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(7) 流通革命と交通渋滞減少作戦、始まる(2023.11改)

品川区、大田区、目黒区の3区の区長とPB Mart社長の平泉 里子の4人が、4箇所をつないでネット会見に臨んだ。大田区に隣接する区向けに、ドローンを利用した配送サービスを行なうと発表した。案内が流通関係者とメディアに事前に届いていたのと、誰でもアクセス可能な会見なので、昨今の会見の中では最大の参加者数となった。

従来のネットスーパーはトラック等の車両配送に依存しているが、PB Martが3区内で始めるネットスーパーは、全てドローンが配送する。但し、契約書での合意が必要で 事前審査が必要となる。ドローンが離発着出来るスペースの有無の事前審査に、相応の時間が割かれる。様々なNGケースがあるが代表的なものとして以下のようなものがある。

・普段は駐車場なのに車両を公道に出してドローンを離発着させるのは、道路交通法に触れるのでNG。

・マンション等の集合住宅の屋上や敷地内の空きスペースを利用する際は、管理組合の合意が得られた集合住宅のみが利用できる。

・血縁関係者であっても、隣近所であっても申込み登録時以外の本人居住地と異なる場所への配送は出来ない。

・到着時間は事前に本人に案内するが、受取人が必須。

・ドローン搭載重量は40キロまで。

等々の制約事項があるので、全てのお宅が利用できる訳ではなく、限定した方への提供となる。
事前にホームページに注意事項を案内していたが、大井ふ頭のオフィスに届いた多くの申込みの3割はNGとなった。それでも、仲の良い家同士で共同配送するケースも全体の2割を占めており、ある程度のお宅のカバーは出来たようだ。

3区内の上空は羽田空港を離発着する航空機のコースがあるため、ドローンもある程度迂回せざるを得ず目的地までー直線で飛べないのだが、車両を使わないので渋滞による遅延は生じず、予定時刻通りに届くと喜ばれ、次第に利用者が増えてゆく。

このネットスーパー事業は、医療遠隔サービスの実施を東京都に促すためのアピールを兼ねていた。医療遠隔サービスとは、ドローンに搭載されたPC画面を介して医師が患者を診断するサービスで、コロナ感染者需要増による医療施設と関係者の負担を軽減するもので、東京都議会を始め、富山県以外の県で導入の検討がされていた。

「羽田空港がある大田区で飛行認可されているドローンが、なんで三多摩地区では駄目なのですか?」

「東京都医師会が早くやろうって言ってるのに、何を躊躇してるんですか!」
と、知事や都の幹部たちは野党議員たちの集中砲火を浴びる議会となっていた。

富山県以外は興味津々で東京都議会のライブ放送を見学し、他県の状況を様子見の県と「すぐやろう」と導入に動き出す県が出てくる。
他県が続々と予算化に動き出すと、先行され後発組にカテゴライズされた東京都に対する都民の批判の声が高まり、知事解任の動きが加速する。
都議会内の与党都民セカンドの議席数だけでは解任決議案を阻止できない。自民党系が敵に回っている現状では外堀まで埋まった格好となった。
モリが補選当選した同じ日に再任された知事は、2ヶ月弱で解任確定となっていく。

モリが質疑を問う機会も無く議会が進行したのに、知事を退ける主犯格のような扱いを受けていた。
発言してもいないのに内閣倒閣劇に続いての第二幕も達成した、と勝手にモリの業績の様に書かれ、「令和の壊し屋」というフザケた2つ名を貰い、議場で書き込んでいる姿が度々報じられると、あのノートはデスノートだとSNSで書かれて拡散するようになる。

「黒幕みたいな言われ方をされており困惑しています。逆恨みされて 私や家族が狙われるのは勘弁してほしいですね。二度目の襲撃がもしあるとしたらの話ですが、相手は徹底的に準備する筈で我々が生還できる保証は無いでしょう」

