熊嵐


 吉村昭著「熊嵐」を読みました。著者は作家で、先日「関東大震災」を読んでレビューしたら、本書を勧められたので手に取りました。

 物語の舞台は大正4年の北海道です。苫前郡苫前村三毛別六線沢という地域で、開拓民が羆に襲われた事件を克明に描いています。現在の住所は苫前郡苫前町三渓というところ。苫前郡には初山別村、苫前町、羽幌町の三つの行政区がありますが、吉祥寺に「羽幌」という居酒屋があるのを思い出しました。羽幌町出身の方がやっているお店なのかもしれません。

 六線沢の開拓民は東北から北海道に渡り、一度、別な地域で開拓して数年過ごすも、イナゴの被害にやられてしまい、やむなく六線沢に移住します。新たに開拓しなければならないので、生活は貧しいものの、年を経るごとに、作物も多く取れるようになり、生活は上向いていきます。しかしながら、北海道の雪深い山奥で、家は材木を組んで周囲を草で多い、樹皮で屋根をふいたとありました。ただでさえ寒そうな話の中で、この家の作りを知ってしまうと、昔の人は大変だなと思わされました。

 そんな苦労を重ねた生活が徐々に上向いている中で、住民が羆に襲われてしまいます。しかも、皮肉なことに倹約して家を板壁にした家庭で、板壁を羆に破られて、亭主の留守中に子どもが殺され、母親が肉片を残して攫われてしまいます。六線沢の住民は三毛別の集落に救援を要請し、猟銃を持った5人を含めた20人程度が応援に来ますが、彼らが泊っている家が夜、羆に襲われ、今度は4人が亡くなります。

 羆は最初に女性を食べると、男性は食べなくなるらしく、2件目では妊婦が襲われてしまいました。妊婦が襲われているところを雑穀俵のかげに潜んでやり過ごすことができた10歳の少年は、妊婦が羆に懇願するように「腹、破らんでくれ」と叫ぶのを聞いていたそうです。凄惨な現場の描写から、羆の残忍さを憎む一方で、自分がシシャモとか食べてるのと同じことなんだよなと考えさせられました。

 警察と猟友会などが応援に来ますが、応援者たちは当事者意識に欠けています。三毛別の区長は当事者意識のない応援者に憤り、腕利きの熊撃ちだが、酒呑みでトラブルも多い山岡銀四郎を頼ります。この辺り区長は、やっぱり山岡に頼まなくても良かったとか、また頼むべきだったとかフラフラしているのですが、そのあたりもリアルな心の描写で、それだけ追い込まれていたということでしょう。

 応援隊も一度羆の脅威に触れると恐れおののいてしまうのですが、最後は銀四郎が羆を撃ち取ります。銀四郎、カッコ良すぎでしょう。ベタ過ぎるような展開ですが、これが事実を基にした作品なのですから面白いです。

 熊が暴れた事件が小説化されたもののタイトルに「熊嵐」なんて言うのは、ちょっとダサいななんて思ってしまいましたが、熊が仕留められた後には必ず強い風が吹き荒れるそうで、それを熊嵐というのだそうです。うーん、ダサいなんて言ってごめんなさい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?