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名古屋市教員有志の対話会「新しい学びのおしゃべり会」開催レポート

2024年3月27日(水)、名古屋・新しい学びのおしゃべり会が開催されました。主催したのは、名古屋市の「School Innovationプロジェクト」(※1)の視察研究に参画していた教員(令和5年度スクールクリエイター)の有志。会には約70名もの参加者が集まりました。名古屋市では、幼稚園から高等学校まで全ての学校園が共通して目指す教育の方向性「ナゴヤ学びのコンパス」(※2)が示され、教育のアップデートを目指しています。現場で働く先生たちは「ナゴヤ学びのコンパス」をどう捉え、どのように自分ごと化しているのか、このおしゃべり会の中で語られていました。当日話されていた内容を抜粋してレポートします。

(※1)「School Innovationプロジェクト」とは、名古屋市全体で教育改革を推進するため、名古屋市教育委員会が設置し推進しているプロジェクト。幼稚園から高等学校まですべての校種で、400を超える市立学校園が共に取り組むことを目指している。子ども一人一人の興味・関心や能力、進度に応じた「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を推進している。(参考・引用:https://nagoyaschoolinnovation.city.nagoya.jp/about)

(※2)「ナゴヤ学びのコンパス」は、名古屋市の全ての子どもが学びを通して自分らしく、幸せに生きていくことができるよう、名古屋市の学びの基本的な考えを示したものです。(引用:https://nagoyaschoolinnovation.city.nagoya.jp/compass)

3月27日(水)の名古屋市中心部、よく晴れたこの日の夕方17時30分、どの学校も春休みで、それぞれの業務を終えた先生方、約70名が会場に集まりました。会の冒頭に主催者の一人、倉田美純さん(みすみん)から会の趣旨について話がありました。

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「ナゴヤ学びのコンパス」では、目指したい子どもの姿として「ゆるやかな協働性の中で自律して学び続ける」とあるのですが、まずは教員である私たちがそのように学んでいきたいと思ってこの会を開催しました。なので主催者側から、こうした方がいいということを提示しませんし、この場に来ている人たちと一緒に考えたいと思っています。そして今日だけで終わるのではなく持続的な会にしたいです。私たちの話を参考にしながら、皆さんそれぞれの内面にあるものを、考えてみてほしいです。問いや考えがたくさん浮かんでくると思います。それを4月から実践していただき、次回ぜひ共有してください。そんな風にぐるぐると循環させていくためのキックオフとして今日は楽しんでいきたいと思います。
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出典:みすみんさんスライドから抜粋

続けて、「School Innovationプロジェクト」の視察研究として訪問したオランダの現場の実践などについて、現地の写真や動画、訪問時のインタビューも交えて報告がありました。(内容は割愛)

次に、名古屋市教育委員会事務局・新しい学校づくり推進室で、School Innovationプロジェクトを推進してきた、上川高史さんから参加者の先生方に向けて、「ナゴヤ学びのコンパス」の目指すところ等について改めて問いかけがありました。

「ナゴヤ学びのコンパス」はこちらから

出典:NAGOYA School Innovation(ナゴヤスクールイノベーション)|名古屋からはじまる子ども一人ひとりのための新しい学びづくり|名古屋市教育委員会 (city.nagoya.jp)より

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「ナゴヤ学びのコンパス」は、校種に関わらず、名古屋市の全ての教育関係者にとっての基本的な考えを示したもので、教員の皆さんも読んでいただいていると思います。もし、ときどき誤解されていて残念に思うのですが、決してトップダウンで作られたわけではないんです。既に実践していた矢田小学校や山吹小学校などでは様々な知見が溜まっていました。そうした知見からエッセンスを抽出して、多くの人と対話をしながら作ってきました。その中には、教育哲学者の苫野一徳さん、上智大学教授の奈須正裕さん、中央教育審議会会長の荒瀬克己さんなど著名な方々もいますし、もちろん子どもたちの意見も聴いていますし、現場の教職員の意見も聴いています。そうやってつくりあげてきたものなので、ぜひ今一度読み返してほしいなと思います。

出典:上川さんスライドから抜粋

そして一番の願いは、どの校種でも子ども中心の学びにしていこうということです。目指したい子どもの姿は「ゆるやかな協働性の中で、自律して学び続ける子」。これを名古屋市のビジョンとして掲げて、どの学校園でもこのような子を育てていきたいのです。ナゴヤ学びのコンパスは、次期の名古屋市教育振興基本計画のど真ん中にも位置付けられています。令和6年度から約5年間の計画が定められたもので、この理念を実現するために、名古屋市の教育委員会が一体となって施策を展開していくという計画になります。

