さざなみ

札幌に住む。 いろんなことを書いていきます。

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マガジン

  • 生きる屍

    10本の小説を詰め込んでいきます。完全なオリジナルではありません。

  • さざなみ日記

    心象が主に9割くらい。情景描写が1割。そんな札幌生活でのエッセイ。

  • 『雑』

    過去の雑念集。

最近の記事

【小説】夏の挑戦⑥

前回 そして、私たちは道の途中で、まるで当然の待ち合わせのように出くわしたのだ。港に着くまでもなかった。私が彼を探していて、そして彼もまた導かれるようにして、私たちは引きつけあったようだった。”あいつ”は今の時点ではもう航海を諦めたようであった。何かを聞くまでもなく、”あいつ”はすでに気力をすり減らしていたのだ。 目があった時、図書館であった時の”あいつ”の生き生きとした面影は少し消えていたのだが、完全に燃え尽きたわけではなかった。私は安堵した。彼がもう完全にやる気を失っ

    • 【小説】夏の挑戦⑤

      前回↘︎ 当時の私は気づいていなかった。 まだ幼かったので、知らないのも無理はない。晴れ晴れした気持ちや、なんとなくの希望があったとしても、先の未来を完全に乗り越えられたとはいえないということ。そんな簡単なことが、まるでわかっていなかった。あの時の私はまさしく「何となくの希望」で未来が約束されたものだと本気で思い込んでいた。きっと私は”あいつ”と楽しく話ができるだろう。”あいつ”はなんの問題もなく船旅に出ることができるだろう。そんな想像がごく当たり前のように脳裏で膨らんで

      • 【小説】夏の挑戦④

        前回は… 夏休みが始まって1週間。 この間、私は自由研究の題材を決めたり、父親と夏祭りに行ったり、毎朝のラジオ体操に参加したりと、ごく一般的な小学生の夏休みを謳歌していた。しばらくはクラスメイトたちへ感じていた苛立ちも、”あいつ”のこともあまり思い出さなくなってきた。しかし時折、”あいつ”が誘ってくれた小島への冒険に付いて行かなかったことは、何となく私の中でモヤモヤしていることとして浮かび上がることもあった。 あの時”あいつ”に一緒に小島へ行こうと誘われて、私が行かない

        • 瞬間

          ふと思った。 自分があるのは、連続ではなくて、瞬間がずっと続いているのだと。 その瞬間を捉えられないと、今の自分は過去の自分の連続として捉えることしかできなくなって、自分かこれだと思うことに挑めない。 別に過去の自分がどれだけ強い意志を保とうとも、どれだけの決意を表明しようとも、今の自分には関係ない。今この瞬間の自分に負けてしまっては、なんの説得力もないのだ。 別に昔の自分がどれだけ強かろうが弱かろうが、それは過去の自分でしかない。 瞬間が無限に続いていく中で、自分

        【小説】夏の挑戦⑥

        マガジン

        • 生きる屍
          7本
        • さざなみ日記
          55本
        • 『雑』
          40本

        記事

          【小説】裸足

          彼女は、街にあるさまざまの喧騒で目を覚ました。 飲み屋通りで客引きをしている声、救急車の音、バイクのエンジン音、そんなところだろうか。音の正体もあまり正確には掴めないほど、外ではたくさんの音が交錯していた。眠りから覚めるとき、ここが家の中であることと、今が日付を超えた真夜中であることだけがわかった。理屈ではない、五感のどこかが彼女にそう教えてくれていた。 この馴染みのない街に引っ越してきてから一ヶ月が経過していた。この一ヶ月の間、彼女の周りではさまざまなことが起こっていた

          【小説】裸足

          【小説】夏の挑戦③

          前回は… 結局、図書室で出会ってからおよそ10日の間、”あいつ”は全く学校に来ることはなかった。 ”あいつ”が学校に来ない間も、担当の先生が自宅訪問に行ったり、他のクラスメイトたちが冷やかし半分で家に行ってみたものの、”あいつ”の姿を確認することはできなかったらしい。”あいつ”の両親は仕事で忙しいようで、普段から家には誰もいないようであった。 ただクラスメイトたちによる”あいつ”の目撃情報がたびたび報告されていた。やれ学校近くのスーパーで見かけた、隣町の港で見かけたなど、

          【小説】夏の挑戦③

          【小説】夏の挑戦②

          最初から読むなら… 夏のとある日の放課後。 私は自由研究に向けて調べたいことがあり、学校の図書室に行った。夏の長期休暇が始まると一時的に図書室は閉鎖されてしまうとのことなので、今のうちに読みたい本などを借りておきたかったのだ。 放課後となると、基本的に図書室は人気もなく、いるのは受付にいる顔馴染みの司書くらいである。こんにちはと軽く挨拶を済ませいつも通り本棚を物色する。換気のために開け放っている窓から、容赦なく侵入してくるクマゼミの鳴き声と、扇風機が鳴らす風鈴の音がやたら

          【小説】夏の挑戦②

          【小説】夏の挑戦①

          チャイムの合図とともに、クラスメイトの大半は慌ただしい勢いで教室を飛び出していく。これから始まる夏の長期休暇を一秒でも取りこぼさないようにと、もうその姿は見えない。教壇にいる先生の止める声もまるで、クラスメイトたちのはしゃぎ声や駆け回る音にかき消されてしまう。夏の楽しみは弾けたように始まり、教室の中はすでに乱れて、教室に残っているクラスメイトたちも、これからの夏の楽しみに心躍らせている様子である。 2階の教室の窓からは、先ほど教室を飛び出した元気な少年たちがすでに見える。彼

