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「だったらな、今度警察の人間が来たらこう言え。村瀬に全部喋った、話なら村瀬から聞いてくれ、ってな」

■感想文『第三の時効』/著者・横山秀夫さん


本書は、F県警の捜査第一課・強行犯捜査一係の、活躍と葛藤を描いた短編集です。いや、このクオリティは、ドキュメンタリーと言っても過言ではないと思います。

強行犯捜査一係、通称「一班」の班長・朽木
そして「二班」の楠見
「三班」の村瀬

彼らが犯人を追い、事件に翻弄され、仲間とつばぜり合いを繰り返し、疑い、奮い立たせ、追い詰め、叱咤し、踏み潰そうとする露骨な主導権争い。しかし、登場人物はみな、事件を解決するという目的の中で動く点で志を同じくしています。そのドラマが、まあ面白い。短編ごとに用意されているミステリーの要素も大変に練られていて、ひきつけられました。

「うまい」と言ってしまうと露骨すぎて、なんだか味気ないんですが、緻密に配置されたキャラクターが放つそれぞれの緊張感にワクワクし、ミステリー部分にはドキドキし、次の展開にハラハラする間もなく、新しいドラマが訪れます。それぞれの朽木、楠見、村瀬という3人の班長だけでなく、刑事部長や課長、班の刑事たちの切迫感なども、体感できました。著者の執筆ペースが速くないという話を聞いたことがありましたが、

そうした離れ業とも思える作業を練り上げて本になるなら、それはもう、時間がかかるだろう

そんなふうに、勝手に納得してしまうクオリティを見せ付けられた気分です。本作の続編ではなく、ただただ本作ラストの、すぐ次の場面が読みたいと思いました。


✂-------------------ネタバレ-------------------✂

本書の内容に触れます。この内容は『第三の時効』の面白さの1つでもあり、知らずに読んだほうが楽しめると思うので(知っていても十分に楽しめるとは思います!)、一応、これからこの本を読もうとしているかたは、これ以降を読まないことをオススメしておきます。

『第三の時効』は、6つの短編集ですが、それぞれが密接に関係した構成になっています。登場人物や背景などの全てが変わる、一般的な短編ではありません。一話一話で、小説として話が完結するだけで、登場人物の意思とか捜査とか人生とかの世界観は、一冊の本の中でずっといぶいています。読者がページをめくることで、一話一話が息を吹き返すというか。これを読み進めて気づいたときの嬉しさというか、楽しさというか。。。

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