と、その日の議会が終わったぶら下がり会見で発言すると、その手の書き込みや投稿は減ったらしい。実際に一度狙われたので 洒落にならないと悟ったのだろう。

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都庁から議員事務所のある新宿オフィスに戻ってくると、時間は18時過ぎで1階のミニスーパーと2階のジムが賑わっている。界隈と異なる人の密度に心配になる。2階は社員達なので良いとしても、ミニスーパーは入場制限した方が良いかもしれない。
ママさん3人は保育園から帰った美帆と共に既に大森の家に向かっている。仕事も残っているし、今夜は事務所で泊まるかもしれないので、夕飯は不要とは伝えてある。
事務所に入ってスーツと靴を脱いで、朝着ていたTシャツ、トレッキングパンツとサンダル姿になり、着ていたシャツを畳んでビニールに入れる。これで都議としての業務終了となり、タダ働きの時間となる。20時で閉まってしまう前に、1階へ降りてミニスーパーで弁当とビール6缶を買ってくる。

再び事務所に戻り、昨夜のブルネイ大使との会談時に聞いた、ブルネイ王室からの要請内容の報告書作成の続きを始める。

富山本社の太陽光発電チームと情報共有し、乾期が始まる来月10月中旬以降でボルネオ/カリマンタン島の視察団を航空自衛隊の支援を仰いで纏める必要がある。同じく乾期入りするタイ東部、カンボジア西部の王族領有地も確認する必要がある。
ブルネイ王国とマレーシア、サバ州・サワラク州のあるボルネオ/カリマンタン島の北部では、石油が採れる。海底油田と島内の油田で太陽光発電を合わせて行ない、近い将来に枯渇する油田の代替資源とすべく新事業として立ち上げたい、とブルネイ王室とマレーシア政府は考えているようだ。

マレーシア大使とインドネシア大使が夕食会から参加したのも、同じ島内での開発に太陽光発電と農業支援を必要としているからだ。
インドネシアは首都をジャワ島ジャカルタから、ボルネオ/カリマンタン島南部に移転しようと計画している。
カリマンタン島内での田園地帯が少ない為、現行の人口数でもコメの島内の自給率が4割に満たないのでジャワ島から定期的に輸送しているという。コメ生産量世界三位のインドネシアが田園拡張計画を計画しており、近い将来の人口増加に備えたいのだという。インドネシアの人口は中国、インドに続いて世界三位の3億人で、小さなジャワ島に人口の大半が集中している。カリマンタンへの移転は国家プロジェクトでもある。

カンボジア王宮を訪問した際に、ブルネイ王室からの親書を受け取った時点で目の前が真っ暗になった。ボルネオ/カリマンタン島の開発事業に関与すると、今のプルシアンブルー社の陣容では対応不可となる。
人員を至急雇用し、体制を強化する必要がある。幸いにしてASEAN諸国は人口余剰状態なので人員的には問題ない。AIが経験不足な人員を教育しながらの早期戦力アップもタイとベトナムで実施しているので問題ないのだが、採用面接を請け負う人事部門が絶対的に足りない。ASEANの航空会社職員を引き抜くという副社長中山智恵の発想を拡大して、航空会社の総務人事部門の引き抜きも必要かもしれない。
プルシアンブルー社が急成長するのは嬉しい誤算なのだが、実働部隊用の教育用AIがあるとはいえ、人員が急増すればマネージメント層も人員を増やす必要があり、その新たな課題をAIで補うのか、人員増で賄うのか、サミアと中山でも相談してもらう必要がある。

とは言え、いくらAIやITで補うにしても、体制に少なからず歪みが生じるのは否めない。経営側も心して取り組む必要がある。

そこまで纏めて作業は終わらないと判断し、事務所宿泊と決めた。2階のジムで汗をかいてから、ビールを飲んで弁当を食べようと決めて立ち上がり、トレーニングウエアに着替え始めた。

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大田区・大森にある金森邸に平日居住している新宿オフィス勤務組は、買い物の負担が減った。近所にPB Martが無いので、全国型スーパーの店舗で購入していたが、ドローンが配送してくれるので買い物費用が下がった。
日中、大学のネット講義を家で受講している娘たちは、近所の家に青くペイントしたドローンが離発着する光景を何度も目撃する。

