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NFTとは何か?

①NFTとの出会い

僕がNFTらしきものと出会ったのは2019年、ブロックチェーンを使ったアートの企業であるStartbahnから「アルスエレクトロニカに出展するためにNFTについての作品を作って欲しい」というオファーを受けたことからだった。その頃彼らはNFTではなくABN(ArtBlockchainNetwork)と呼んでいた。僕はいまだにABNも悪くないのではないかと思っている。2020年からstartbahnの技術を使わせてもらっていくつかデジタル作品とブロックチェーン証明と物理作品が紐づいているものを作成した。

その後、2021年になってアーティストのtakuma nakataから「どうやらNFTというものが流行っている」という話を聞いた。彼と一緒にMetamaskの作成方法とかFoundationの登録方法を学んでいくうち、どうやら2019年に知ったABNの仕組みに近いぞと気づき始めた。とにかくデジタルデータの価値を追求するものであることは確かだった。今までデジタルのアーティストとしてさまざまな場面でデジタル作品であるというだけで「量産品だ」とか「印刷物だ」とか決めつけられ、不遇な扱いを受けてきた僕は真っ先に飛びついた。そして最初のNFTを2021年の4月にFoundationで出品した。その後いくつかの作品をFoundationで出品したのち、たまたまその頃友人の紹介で知り合い、僕の企画でMinecraft上での展示に参加してくれていたEmi Kusanoから彼女の息子であるZombiezookeeperのNFTの話を聞き、彼の作品を最初に購入した。緑色のサイが可愛かったのと、子供が自由にデジタルで描く時代が来たことが嬉しくて買った。たくさんのキャラクターを作るスタイルをzombiezooのNFTから学び感銘を受けた。

NFTならば、ポケモンなどの文脈があるにもかかわらず現代美術では全くもって回避され続けている「キャラクターのバリエーションをつくること」「モダニズムではないキャラクターを恥ずかしがらずに造形すること」ができる。と思い立ち、2021年の9月に最初の仏像をキャラクター化したNFTシリーズ「NFT BUDDHA」をopenseaで始め、それに続いて煩悩と妖怪のキャラクターシリーズである「BONNONE」「YOKAIDO」、そしてデジタル拡張子をキャラクター化した最新作の「ハイパー神社」と続けている。


ハイパー神社「JPG明神」

②NFTとは何か?

そもそもNFTとはなんだろうか。まずその仕組みから説明したいのだが、僕はプログラミングの知識がゼロな上に脳みそが全くもって理系ではないので、本当に正しい説明ということができない。ただ、僕は「正しさだけが正解ではない」と思っている。なので今回はNFTの説明をかなり感覚的にしてみようと思う。そもそも、理系の説明では理系の人にしかわからんのだ。僕は僕でもわかる説明を心がけることにする。

まずNFTの生息場所について。NFTは、インターネットという技術の中の、ブロックチェーンという技術の中の、仮想通貨という技術の中にある。これがまず非常にわかりにくい点である。インターネット<ブロックチェーン<仮想通貨<NFTとなっている。

ではインターネット技術の中の、ブロックチェーンとはなんだろうか。これについて、ブロックだとかチェーンだとかを考える前にまずamazonで僕たちが買い物する時のことを想像して欲しい。amazonでクレジットカードで買い物するときに、僕らがamazonに支払いをしたことを一体誰が管理・証明してくれているのか?それはカード会社だ。

僕がamazonに支払うとき、カード会社は「たかくらがamazonに3000円支払った」ことを僕に対してもamazonに対しても証明する。そして「僕がamazonに3000円支払った」ことの観測者は僕、amazon、カード会社の三者のみだ。このように情報を内部に秘めておくことによって、安全性を担保しているとも言える。

ブロックチェーン技術を使用すると僕とamazonの間にカード会社が必要なくなる。「僕がamazonに3000円支払った」ことは誰が観測し管理するのか?「みんな」である。ブロックチェーンというのは、改ざん不可能な特殊なプログラムを使用し、誰が誰にいくら渡したか、を「誰でも閲覧できる」形にし、情報を分散保有することで相互的に監視・管理するというデジタル上の仕組みのことだ。秘密にすることで安全性を担保するのではなく、オープンにして誰でも見れる形にすることで安全性を担保するのだ。これはまるで昔の「村社会」のようだ。