さて、私の話を聞いてどんな問いが生まれましたか? 「それで結局何?」とか「何をすればいいの?」という問いが浮かんでいると思いますが、その問いを大切にして、席の近い人同士、小さなグループを作って話してみてください。
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という形で参加者に投げかけられ、以下のような問いが出ました。

・時間の確保はどうする?
・これからの教師に必要な力は?
・責任は誰がとる?
・何を一番大切にしているのか?
・何から始めたらいいの?
・多様な人って?
・ゆるやかな協働性ってどういう意味?
・保護者への説明は?
・教師は伴走者でないといけない?
・やること多くて余裕ないのにどうやってやるの?
・・・どれも率直でリアルな声です。

とあるグループでは、「自由度の高い授業を活発に展開していくにあたり、教科学習の時間を減らしていいのかという社会の声があるのではないか」という懸念を話していました。中学から高校、高校から大学、という進学の時に必ず学力という物差しで測られるから、ということでした。そして以下のような会話がされていました。

・ゆるやかな協働性のもとに知識技能をつけていくということは、ただ自由にやらせっぱなしということではない
・知識が無いのに活用はできない。習得の時間と活用の時間と意図的な設計が必要だと思う
・興味関心に基づいて学べば、一斉授業よりも知識技能の習得は速く確かなもので、真の力になると思う
・学習の目当てにたどり着いたかたどり着いてないか。その道のりは何でもいいと思う
・自由進度学習で知識習得の時間をコンパクトにして、浮いた時間を子どもたちに委ねたい

決して簡単ではない市全体の方向性に対して、懸念点や課題点を感じながらも、それを乗り越えるために何ができるか、何をしたいかに意識を向けて対話している先生たちの姿がありました。

グループの対話が終わり、上川さんにマイクが戻ります。

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いかがだったでしょうか。一番大切にしたいのはマインドセットです。私たち教員が子どもを信じられるかどうか。そして、もし何か実践しようとして、一人では苦しくなってしまう場合、学校全体で対話して、子どもたちを信じてやってみようと思える職員室にしていただきたいです。学びのコンパスをつくる過程で、根底の部分で確認したことがあります。「子どもたちは有能な学び手である」ということです。そして私たち大人もそうなんだと信じてほしいと思います。ゼロか100かで考える必要はない。ちょっとでいいから始めてほしい。手法を取り入れるのはちょっとでいいので、マインドセットについては今すぐ変えてほしい。子どもたちと大人たちを信じてほしい。

出典:上川さんスライドから抜粋

学びのコンパスを作る上で意識したのは学習する組織です。みんなが学び続ける教員集団になりましょう。みんなが納得する教育目標をつくり、土台としてそれを共有できていれば、教員個人個人が、個々の教室が何をするかは自由でいいですよね。むしろ方法論だけ真似しようとしてもうまくいきません。大切なのは、学校として目指すものを、対話を通してつくり、何かの節目や迷うときに振り返る。そうした対話の文化や仕組みを作ることだと思います。
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次に「School Innovationプロジェクト」の視察研究(国内外のユニークな取り組みをする学校の視察)に参加していた先生たちから、活動を通じて感じたことや自身の変化について話がありました。

夏目郁馬さん(イクマンチェス)
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たくさんの先進的な学校に視察に行き、思い切った実践を直接見たことで、とても刺激を受けて自分も頑張ろうと思いました。例えば児童会活動としての縦割り集会を見学し、異学年交流の大切さを改めて感じたので、勤務校でも遠慮している場合ではなく、積極的に実施していこうと思いました。
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岡部太陽さん(太陽さん)
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今年度は教務主任を勤め、自分が授業をする立場ではなく、大変なクラスの補助をしたり、教室に入れない子や集中が続かない子と一緒にいることが多くなっています。視察研究で見聞きしたことを踏まえ「この子も活動次第では興味を持って学べそうだな」といった目で関われるようになりました。また学校全体を見る立場になりましたが、職員室の雰囲気がとても良くて、教員同士で声をかければすぐに対話の会が始められるのはありがたいなと感じます。
少し前までは自分も「で何したらいいの?」と主体性なく言ってしまいそうな方でしたが、自分で直接見聞きすることですごく腹落ちしたなと思います。
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友松 功さん(マティ)
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わが身を振り返り、反省しかないと思いました。当時担任した学級を思い出すと、僕がいればビシッとしているものの、専科の授業のときはダラけるということが頻発していました。若い頃はそんなもんだと思い、自己満足していた自分がいました。今はすごく反省しています。専科の授業中にダラけてしまうその姿は、自律や主体性に全く結びついておらず、いかに僕が主体性を奪っていたかを痛感しました。自律や主体性を育む上で大事なのは、本人が選べるかどうかです。その機会をつくってほしいと思います。
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倉田美純さん(みすみん)
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この活動一番変わったことは仲間が増えたことです。以前は別自治体で働いていて、名古屋に来て8年目になりますが、同僚以外の知り合いはほとんどいませんでした。子どもたちのためになる実践をしたいなと思っていても、支えになるものがないと不安になります。スクールクリエイターの活動時間はとても居心地が良かったんです。自分が恐る恐る話してみたことをすごく応援してくれる雰囲気がありました。新しいことに挑戦しようとするとき、自分自身のメンタルケアもすごく大切です。自分の挑戦を信じてくれる人がいるというのは心強いなと思います。今日ここに集まった皆さんもつながりを作って、仲間を作っていただけたらと思います。

