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終章 毒とはうまくつきあおう 3.役に立つ毒もある、および、抗毒素(血清)とは:「特別展「毒」」見聞録 その34

2023年04月27日、私は大阪市立自然史博物館を訪れ、一般客として、「特別展「毒」」(以下同展)に参加した([1])。

同展「終章 毒とはうまくつきあおう 3.役に立つ毒もある」([2][3]のp.165-166)では、抗生物質、特にペニシリンが展示・紹介された。

抗菌薬は細菌を壊したり、増殖を抑えたりする薬であるが、その中でも微生物が作った化学物質を抗生物質や抗生剤ということもある([4])。

抗菌薬のクラスとしては以下のものがある([5])。

l   アミノグリコシド系

l   カルバペネム系

l   セファロスポリン系

l   フルオロキノロン系

l   グリコペプチド系およびリポグリコペプチド系(バンコマイシンなど)

l   マクロライド系(エリスロマイシンやアジスロマイシンなど)

l   モノバクタム系(アズトレオナム)

l   オキサゾリジノン系(リネゾリドやテジゾリドなど)

l   ペニシリン系(図34.01,[6]

l   ポリペプチド系

l   リファマイシン系

l   スルホンアミド系

l   ストレプトグラミン系(キヌプリスチンやダルホプリスチンなど)

l   テトラサイクリン系

カルバペネム系、セファロスポリン系、モノバクタム系、および、ペニシリン系は、ベータラクタム系抗菌薬(ベータラクタム環と呼ばれる化学構造を特徴とする抗菌薬のクラス)のサブクラスである。

上記のクラスに該当しない他の抗菌薬には、 クロラムフェニコール、 クリンダマイシン、 ダプトマイシン、 ホスホマイシン、 レファムリン、 メトロニダゾール、 ムピロシン、 ニトロフラントイン、 チゲサイクリンなどがある。

図34.01.ペニシリン。

抗菌薬を使い続けていると、細菌の薬に対する抵抗力が高くなり、薬が効かなくなることがある。このように、薬への耐性を持った細菌のことを薬剤耐性菌と言う([7])。薬剤耐性菌をなるべく蔓延させないためには、感染対策や抗菌薬の適正使用を行っていく必要がある([8])。

一方、同展「終章 毒とはうまくつきあおう 抗毒素(血清)とは」(2,3のp.167-168)では、抗毒素(血清)が展示・紹介された。

血清療法とは、人工的に作られたポリクローナル抗体(ヒト、他の動物)を含む血清(抗毒素、抗血清とも呼ばれる)を投与して治療することと定義されている。その歴史は、1890 年 に北里柴三郎(以下敬称略)とエミール・ベーリングが、ジフテリアと破傷風の血清療法の発見を発表したことにより始まる。現在、日本には国有品として、ガス壊疽抗毒素、ジフテリア抗毒素、および、ボツリヌス抗毒素があり、保険承認薬で通常医療機関ですぐに使用できるものとしてマムシ抗毒素、ハブ抗毒素、および、破傷風ヒト免疫グロブリンなどがある。さらに未承認薬で臨床研究として使用可能なものにヤマカガシ抗毒素、セアカゴケグモ抗毒素がある(図34.02,[9])。

血清療法は抗体医薬品の原型である([10])。

血清療法が抗毒素(抗体)を接種するのに対し、ワクチンは不活化した毒素(抗原)を接種することにより、体内で抗体を作らせる([11])。

図34.02.抗毒素(血清)の製品。
毒素に結合する抗体を分離精製したもの。液状のものと凍結乾燥した粉末のものがある。
日本蛇族学術研究所蔵。
上.向かって左から、キングコブラ抗毒素とタイワンアマガサ抗毒素(液状)。
中.向かって左から、ヤマカガシ抗毒素とタイワンアマガサ抗毒素。
下.向かって左から、ハブ抗毒素、マムシ抗毒素、および、セアカゴケグモ抗毒素。

医療において、我々人類は、微生物が作った毒である抗生物質を手懐けて、抗菌薬として利用している。一方、毒素に対抗する手段として抗毒素(血清)を生み出し、これが抗体医薬品の原型となっている。

これこそが人類の英知である。


参考文献

[1] 独立行政法人 国立科学博物館,株式会社 読売新聞社,株式会社 フジテレビジョン.“特別展「毒」 ホームページ”.https://www.dokuten.jp/,(参照2023年08月30日).

[2] 独立行政法人 国立科学博物館,株式会社 読売新聞社,株式会社 フジテレビジョン.“終章 毒とはうまくつきあおう”.特別展「毒」 ホームページ.https://www.dokuten.jp/exhibition05.html,(参照2023年08月30日).

[3] 特別展「毒」公式図録,180 p.

[4] 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院.“抗菌薬とは”.かしこく治して、明日につなぐ~抗菌薬を上手に使ってAMR対策~ ホームページ.一般の方へ.感染症の基本.2017年09月.https://amr.ncgm.go.jp/general/1-1-3.html,(参照2023年08月30日).

[5] MSD株式会社.“抗菌薬の概要”.MSDマニュアル家庭版 ホームページ.16.感染症.抗菌薬.2020年 07月.https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0/16-%E6%84%9F%E6%9F%93%E7%97%87/%E6%8A%97%E8%8F%8C%E8%96%AC/%E6%8A%97%E8%8F%8C%E8%96%AC%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81,(参照2023年08月30日).

[6] MSD株式会社.“ペニシリン系”.MSDマニュアル家庭版 ホームページ.16.感染症.抗菌薬.2020年 07月.https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0/16-%E6%84%9F%E6%9F%93%E7%97%87/%E6%8A%97%E8%8F%8C%E8%96%AC/%E3%83%9A%E3%83%8B%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%B3%E7%B3%BB,(参照2023年08月30日).

[7] 中外製薬株式会社.“耐性菌とは”.中外製薬 ホームページ.患者さん・一般の皆さま.からだとくすりのはなし.からだとくすり.https://www.chugai-pharm.co.jp/ptn/medicine/body/body006.html,(参照2023年08月30日).

[8] 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院.“薬剤耐性菌の歴史・変遷”.かしこく治して、明日につなぐ~抗菌薬を上手に使ってAMR対策~ ホームページ.医療従事者の方へ.薬剤耐性菌について.2017年09月.https://amr.ncgm.go.jp/medics/2-1-1.html,(参照2023年08月30日).

[9] 抗毒素製剤の高品質化、及び抗毒素製剤を用いた治療体制に資する研究[AMED阿戸班].“血清療法全般についてわかりやすく解説しました。”.血清療法 ホームページ.お知らせ.ブログ.2020年03月01日.https://www.serum-therapy.com/blog/post-696/,(参照2023年08月30日).

[10] 協和キリン株式会社.“抗体医薬品のあゆみ”.抗体医薬品 ホームページ.抗体医薬品について.https://www.kyowakirin.co.jp/antibody/about_antibody/history.html,(参照2023年08月30日).

[11] テルモ株式会社.“医療の挑戦者たち 31 血清療法の確立 救いたい命がある。救える方法は、まだない。”.テルモ JAPAN ホームページ.企業情報.企業広告.医療の挑戦者たち.https://www.terumo.co.jp/story/ad/challengers/31,(参照2023年08月30日).

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