そしてこの技術を使って「仮想通貨」というものが取引される。仮想通貨は誰が誰にいくら渡したかを誰でも閲覧することができる。全ての取引履歴が改ざん不可能な形で遡り閲覧できる。仮想通貨が目指したものは「法定通貨とは別の価値を持つ通貨」だとも言われる。国家が破綻してしまっても、デジタル上にできた独立の「村社会」で、中央集権的な管理がなくとも小さな商いをやりとりできる仕組みである。「脱中央集権」こそがweb3のテーマだと言われている。「仮想通貨で一儲け」と声高らかに叫んでいた人たち(今はもうほとんど消滅したが…)は、仮想通貨の本質的な理想「脱中央集権的な価値のコミュニケーション」には辿り着けず、彼らによって仮想通貨に真逆のイメージがついてしまったことは非常に残念だ。

そしてやっとNFTの話である。仮想通貨にも円やドルのようにいくつかの銘柄があり、一番有名なのはBTC(ビットコイン)だが、NFTはその次に有名な銘柄であるETH(イーサリアム)と深い関わりがある。ビットコインなどのほとんどの仮想通貨に記録できることは(誰から誰に渡ったか)というような短い情報だけだったのだが、なんとイーサリアムには、その情報以外にも短いプログラム(スマートコントラクトと呼ばれる)も一緒に記録できるのだ。

例えるならばビットコインなどがシンプルな「お札」なのであれば、イーサリアムは「お札の乗っかった箱」である。茶道教室とかで偉い先生とかに菓子折りを持っていくときには、お菓子の上にお金の入った袋を載せて、お金なのかお菓子なのかよくわからん状態で渡すみたいな恐ろしいカルチャーがあるらしいが…イーサリアムとはまさにそういう状態である!(どういう状態!?)

または、「透明なCD」と言ったらわかりやすいだろうか。とにかく他の仮想通貨とは違い、中にデータが入れられる仮想通貨がイーサリアムだ。それによって、ビットコインなどでは単純にお金のやりとりだけだったのが、イーサリアムでは入れられるデータならなんでも、画像も、映像も、音楽も、プログラムも、テキストも、「透明なCD」に入れてやりとりできることになる。そして、お金だけの仮想通貨が「代替可能=ファンジブル・トークン」、イーサリアムなどにデータを入れる「透明なCD」のついている仮想通貨が「代替不可能=ノン・ファンジブル・トークン」と呼ばれることになった。さらに「透明なCD」であるNFTは分散型ネットワークに保存されて、どこかでデータが破壊されても補完しあい証明し合う。

ちなみに、「NFTになっている画像などのデータはコピーできない」というのは間違いで、正確には「コピーできるデータのうちひとつにブロックチェーンでホンモノですとサインを書いてNFTにしておける」という認識の方が正しい。


ハイパー神社「GIF明神」

③ノンファンジブルとは?

ここで少し話が逸れるが、ノンファンジブルという言葉について探ってみよう。ノンファンジブル=代替不可能性とはなんだろうか?例えばお金は「ファンジブル=代替可能」なものである。僕が持っている1000円とあなたの持っている1000円は全く同じ価値を持っている。それらを取り替えたところで互いに損もしないし得もしない。これが通貨の重要な機能でもある「代替可能性」である。では、そうでない「ノン・ファンジブル」とはどういう状態だろう?僕の持っている綺麗な石とあなたの持っている魚交換しましょう、みたいな状態が「ノン・ファンジブル」である。
我々はNFTの登場前から、「ノン・ファンジブル」なデジタルデータを知っている。それは「ポケットモンスター」ちぢめてポケモン。ふしぎなふしぎな生き物である。これはポケモンをやったことがある人しかわからないのだが、例えばピカチュウ同士を交換した場合でも、自分のピカチュウと相手のピカチュウではレベル、個体値、おや、IDや持ち物など、全く違うものになっている。この状態は1000円と1000円を交換した時とはちがう。

自分の持っているピカチュウが「なみのりピカチュウ」であれば、相手の持っている「普通のピカチュウ」とは交換したくないだろう。これが「ノン・ファンジブル」な状態である。デジタルデータでも一つ一つが固有の状態を保つこと。これがNFTの特徴だ。そして、ポケモンをやったことがある人はそうでない人より少しだけ、NFTを理解しやすいかもしれない。全てのNFTは「ゲームカセット外に取り出せるポケモン」だとも言える。


ハイパー神社「PNG明神」

④透明なCDの種類

NFTはデータの入れられる「透明なCD」だと先ほど述べた。そしてそれらにもかなりいろんな種類がある。どんなものがあるか見てみよう。
まずはいろいろなチェーンから。これは先ほどの銘柄と同じで、円やドルのように「どんな仮想通貨を使って」NFTを作っているのか、という分類になる。代表的なのを三つ挙げてみよう。