もうひとつ。子どものために何ができるかというのはずっと考えてきました。でも、それは、自分に何ができるかということばかり、つまり自分のことばかり考えていました。でも自分自身が子育てのために時間が無く、余裕なく教室に入った時、クラスの子どもたち(児童)が保育園や幼稚園での経験をもとに、アイデアを出したり、自分たちにできることを考えて行動する姿がありました。子どもたちに何かしてあげるのではなく、子どもたちを信じるということを子どもたちが教えてくれました。子どもたちが私に信じさせてくれたのです。それが一番の発見でした。今わが子は3歳ですが、保育園で日々すごく学び、成長しています。一年生の児童も、幼稚園や保育園で六年間、学んで成長してきている。0からのスタートではない、子どもは有能な学び手とはこういうことかと実感した1年間でした。
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最後に主催者から参加者に、大きな問いと小さな問いが投げられました。
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一つ目は概念的で大きな問いです。
あなたの「~したい、~でありたい」は何ですか? なぜそう思いますか?
教師や教育関係者という役割を越えて、本来の教育に向かう個人(教育者)としての自分と向き合いましょう。
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会場から聞こえてきたのは、☟こんな内容でした。

・ナゴヤ学びのコンパスについて、職場の他の先生たちと対話してみたい
・心理的に安全な場にするために、一緒に働く皆の話を一人ひとり聴いていきたい
・生徒に対しても同僚に対しても、自分が率先して行動している姿を見てもらいたい
・学級づくりに関して、自分(教師)ばかりが動いてみるのでなく、児童生徒と対話しながら一緒につくっていきたい

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二つ目は具体的で小さな問いです。
新年度だからこそチャレンジしたいことは?
逆にここは手放そう!と思うことは?
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会場から聞こえてきたのは、☟こんな声でした。

・他人のできないことを指摘するのはやめようと思う
・学校だよりで、学びのコンパスについて積極的に紹介しようと思う
・単元のめあてや評価の基準を児童生徒自身に確認してもらおうと思う
安心して発言できるようにするために朝にアイスブレイクする時間などを取り入れたい

ここまで終えて、最後はチェックアウトの時間。参加者各自で、思考の整理、感情の整理を行って、手元のメモに残す時間をとりました。今日この会は、冒頭に出ていたように、「ゆるやかな協働性の中で自律して学び続ける」ためのキックオフのミーティングという位置付けでもあります。この日集まった70名の教師と教育関係者が、それぞれの現場に持ち帰り、実践することから学びの循環が動き始めます。

会はここまでで終了。ゆるやかにつながるためのLINEオープンチャットが案内され、再会を約束しながら、解散となりました。ここで共に学んだ先生たちが名古屋市内それぞれの現場に戻り、4月から新年度が始まります。会場の外に出ると、とっぷりと日は暮れて、心地良い夜風が吹いていました。

<編集後記>
市の全体で新しいあり方に変わることを宣言していても、現場ではそう簡単に変われないこともある。どの業界どの組織にもあること。その戸惑いや試行錯誤も含めて、対話しながらじわじわと腹落ちして実装されていく。そこに前向きなエネルギーがあるかどうかが大切な気がします。この場に立ち会うことができて幸運でした。
本当にたまたまですが、名古屋市教育委員会から本が出るそうです。この記事はPR記事ではないですが、紹介としてリンク貼っておきますね(笑)

ご案内。例えば今回の事例のように、組織全体が掲げるビジョンに対して、個々のメンバーがどのように認識し、行動すべきか、戸惑ったり葛藤があったりするときに、その葛藤に寄り添って傾聴するパートナーがいたらどうでしょう。ぜひ以下のページもお読みになってください。





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