上杉謙信と武田信玄の決戦といえば、
両者が一騎討ちを行ったとされる
第四次川中島合戦がよく知られる。
この戦いを軸に謙信を描く海音寺潮五郎の
『天と地と』を角川春樹氏が映画化（1990年）。
小室哲哉さんの音楽も話題になりました。

あらすじ

「これより、武田軍本陣をつく！ 目指すはただ一つ、信玄が首！　後れをとるなッ！」
　
時は戦国。越後の長尾景虎（後の上杉謙信、榎木孝明）は兵を挙げた兄・晴景の軍を破り、長尾家当主となった。

その後も家臣らの離反や、非情になれぬ己に苦しみながらも越後の支配を固めていく。

景虎の心の拠りどころは帰依（きえ）する軍神・刀八（とはつ）毘沙門天であり、一切の煩悩を断つことを誓っていた。が、重臣・宇佐美定行（渡瀬恒彦）の娘、乃美（浅野温子）には惹かれていく。

そんな中、甲斐の武田晴信（津川雅彦）が信濃に侵攻。領地を奪われた村上義清の救援要請に景虎は応え、信濃の川中島で初めて武田軍と干戈（かんか）を交える。

ところが、武田の調略は景虎が信頼する宇佐美のもとにまで及んでいた。

家中一同が宇佐美の逆心を疑った。景虎と宇佐美は家臣らが見守る前で一騎討ちを行い、景虎は断腸の思いで宇佐美を討ち果たす。これによって長尾家はまとまったが、以後、景虎が乃美と会うことはなかった。

一方、武田は川中島に海津城を築き、奥信濃まで我が物にしようとする。決戦を覚悟した景虎は上杉謙信と名を改め、晴信もまた武田信玄と名のり、両雄は再び川中島で相まみえることになった。

信玄は川中島の海津城、謙信は妻女山に陣取り、睨（にら）み合いの日々が続く。やがて、深い霧をついて両軍が動く中、謙信のもとに乃美の訃報が届いた。

赤と黒

上杉謙信を主人公に、武田信玄との対決を描いた本作は、角川映画15周年記念作品。カナダでロケを行なった合戦シーンは、現地のエキストラと馬を多数活用し、そのスケールは日本映画史上最大とのことでした。

広大な草原を無数の騎馬武者が疾走するスピード感と、合戦場全体を俯瞰する映像は圧倒的な迫力です。ＣＧの技術が発達していない当時、すべてが実写であることを思えば一見の価値があるでしょう。

それでいて、ところどころ信州を感じさせる工夫もあります。白樺の木、重く垂れこめた雷雲下の平原をゆく軍勢・・・。

また両軍将兵の甲冑が黒と赤（上杉が黒、武田が赤）に統一され、壮絶な合戦シーンながらコントラストが非常に美しい。武田の赤は赤備隊からきているのでしょうが、上杉軍が黒のイメージが多いのは、この映画の影響も少なからずあるような気がします。

もちろん、実際の川中島合戦でこんな事実はありません。上杉・武田両軍ともに将兵の軍装の色はさまざまでした。

余談ですが戦国時代の合戦では、旗標（はたじるし）を覚えていないと、乱戦では敵と味方がわからなくなったようです。私もよく合戦シーンを見ながら、どうやって敵味方を判別するのかと思っていましたが、旗ぐらいしか見分ける方法はありません。この映画のように見分けがつくと、戦いやすいでしょうね。

なお映画では合戦以外の場面で、桜や紅葉など日本の四季の美しさの表現に力を入れているのも、角川氏らしいところでしょうか。

なぜか繰り返し観てしまう

私はこの映画、封切りの日に映画館に行ったことを覚えています。当時、かなり宣伝はされていたと思いますが、館内は満員ではありませんでした。

というのも、実は当初、主役の謙信を演じるのは、大河ドラマ「独眼竜政宗」でブレークした渡辺謙さんのはずでした。しかし、大病を患い降板。急遽、代役を務めたのが榎木さんでした。そうした意味で、やや残念な前評判があったように記憶します。

映画の出来も、必ずしも高評価ではありません。しかし、個人的には好きな映画で、なぜか繰り返し観てしまいますし、劇中の音楽も、謙信や戦国をイメージさせるものが多いと私は感じます。

なんといっても、謙信役の榎木さん、信玄役の津川さんの気迫あふれる演技が、緊張感があって心地よいのです。

銀の甲冑をまとい、白馬に跨（またが）る謙信が檄（げき）をとばすや、突撃の合図「懸かり乱れ龍」の軍旗が上がり、漆黒の甲冑に身を包んで、「毘」の旗標を背にする越後勢が、八幡原を怒涛のごとく駆け出す。

燃えるような真紅の衣を甲冑の上にかけ、本陣にどっしりと構える信玄は、迫り来る謙信にうろたえる側近を叱咤し、「退くわけにはいかん。これはわしと謙信との戦いなのだ」と、腰を上げた。両雄激突の行方は…。

結局、きっと私は謙信が好きなのでしょうね(笑)。

ＤＶＤ『天と地と　天ノ盤』

ＳＴＡＦＦ・ＤＡＴＡ
１９９０年　「天と地と」委員会
製作:角川春樹、大橋 渡
監督:角川春樹
原作:海音寺潮五郎
脚本:鎌田敏夫
　　 吉原　勲
　　 角川春樹
撮影:前田米造
音楽:小室哲哉
出演:榎木孝明
　　 津川雅彦
　　 浅野温子
　　 財前直見
　　 野村宏伸
　　 伊武雅刀
　　 岸田今日子
　　 夏八木勲
　　 渡瀬恒彦

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