夕飯を作り終えて、母親達の帰りを待っていた。

「あの大型スーパー、かなりの顧客を奪われてるよね?」

「目黒、品川、大田区で、何処まで浸透するのか分からないけど、買い物もある意味感染リスクがあるから避けるよね、店内の人も結構多いし」

「雑誌とか売れ筋の書籍と、肌着や下着も配送してくれたら、あのスーパー もう行かないのに」

「あ、ハノイで樹里が寄った欧州メーカーの下着屋さんはどうだったの?」

「あぁ、これね・・」
樹里がTシャツを脱いで、ブラ姿になった。
「・・フランス企業なんだけどベトナムの工場で製造してる。スーパーのプライベートブランドよりも質が良くて安い・・店頭には無かったけど、下着だけじゃなくてウニクロみたいなカジュアル服も製造してるって言ってた。カジュアル服は中国工場を撤退して、ベトナムの新工場で作るんだって・・ちょっとお姉ちゃん!」

杏が樹里のブラを外して、手にとってマジマジと見て、自分のブラを外して装着し始める。妹は堪らずTシャツを着る。突起している乳首を玲子がつついて笑う。

「失礼な、先生と未来のベイビー専用だぞ」

「3人とも、でしょ?」

「あー、こっちの方がいいわー」杏が自分のブラより、樹里の方を褒める。

「そうなのよ。私の下着の中で一番いいのよね。おまけに一番安い」
「ネット通販はやってるの?」

「日本ではやってないから、ママと翔子叔母様、志乃さんが先生に昨夜頼んでるはず。買ってきた下着で3人で迫って見てってお願いしたから」

「なんか生生しいぞ・・」玲子が笑う

「翔子叔母様が賢くて、下着だけじゃなくて服のデザインもAIに任せられないかって先生に相談したみたい。AIに相談したら、出来るって即答したらしいのよ」

「お?それって、自分たちでブランド立ち上げるつもり?」

「ウニクロみたいにデザイナー集めないでいいし、ベトナムにそれだけの縫製工場があるんだから生産委託すればいい。ね、出来ちゃうでしょ?」

「おー!それだ!やろうよ、サッちゃんと4人でブランド作ろう。それまでこのブラ販売でいいじゃん!」

杏が叫ぶと、「ただいま!」と美帆が飛び込むように部屋に入って来たと思ったら、出ていった。杏が上半身裸だったからだろう。

「オラ やっちまっただ・・」杏が懺悔し、樹里が苦笑いしながらブラを付けた。

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コロナ禍の巣籠り需要と外食費用の減少で、スーパーの売上は堅調に推移していたが品川・目黒区にあるスーパーの売上がどの店舗も今週から下がった。各店舗の仕入れ担当は明日の入荷を4日連続で下げる。
本社の販売戦略部門は品川・目黒・大田区内の店舗の、ここ数日間のデータが異常値を出したとして原因の特定に乗り出した。
想定されるのは区内の至るところで目にする青いドローンだった。PB Mart社の物流センターがある大井ふ頭を訪れると、ドローンが編隊を組んでひっきりなしに飛んでいくのが見えた。

PB Mart社は倉庫内を完全オートメーション化し、各店舗へ配送するトラック用の荷物混載まで自動化した最初の企業となったが、ネットスーパーの配送業務をドローンで行なう初めての企業となった。ネットスーパー事業としては最も先進的で、他社がPB Mart社を上回るには、まずドローン配送と完全自動倉庫を実現することが必要なのだが、どのメーカーも出来ないという。

PB Martの配送を行なっているPBロジスティクス社に相談すると、配送だけのサービスを行なう計画を進めているのが分かった。各社のネットスーパー用の倉庫の一角にPB ロジスティクス社の出張所を設ける事が可能であれば、配送作業を受託できるという。

宅配事業大手の白猫大和と大和通運もPBロジスティクス社に打診しており、出張所形式のサービスの検討を始める。

PB ロジスティクス社は全国に拠点がある訳ではないので、各社の配送センターや倉庫へ出張所タイプのサービスを提供してゆくという。

(つづく)


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