1.ETHチェーン
これがNFTの基本的なチェーンとなる。通常の「イーサリアム」を使ったNFTである。多くの人がこれでNFTを使っているので売買がとてもスムーズだし信頼性も高い。その代わりに、ガス代(NFTを作ったり、売り買いするときにガス代という手数料がかかる。)が少し高い。

2.ポリゴンチェーン
1のETHチェーンが「特急」ならば、ポリゴンチェーンは「鈍行」であり、携帯電波で言えばドコモ電波を使った格安ケータイ(楽天モバイルとか)のようなもの。サイドチェーンと呼ばれ、ETHの余った部分を使ってやりとりできる。そのためガス代は格安だが、取引スピードが遅く、ブランド力も少し劣る。後述のフルオンチェーンとの相性はバツグン。

3.オーディナルズ
なんとビットコインを使って作ってしまうNFT。ビットコインではNFT作れないみたいな今までの説明なんだったんだよ!という大どんでん返しだが、どこかの誰かがそれを可能にしたそう。世界は広い。僕もまだ触っていないので詳しいことは不明。興味のある人は調べてみよう。

4.独自チェーン
「LINE NFT」とか「楽天NFT」のような、プラットフォームが開発したNFT。僕個人の見解としては本質的なNFTなのかどうか疑問に思っている。なぜなら、そのプラットフォームで作られたNFTは、他のプラットフォームにうつしたり、売買することができない。これでは、「ポケットモンスター」というゲームから外に出ることができない「ポケモン」や、「kindle」から外に出ることができない「電子書籍」となんら変わらない。プラットフォームが潰れたらそれらのNFTも無意味になってしまう。ようはあまりNFTの本質を理解しきっていない企業がなんとなくweb3っぽい流れに乗った結果と言える。とはいえ、日本円決済ができたりと便利な点が多いので、初めてNFTを買う人や、売り買いする本人がそれを納得した上で使う分には良いものだと思う。僕は絶対に買わない。

そして、コントラクトという区分がある。それぞれのチェーンを使ってNFTを「どう記述するか」の方法である。印刷物で言えばインクの種類のようなものだ。NFTにコントラクト(プログラム)を書き込める容量は現段階では非常に小さいので、画像や動画データを保存する場合は外部リンクのURLをコントラクトに貼り付けたり、NFT使用のルールをテキストで貼り付けたり、インタラクティブなプログラム(NFTをクリックすると変化したり、webサイトと連動して変化したりなど)を書き込んだりする。それをコントラクトと呼ぶ。コントラクトはsolidityという言語で書かれることが多い。

こちらも3種類上げてみよう。

1.共有コントラクト
「opensea」などのマーケットで提供しているコントラクト。これは「独自チェーン」と混同してしまうが全く別物である。「独自コントラクト」は、openseaなどのプラットフォームが各自で用意したコントラクトで、誰でもプラットフォームを介して簡単にNFTを作成することができる。その代わりにカスタマイズ性が低く、他のwebサイトとのインタラクティブな連動がしずらかったり、NFTに保存されている画像などがプラットフォームに管理されたサーバーだったりと分散性が低い。NFTをはじめて触る場合などにおすすめ。

2.独自コントラクト
共有コントラクトよりはハードルが高く、NFTのコントラクトそのものを独自にプログラミングして制作されたNFTのこと。他webサイトとの連動などのカスタマイズ性や、NFTにリンクする画像データなどを指定のIPFSサーバー(分散型サーバー)に保存できたりなど自由度が高いが、「solidity」のコーディングができる人がいないと作ることができない。画家がこれを作る場合は開発チームが必要。

3.フルオンチェーン
これは「独自コントラクト」に含まれるが、その中でも特別なNFT。前述のように「透明なCD」であるNFTの保存容量はめちゃくちゃ少ない。そりゃもう昔のフロッピーディスクぐらい小さいんだと思う(よく調べてないけど)。だからほとんどのNFTは画像や音楽はIPFSなどの外部サーバーに保存しておいて、それらのサーバーのありかをコントラクトに書いておくことでリンク付けしている。要するにほとんどのNFTは、NFTの中に画像があるわけではないってこと。だけどフルオンチェーンは違う。非常に小さな画像だったりデータなら、コントラクトに直接画像をプログラムとして書き込んでしまうことができる。だいたいが16x16とか小さなドット絵だったりするのだけど、サーバーがなくなったりしてもデータが消えることがないので「真のNFT」との呼び声が高いのがこのフルオンチェーンなのだ。ちなみに書かれるコントラクトが長くなりガス代はものすごい高額になるので、ポリゴンチェーンと組み合わせて使われることが多い。

