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自#172|性善説に立たないと、サスティナブルな未来は築けない(自由note)

 音楽プロデューサーの小林武史さんのインタビュー記事を、朝日新聞のbeで、読みました。音楽業界は、CDが売れなくなってしまっているので、明らかに構造不況業種です。新しいCDを作成して、ツァーを実施し、CDを売りまくると云うこれまでのビジネス路線そのものが、もう不可能になってしまっています。今やCDデッキすら、さほど見かけなくなってしまいました。

 小林さんは、CDが売れに売れていた90'sにMr.ChildrenやMy Little Loverなどのアーティストのプロデュースをして、大活躍されていました。レコードやCDが、マーケットで大量に販売されていた20世紀、レコードやCDと云った形のあるソフトが売れなくなった21世紀と云う区分は、可能だと思います。CDを、ほぼ無用の長物にしてしまったのは、ipodやiphoneと云うnew comerの機器の登場ですが、アーティストとしての小林さんに衝撃を与えたのは、2001年9月11日に起こった、ニューヨークのTwin Towerにイスラム過激派が突っ込んだ自爆テロ、つまり9.11事件です。

 9.11事件が起こった時、私は、牧歌的な多摩地区のK高校に勤めていましたが、学校のテレビで、9.11の映像を見て、やはり強烈な衝撃を受けました。9.11事件に遭遇して、世界中の良識ある知識人の多くが、産業革命以降、大発展し続けて来た資本主義のメカニズムを、今風の言葉を使うと、SDG's的な方向に大きく軌道修正しなければいけないと、考えた筈です。

 小林さんは、音楽プロデューサの仕事で富を得て、アメリカに制作拠点を置いて暮らしていました。9.11事件に遭遇したあと、当時、ニューヨークにいた坂本龍一さんに誘われて、東京で、地球上の諸問題を知るための勉強会を始めたそうです。環境団体や音楽仲間など30人ほどが集まって、2年間くらい勉強会を続けた様子です。この勉強会を通して、現代の経済システムが、環境に影を落とし、地球が危機的な状況にあると云うことを、はっきりと認識します。勉強会に招いた講師の中に、NPOバンクの代表者の方がいて、地域で集めたお金を、環境や福祉に取り組む事業者に融資する仕組みを理解します。そこで、サスティナビリティのためにお金を使うことができる「a p bank」を坂本龍一さんたちと一緒に立ち上げます。サスティナブル(持続可能)な未来のために、何ができるのかを、その後も考え続け、農業法人も設立します。

 先日の新聞で、人材派遣企業のパソナグループが、本社機能を淡路島に移転し、1200名が移住すると云う計画を発表していました。新型コロナウィルスの感染拡大で、決断したそうです。2024年に移転完了の予定ですが、すでに社員80名が、島内各地で、仕事を始めています。新型コロナウィルスの感染拡大は、どこにいても、リモートで仕事をすることが可能だと云うことを、明らかにしました。一極集中で、東京に本社を置く、その必要はまったくないと云うことが、コロナ禍によって、判明しました。2001年の9.11事件、2011年の3.11の大震災、2020のコロナ禍と、10年ごとくらいに起こっている大事件は、ひとつながりのものであると云う気がします。どの事件も、産業革命以降のシステムの変更を、強く示唆していると云う風に受け止めることができます。

 パソナグループは、農業の雇用を生み出すことを目的として、10年以上前から、淡路島に進出していたそうです。すでに、クレヨンしんちゃん、ハローキティなどのキャラクターをテーマにした施設やレストラン、宿泊施設や劇場などを展開しています。移転する大きなメリットは、家賃の安さです。ある社員は、東京では、1LDKで暮らしていたんですが、淡路島に移転すると、広さは3LDKになって、それでも家賃は10万円安くなったそうです。パソナグループの代表は
「社員の豊かな働き方、暮らしを実現したかった。本当の幸せは、食べ物、子育て、自由な時間だ。淡路では、農業をしながらとかデュアル(二つの)な働き方ができる。ネットが普及し、どこでもオフィスにできる。大地震を考えても、リスクの分散が必要だ。ずっと続いて来た一極集中は、転換点に来たと思う」と語っています。

 小林さんは、2019年の秋「KURKKU FIELDS」(クルックフィールズ)と云う農業と、食とアートを融合した複合施設を千葉県の木更津に開業しました。木更津は、淡路島ほど東京からかけ離れた田舎ではなく、一応、首都圏の一画ですが、千葉県は東京と違って(東京だって、青梅線に乗って、奥に入れば田舎は、いくらでもありますが)そこら中、田舎です。クルックフィールズの広さは、約30ヘクタールです。広大な敷地内に、有機野菜の農場や、水牛やヤギが暮らす畜舎と鶏舎、レストランやベーカリーがあります。丘陵の中腹には、現代アートの大家、草間彌生さんの作品を設置し、農場も含め、全体がアートな空間だと、訴えかけています。「サスティナブルな営みを体感できる場」と云う小林さん自身のヴィジョンを実現するために、土地の開墾に始まり、農業や畜産の技術者、森林や環境デザインの専門家たちの知恵を借りながら、10年かけて完成したそうです。今年は、コロナ禍に見舞われましたが、巣ごもり消費で、野菜などの直販が活況だったようです。音楽業界は、目も当てられないほどの大被害を、現在も受けていますが、農業を始めたことによって、リスクは分散できたと言えそうです。

 クルックフィールズでの小林さんの立場は、形式的には総合ブロデューサーですが、実質的には、統括や管理はしてないそうです。
「僕のヴィジョンに共鳴して、アイデアを持ち寄った人々の自治に信託します。上から下に指示がおりる組織ではなく、この場の営みの最善の形を全員で考え、個々が全力を尽くす。そんな自治する力を信じたい。その上で、プロのシェフなどの協力者の力を借りて、自治が回るしくみを整えます」と小林さんは、語っています。これは、つまり性善説です。音楽の制作をする場合、性悪説では、絶対に音楽は制作できません。音楽は、制作する人の心が、directに作品に反映します。pureな心でないと、音楽制作は不可能なんです。経営と云う世界では、普通、性悪説に立って行動し、利益を生み出して行くものだと思いますが、性善説に立つ経営者がいて、それで、上手く回って行く社会にならなければ、サスティナブルな未来は、築けないだろうと、想像できます。

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