          【小説】夏の挑戦①

          【小説】訪問者

          (男の身なりは灰色のシルクハットに、同じく灰色のスーツ姿。左手には手提げのケース、胸ポケットには真っ白なチーフを入れている。髪は肩までかかった癖っ毛に、鼻の下に少しだけある髭が特徴的。年齢は20代後半くらいか) ・・・ここですね。 コンコン(ノックの音) ・・・ ・・・・・・ コンコンコン ・・・ ・・・・・・ ガチャ(ドアの開く音) あ、 「・・・・・・」 すみません、お取り込み中でしたか。 「・・・・・・」 初めまして、お尋ねしたいことがありまし

          【小説】訪問者

          不安の年明け

          2024年が始まったことの実感も非常に乏しく、どこかくたびれた様子で正月を見ている。過ぎていく毎日のその流れをうまく乗りこなしていくことがなんとなくむつかしい。それどころか時間という荒波は常に自分の体をいとも簡単に飲みこもうとしており、なんとか浮き上がっていくだけで精一杯だ。なんか大袈裟なことを書いている気がするが、この気持ちは案外本当のところにあって、多分自分はもう心も体も溺れてしまっているんだと思う。何を願っても願ったきりで、何を望んでも望んだきりだ。その先がないのだ。そ

          不安の年明け

          二〇二三年が終わってしまうその時に

           パラパラと乾いたような、そして湿り気を帯びたような小粒の雪のカケラが顔に当たって、それはそれは冷たい年末である。降り積もる雪は溶けることなく地面を覆い尽くして、人々が往来する靴底に踏みつけられる。雪は何度も踏みしめられていくにつれて、最終的には氷のように固められる。挙げ句の果てには歩くのも困難なほどに摩擦を失った氷のフィールドがあちらこちらにできている。あちらこちらでスリップして転びそうな人がいる。そういう人を見ていると自分もつい転びそうになる。実際転んでいる人がいる。自分

          二〇二三年が終わってしまうその時に

          素麺を茹でる夏、鍋を突つく冬、時が過ぎる。

          明日から唐突に二日間の休みをもらった。相変わらず唐突な休みである。 そして相変わらず豆乳鍋ばかり食べている自分である。寒風の到来したこの街札幌では、夜は家でゆっくりと鍋を食うに限る。どんなときでも焦らず騒がず、僕は鍋をコトコト煮込んで時の過ぎるのをみているのだ。明日が仕事だろうが、休みだろうがなんだろうが、鍋を煮て食う。 しかし毎日のごとく鍋ばかりの日々にそろそろ嫌気も差してきている。いくら味変のかぎりを尽くそうとも、結局は野菜と肉が入り混じった煮物にすぎない。寄せ鍋、しゃ

          素麺を茹でる夏、鍋を突つく冬、時が過ぎる。

          課題 「三つの敵」

          ちょっと長いので目次です。 序 これを書いたわけとか 『ずっとやりたかったことを、やりなさい』という本の中に記載されている、ある一つの課題をやっていこうと思う。その課題とは、自分の創造性を邪魔しているのではないかと思われる過去に存在する「敵」を三つ炙り出すこと。そしてその敵について深く掘り下げていくこと、それが今回の課題である。 この本は、自分が大人になることにつれて、心の中に押し殺してしまった創造性を救済し、本来あるべきクリエイティブな自分を見出していくためのものであ

          課題 「三つの敵」

          坊ちゃん文学賞に応募しただけの話

          先月末、坊ちゃん文学賞なる短編小説の公募に応募した。 募集要項はいたって簡単で、4000文字以下のショートショートならば応募の対象になる。別に夏目漱石の『坊ちゃん』に関連するものじゃなければいけないとか、『坊ちゃん』の舞台である愛媛の松山を舞台とした小説でなければいけないとか、そんな縛りはなく、単純に4000文字の短い物語を書けばいいだけの話である。 もっとも、名前が坊ちゃんなだけあって、ちゃんと主催は松山の自治体が行なっているものらしく、もしも受賞した暁には松山市まで授

          坊ちゃん文学賞に応募しただけの話

          静かな部屋

          都合のいいバカ 空から金が降ってくりゃあいいのに、 そんな都合のいいことは起こらない。 生きていく中で都合がいいことほどそうそう起こることはなく、現実を見れば見るほど起こることは現実的なことばかり。そりゃあ金でも降ればいいとかバカなことも書いてみたくもなる。この世を生き抜くためには、バカでいる方がいいのではないかと最近思う。自分がどれだけ被害を被ったのかとか、どれだけ搾取されてきたのかとか、反対に誰に何を与えたのかとか、そんなことを思わずに、ただ何も気づかずに生きている方

          静かな部屋

          休日の途中

          休日である。 この前、美容院に行ったときに、頭がバカみたいに凝っていると美容師の方に教えてもらった。別にバカみたいとまでは言われていないが、バカみたいに凝っていることは事実だったりする。いや頭どころではない。身体中至るところがガチガチに固まっている。肩には入れた覚えのないシリコンのような物体が至極当然と言わんばかりに入っている。足はどれだけ揉みほぐしてもしつっこく老廃物が溜まりやがる。背中は毎日器具を使ってツボを押してようやく安眠に入ることができる。猫背、ストレス、運動不足

          休日の途中