この「チェーン(何を使って)」x「コントラクト(どう作るか)」の組み合わせによって「透明なCD=NFT」はできている。印刷物が絵柄だけでなく印刷技法によって価値が変わるように、NFTもこれらの組み合わせによって書き込めるデータ量やインタラクティブ性、他社依存の度合いなどが変化し価値が変わる。そしてこの辺りはどんどん新しいものが出てきているので、僕も知らない技術がガンガン生まれているかもしれない。


ハイパー神社「EXE明神」

⑤NFTの三つの分類

NFTはどんな人たちが作ったり、買ったりしているのだろうか?アートを知らない人たちがアートを作ったり買ったりする人のことを知らないように、NFTを知らない人たちはNFTを作ったり買ったりする人のことを全く知らない。僕はNFTを作ったり買ったりする人をだいたい3つの分類に分けている。

1.理系(プログラム)
NFTはプログラミングによってアートを作る人々の救いとなった。プログラミングはwebサイトやインタラクティブアートによっと使用されるが、そういったプログラミングコードは「ハッキングの精神」によって誰が作ったのかわからないものになりどんどんコピーされ、web2世界においては広告業界や大企業の搾取対象となった。プログラマーは自分の書いたコードを「作品」と名乗ることが非常に難しかった。NFTはそれを変えたのだ。NFTで活躍する理系の人たちは、オリジナルなコードをどんどんインタラクティブなNFTとして発表している。webページを更新することで見た目が変化するものや、コーディングによって作り出される動く抽象画のようなNFTまでさまざまだ。

2.文系(アート/画像)
NFTはプログラマーを救ったように、デジタルで作品を作る僕のようなアーティストの救いにもなった。デジタル画像・動画領域もまた、pixivやyoutubeなどではクリエイターの作品は無料で閲覧・保存されることが当たり前であり、「企業の広告のためのコンテンツ」として消費されてきた。音楽やテキスト製作者がサブスクリプションサービスで得られる金銭は非常に少ない割合だ。NFTはそんなコンテンツ製作者に「直接欲しい人に売る」道を示した。NFTは単純に画像や音楽をダウンロードするだけでは成り立たない、「購入者が特定のクリエイターのファン/パトロンだと証明できる」という、美術の価値生成において非常に根源的な力を持っている。

3.体育会系(コミュニティ・ユーティリティ)
美術を勉強している人の意見でよく「なんでこんな絵のNFTが人気があるの?」というのを聞くが、その多くはこのジャンル「体育会系」のNFTである。この場合NFTの表面になっている画像はあまり意味を持っていない。これらのNFTは「サークルの会員証」のような形で使われていることが多く、持っている人は有力な情報を得られたり、会合に参加できたり、プレゼントがもらえたり、というユーティリティとコミュニティを中心にしている場合が多い。だから絵が下手クソだったりセンスがなかったりしても「会員証の表紙がダサいだけ」なのでなんら問題はないのだ。もちろんコミュニティチケット的なNFTでありながら、画像もかっこいい場合もある。

いかがだろうか。僕はNFTはだいたいこの三つに分けられると思っている。かつ、1と2の性能を持っているものや、2と3の性能を持っているものも存在する。僕のNFTも基本的には2の美術作品として販売しているが、一応3のコミュニティのようなものも存在するし、1のプログラミング的な特徴も(プログラマーチームが頑張って作ってくれているので)ある。

そしてそれらを総合したものとして4つ目の分類である、「ゲーム系」が成熟しつつある。後述するが、「ゲーム」から生まれたNFTはおそらくふたたび「ゲーム」の方向へ向かっていく。


ハイパー神社「OBJ明神」

⑥デジタルデータの価値とNFTの精神性

NFTのことを話すと、「デジタルデータを所有するってどういうこと?意味わかんない」みたいな話をよく耳にするが、よく考えてみて欲しい。我々はそもそも、CDやファミコンのカセットやDVD、ipodにいたるまで、「デジタルデータを所有し続けてきた」のだ。

そのことが失われてサブスクリプションサービスを中心にしたコンテンツ消費に移行し、「データを所有することを失った」のはむしろweb2以降の世界で、大手企業がさまざまなコンテンツの所有権を独占したにすぎない。これはどういうことか詳しく説明しようと思う。そもそも我々がCDやファミコンカセット、DVD、冊子で持っていた「音楽」「ゲーム」「映画・アニメ」「テキストや漫画」、これらを僕たちがどうやって今消費しているか見てみればよくわかるだろう。ほとんどが「spotifyやnetflixなどのサブスクリプション」か、「youtubeなどの無料サイト」で消費している。

