酒と心の底


最近、めっきり酒に弱くなった。ハイボールを2、3杯あおっただけでもうしばらくは起き上がれない。家で飲むからか、なおさらぐだぐだしてしまう。そしてだらけた格好でYouTubeを観続けて、気がつけば夜の22時を超えている。こういう生活をもう毎晩1週間ほど繰り返している。

酒を飲むときはとりあえずハイボールに決めている。理由は特にない。ただ飲みやすくて種類もたくさんあって甘くないからハイボールにしている。ビールが少し苦手だからという理由もある。ハイボールは自分にとっての生中みたいなものだ。ビールはたまになら飲むが、そこまでたくさんは飲めない。昔はジョッキ一杯分を飲むのにも苦労するくらいだった。ビール特有のあの泡があっというまに胃袋を満たしてしまう。それにあの苦味。なかなか慣れないもので、大学生の頃はとにかくビールを避けていたものだ。


その代わりとして見つけたのがハイボールだった。缶で飲むよりも、自分でウイスキーを買って炭酸で割るのが好きだ。ちゃんと自分で炭酸で割ったほうが、何故なのか缶のものよりも美味しい。香料の問題だろうか。やったことない人は是非試してほしい。

しかしまあここまで酒に弱くなるとおちおち誰かと飲み歩くのも危険である。今でこそ札幌の地で飲み歩く経験をすることは皆無に近いが、これから先の未来に誰か気心の知れたものができたりなんかして、すすきので2軒3軒と飲み回る日も来ることもそう近くはないのかもしれない。もし今のアルコール耐性力でそんなことをすれば確実に路上でぶっ倒れてお巡りさんに迷惑をかける可能性が高い。お巡りさんにならば万が一大丈夫かもしれないが、そこらへんの若い女性に理解し難いちょっかいをかけるときがきたらもういろいろと終わりである。これからの人生の方針が完全に狂ってしまうことを覚悟しなければならないだろう。果たしてそんなことが許されるものだろうか。許されるわけがない。いくら自己肯定感を上げていきたいと切に願っている自分だって、それだけは許されない所業であろう。


酔ってしまえば人は何をしでかすか知れたものではない。酔っ払いは基本イカれているというのは、自分の酔った経験からも学習していることだし、周りの酔っ払いを見て学んでいることでもある。なぜ酔っ払いはああも狂っているのか。それは人間の本質が狂っているからに他ならない。人間は孤独を感じると狂ってしまう。孤独の海に沈めば沈むほど、狂いという名の海底に近づいていく。真っ暗な海の中に自己を沈めている。心は真っ暗だ。そのくせ生活では浅瀬にいるときの自分を演じている。本当はいつでも冷たい海の底にいるのに。誰にも気づいてもらえない。鬱憤がたまる。ストレスが溜まる。


そいつが酒を飲めばアルコールが回ったとき特有の開放感から弾け出されるようにして自分が出てしまう。世間のやっかい者と思われる酔っ払いは、まあそんなことが原因ではないだろうか。だとすると、自分も気をつけなければならないことは自明の理だ。酒が回って飛び出してくるあくまの自分、そいつが育ってしまわぬように普段から心のケアをしておかなければならない。一人暮らしで調子に乗って孤独の波のりを繰り返しているが、ちょっとした誤りで海にぼちゃんと身を投げてしまって、なんとか這い上がっているのを繰り返している。もし海に潜りこんだまま這い上がって来られないとなれば、きっと自分は心を救い出してやることができない。そうしたら心はどんどん沈んでいくだろう。助け出してやるには自分から解放的な自分を取り繕って世間に挑まなければならない。しかし自分にそんな陽気な一面が培えられないのはわかっている。だからなすすべなく海の底に沈んでいく。心身ともにとても冷たい底の方でいくら光を思い浮かべても、ずっと寒いままだ。息をするのも辛いほどにそこは一人だけの空間で、生きているだけでも辛い。ひとりの精神というものは、ここまで辛いものなのか。ここまで辛い状況を、今この時点でたくさんの人たちが抱えて暮らしている。そう考えると、世の中はとても冷たいものだ。とても残虐で、たくさんの不幸の元に成り立っている。


とても怖くて臆病でも、人前で取り繕っていてはいずれ孤独にしか辿り着けない。だから酒を飲んで、そこそこに暴れてみよう。くだらない自分を演出しよう。どんなくだらないことでもいいから。弱々しい自分を出して失望してもらおう。自分はこれだけの喜怒哀楽があって情けない体験があって嫌いなものがたくさんあってこれだけクズだと、主張してみせよう。じゃないと心が海の底に沈んでしまって、酒の力を借りてまででしか自分を表現できず、その酒で出しているキャラもロクなものではない。ならば最初からそこそこ自分を出しておくべきなのだ。


自分は今宵酒を飲みながら上記のようなことを考えていた。自分の前にあるのは孤独と酒。どちらも捨てられないものである。どちらもしばらくは持っておく。


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