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【インクルーシブ・リーダーシップ】「自分ごと化」度合いが高いと、上司のILによって革新的な行動を発揮しやすい?(Rajandran et al, 2023)

今回も、インクルーシブ・リーダーシップに関する最新論文を見ていきます。仕事と研究が詰まってきておりますが、毎日は無理でもコツコツ進めていきます。

Rajandran, K., Subramaniam, A. (2023). How Inclusive Leadership Catalyze Innovative Work Behaviour The Moderating Effect of Psychological Ownership. International Online Journal of Educational Leadership, 7(1), 5


どんな論文?

この論文は、マレーシアの大学教授らによって編まれた、インクルーシブ・リーダーシップ(IL)に関する実証研究を扱ったものです。

ILが、革新的な仕事行動(Innovative Work Behavior:IWB)に与える影響を、心理的オーナーシップ(Psychological Ownership)が促進する(調整する)、というメカニズムを、マレーシアの5大学の教員300名を対象に実証しました。

比較的シンプルな概念間の関係を扱っており、以下がモデル図です。

分析の結果、ILからIWBに向かうパスは有意ではありませんでした。これは、他の先行研究におけるIL→IWBという影響関係とは異なる結果でした

そして興味深いのが、心理的オーナーシップが加わったモデルだと、IL→IWBの関係が示され、かつ、心理的オーナーシップが両者の関係を促進することがわかった、という点です。

つまり、以下のことが言えそうです。

  • 心理的オーナーシップが高い大学教員は、インクルーシブ・リーダーシップのアプローチを認識したときに、革新的な職務行動を示しやすい。

  • 逆に、心理的オーナーシップが低い教員は、インクルーシブ・リーダーシップの行動に対する反応性が低く、ILを発揮する上司の下でも、革新的な職務行動を示さない可能性がある。


心理的オーナーシップとは何か

この研究における重要なカギを握るのが、この心理的オーナーシップです。本文献において、心理的オーナーシップは以下のように定義・補足されています。

  • 特定のものの所有や(所有者*の)拡張に対する精神的なつながりを、無形的または有形的に示すもの(Chenら、2021;Pierceら、2003)。

  • 心理的オーナーシップはまた、従業員を鼓舞し、企業の有効性と企業責任の強い感覚を高める(O'driscoll et al., 2006; You et al., 2022)。

  • 従業員が職場に対して心理的責任を負っていると認識すると、従業員はより積極的で前向きな活動を行う(Ullahら、2021;Olckers、2013)。

  • 心理的オーナーシップは、個人の態度や行動に大きな影響を与え、帰属意識、自己効力感、自己同一性という人間の3つの基本的欲求を満たす助けとなる(Chenら、2021)

簡単に言えば、物事(ここでは仕事や職場)に対する「自分ごと」感であり、当事者意識と言い換えても、差し支えなさそうです。

心理的オーナーシップについては、ハーバード・ビジネスレビューの寄稿記事にも記載があったので、そちらをご覧いただくと理解が深まるかもしれません。

この論文では、大学教員のコンテクストにおける心理的オーナーシップを、以下の引用部のような表現で表しています。

本研究では、心理的所有とは、大学教員が大学という学問の場において、ある対象、課題、または実体に対して経験する主観的な知覚と感情的なつながりであると考える。心理的所有には、その対象や課題に関する成果、資源、意思決定に対する所有感、責任感、投資感が含まれる。心理的所有は、個人的で内面化されたつながりを反映し、学問的背景の中で大学教員の態度、行動、動機づけに影響を与える。

研究結果から示唆されること

この研究で特に関心を引く実践的な示唆は、革新的な職務行動を生じさせるためには、リーダーの振る舞いをインクルーシブなものにするだけでなく、教職員が「自分ごと化」することが重要、という点です。

現場においては、何でもかんでも「管理職研修」「リーダーシップ研修」と、魔法の杖のように指摘されることも多いですが、今回の研究は、一人ひとりの当事者意識の重要性を示唆した点で、意義深いものであると考えます。

本研究は、大学教員が対象となっている調査でもあり、例として、意思決定における発言権を与えること、スキルを向上させ自主性を持たせる機会を与えること、創造的な努力を賞賛し報いること、といった、職務や職場への当事者意識を高める施策が提案されています。


感じたこと

確かに、IL→IWBの結果が出ず、心理的オーナーシップをモデルに加えた際には、調整効果が見られたというのは興味深いです。

しかし、大学教員は、そもそも革新的な職務行動を求められるのか、あるいは、そのような余地がどれだけあるのか・・・という素朴な疑問が湧いてきます。

大学においても、もちろんイノベーションは必要であり、論文においてもそのことが謳われていますが、IWBの平均値などは出ていないため、上司のILを認知した教員とそうでない教員、両方においてIWBが低かったため、先行研究と異なる結果、つまり、IL→IWBが出ないという結果となったのでは?という気もしてしまいます。

また、古くからの体質を引きずる機関においては、そもそも、ILではなく、変革型リーダーシップの方が筋が良さそうな気もします。なぜILを選んだのかについては、IWBの先行要因という研究がある、という程度の記述しかありませんでした。

逆に言えば、それだけ、ILに対する注目が集まっている、だからこそ、ILを研究することありきだったのかもしれません。想像の域を超えませんが。。。



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