んだその男は、無数の書籍が整然と並べられた書棚の間を音もなく歩み寄ってくる。老いてはいるが、ずいぶんな長身の男であった。店のカウンター越しに店主の目の前に立つと、昏い瞳で、店主の顔を見下ろしてきた。その間、男は一言も発さなかった。
 店主は男の視線を正面から受け止めると、やがて苦笑した。 
「旧友よ。久々の来

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老人と犬、ところにより廃墟 #むつぎ大賞2023

老人と犬、ところにより廃墟 #むつぎ大賞2023

35年と118日。

「ここにしようか。おいで五郎丸」
 その日、老人が指さしたのは、かつて地下鉄と呼ばれた交通機関、しかし今となっては日の光届かぬ深い地の底――地下迷宮物件と成り果てた場所の入り口であった。
 五郎丸は応えるように一声吠え、階段を軽やかに降りていく。数段降りたところで老人を振り返り、追い付くのを待ち構える。五郎丸は尾を左右に振りながら、進んでは待つことを繰り返す。
 対して老人は

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【習作短編】雪と月と桜の夜に、僕は君を殺めよう

【習作短編】雪と月と桜の夜に、僕は君を殺めよう

 如月の夜。粉雪舞い散る山道を、一人の少年が駆けている。
 彫りの深い顔つき、均整の取れた肉体。それらが秘める若さ、瑞々しさ、そして荒々しさを、詰襟の学生服で無理やり抑え込んでいる……そういった風情の少年は、名を雪代氷衛といった。
 氷衛は荒く息を吐きながら山路を駆け上がる。癖のある黒髪が揺れる。舞う粉雪が、氷衛の息に当てられて姿をなくしていく。
 風が舞う。粉雪が風に煽られ、不規則に舞い踊る。氷

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cybernetic heart "MOTHER"

cybernetic heart "MOTHER"

 高層ビル骸の隙間から覗く漆黒の空の下、制服姿のアイミはひたすらに歩き続けていた。彼女が歩を進めるたびに赤黒い泥が跳ね、白すぎる足とスカートが穢されていく。彼女はそれを意に介した様子もなく、淡々と歩を進めていた。
 アイミは前方に視線を向け、幾度目かの簡易スキャンを試みる。対象は、ビル骸の中にそびえ立つ無骨なシルエット。
 アイミの眼が、微かな電子音とともに明滅する。
 網膜ディスプレイに現れたデ

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しなやかな不死

しなやかな不死

 二度のまばたきとともに意識を取り戻した猫は、体を震わせつつ立ち上がった。辺りを見回す。どうもほの暗い部屋の中にいるらしかった。
 ふと、腹のあたりに違和感を覚えた猫は、咳き込むようにしてその違和感を吐き出そうとした。
 一つ、二つ、違和感のもとが音を立てて床に落ちた。二発の銃弾だった。
「なんだ」
 音に反応して、部屋を立ち去ろうとした男が振り返った。大柄な、黒づくめの男だった。男は猫を見下ろし

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竜の天蓋、エーテルの海、そして月へと至る道 #むつぎ大賞

竜の天蓋、エーテルの海、そして月へと至る道 #むつぎ大賞

 その日の勤めを終え、定宿である『赤蛙亭』へと戻った魔術師ミゴリスは、二階にある自分の部屋の扉に手をかけた途端、小さな小さな違和感を覚えた。
 扉には封印呪法を施してあった。三十六層極小方陣術式からなるそれは、他者の侵入を決して許さない魔法の錠前である。ミゴリス自身が組み上げ、彼以外に破れるはずがないと確信を持って断言できる、唯一無二の術式だ。
 ミゴリスは濃灰色のフードを目深に被り直すと、扉に触

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『血の兄弟』の終焉

『血の兄弟』の終焉

「ちっ……なんだってこんな朝っぱらから呼びつけやがるんだ。しかも今日は、半年前から楽しみにしてた電子パルプ・マガジン『無数の銃弾:vol.5』の発売日だってのに」

 無駄に広い邸宅の無駄に長い廊下を歩きながら、カルロはそうひとりごちた。はっきり言って気が重い。相当にだ。これから彼が会う相手は、可能であれば顔を合わせたくない相手だからだ。
 廊下の突き当りにたどり着く。無駄に威圧的な用心棒に視線を

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遠山キナコの太く短い伝説

遠山キナコの太く短い伝説

 S県立斎賀東高校2年A組に在籍する女子高生である遠山キナコは、それはもう、ごくごく普通の女子高生であった。学力も「ふつう」、運動能力も「ふつう」、容姿も「ふつう」、性格も「ふつう」。どの指標でもおよそ平均値(これが「完璧な平均値」であれば、それはそれで彼女の「特別な」個性と言えたかもしれないが)の、どこにでもいる女の子。それが遠山キナコである。
 そんな彼女が生まれて始めて金槌を手にしたのは、高

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