サブスクリプションサービスはクリエイターから直接データを購入しているわけではないので、クリエイターが独占しているデータでもないし、ましてや消費者はデータをストリーミングで見ているだけで所有していない。だから出演者から逮捕者が出て配信停止でみれなくなったり、企業の都合で突然音楽が聞けなくなったりする。

そして、YouTubeやPixivなどの観覧無料サイトはどうだろうか。これらはTV・新聞などのマスメディアから続く「広告収入」のスタイルをとっており、クリエイターの作るコンテンツはコンテンツの価値で売買されているわけではなく「広告のために無料でコンテンツを提供している」状態だ。ヒエラルキーはまず広告があり、その次にクリエイターのコンテンツがある。

おわかりいただけただろうか?現状、デジタルデータという資産は製作者でも購入者でもなく、企業が占有しているのだ。人々がCDやゲームカセットやDVDで所有できるはずだったデジタルデータを軒並み衰退させ、データを企業の所有物として飼い慣らしてしまったこのweb2の世界は、インターネットが流行し出した当初述べられていた「自由」とはほど遠い、恐ろしい状態だ。僕たちクリエイターにとってみれば、TVの腐敗よりももしかしたらひどいかもしれない。

だからこそ僕は「うさんくさい」と罵られてもNFTに希望を持っている。僕たちは作る側も楽しむ側も、NFTによって、「データを所有する」ことを再び個人の手に取り戻すことができる。NFTなら作る側から楽しむ側に、純粋にストレートに手渡すことができる。そして感想をもらったり、コミュニケーションを取ることができる。

デジタルデータという見えないものをブロックチェーンという呪文で繋ぎ止める。デジタルデータの購入はまさに「お守り」を買うこととリンクする。人から人に渡っていくことで、手元の画面にあるNFTから、分散され保存されている目に見えぬ魂に思いを馳せることができる。これがNFTの精神性だと僕は思っている。


ハイパー神社「SVG明神」

⑦NFTのこの後

どんなに怪しまれても、NFTという技術そのものはおそらくデジタル世界の大革命なので廃れることはないだろう。バブルが終わってもジワジワと浸透していくと僕は思っている。そしていくつかの予想を立てている。

ひとつめは、NFTは場末のバーにあるマッチ箱のような存在になるのではないかということだ。商店街のポイントカード、ちょっとしたライターやグッズのような、「その場所に行った思い出」みたいなこととNFTの相性はとても良い。そして製作費が安いのがNFTの良いところ。印刷費も在庫置き場もあまり必要ない。これらの条件は、予算がない地方の商店街だとか、事業を始めたてのお店にとってきっと素晴らしいものだと思う。NFTがもう少し浸透したら「デジタル上のあかし」としてはまだまだ伸びるのではないだろうか。デジタルなそんなものもらって嬉しいかだって?ポケモンをやったことがある読者の中で、ニビシティのタケシを倒した時に初めてもらったグレーバッジのことを忘れる人はそうそういないだろう。

もうひとつは、「ゲーム」というキーワードだ。NFTの本質的な要素を理解していくと、このワードに辿り着く。例えば僕のプロジェクト「ハイパー神社」では、購入したNFTのキャラクターをwebサイトにセットすることでURLが生成され、そこに多くの人が参拝しにくることでレベルが上がり進化する(ポケモン好きすぎ)。この「レベル」や「進化形態」もNFTに書き込まれ、更新されていく。NFTというのは「ゲームのキャラクター」と「ポイントカード」を同時に持っているようなものなのだ。これができると一体どういうことになるのか想像してみよう。

例えば、たまごっちのようなキャラクターのNFTを購入し、とあるwebサイトで育成できるとする。それをリアルな近所の商店街に持ち込んで「レベル10以上の人だけが頼めるドリンク」を頼むことができたらどうだろうか。逆に、リアル脱出ゲームや謎解きゲームに参加することで手に入るNFTのアイテムが自分の持っているNFTキャラクターに装備できて、それをweb上のオンラインバトルのゲームで使用することができたらどうだろう?

このように、NFTは「主人公/ペットキャラ」と「アカウント」と「ポイントカード」と「トロフィ」が全部一緒になることで、現実世界とインターネット世界を自在に「ゲーム的ルールで」行き来するような共通のアバターとして広がっていく可能性を秘めている。そして、僕はそれに大いに期待してNFT作品を今後も作っていくだろうと思う。目に見えない「向こう側の存在」としてのデジタルデータをすぐそばに感じ、相棒になる技術はすぐそこまできている。



ハイパー神社「HTML明神」



(ハイパー神社のNFT欲しい人はたかくらにDMしてネ!)
https://www.transformart.xyz/exhibition/hypershrine-2023

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