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論文紹介 グローバル化が地域経済を変え、有権者の政治行動を変える

グローバル化が進んだことによって、世界各国の経済活動は以前よりも深く、強く結びつくようになりました。これは世界経済の全般的に成長に繋がった側面がありますが、国際競争の激化を引き起こした側面もあります。

アメリカでは2000年代以降に中国から輸入が拡大するにつれて、製造業を中心に競争に敗れる事業者が出てきました。鄧小平の政策転換で中国の製造業は1992年から輸出を急拡大しており、2010年代までに世界経済で大きな勢力に成長しました。このために、競争に敗れたアメリカの事業者は非熟練労働者の雇用を減らし、地域住民の所得減少が起きました。それだけでなく、地域住民の政治行動にも大きな変化をもたらしたことが研究で分かっています。

Dorn, D., Hanson, G., & Majlesi, K. (2020). Importing political polarization? The electoral consequences of rising trade exposure. American Economic Review, 110(10), 3139-83. DOI: 10.1257/aer.20170011

著者らによれば、貿易を通じて中国との国際競争に晒されている地域では、2000年から2016年までの連邦議会選挙と大統領選挙で民主党より共和党を支持する傾向がより強化されていました。その地域の有権者の投票行動だけが独立して変化したわけではないことも確認されています。国際競争で打撃を受けた地域では保守的立場をとるニュース専門放送のFOXニュースの契約者が増加しています。また、そのような地域では選挙資金の提供者の間でイデオロギー的志向が強くなっています。

ただし、国際貿易の激化が常に保守派、右傾化を引き起こすとは限らないことも指摘されています。そのようなパターンはその地域の住民の人種別構成で白人が多数を占めている場合に限定されているためです。もし非白人が多数を占めている地域であれば、地域住民は保守化、右傾化するのではなく、革新化、左傾化するので、民主党が優位に立ちやすくなります。つまり、経済的打撃に対して地域住民は常に特定の方向にイデオロギーを変化させるわけではありません。むしろ、自分が帰属する社会集団を外集団とより厳密に切り離す認知を強く持つようになると理解する方が適切でしょう。

国際競争の激化による経済的打撃が地域住民の政治行動を変化させるメカニズムはアメリカ政治の分極化を理解する上で非常に重要なだけでなく、また先進国でポピュリズムが広がる要因を理解する上でも有益なものです。というのも、1988年から2007年までの西ヨーロッパ諸国15カ国の選挙でグローバル化がどのような政治的影響を与えてきたのかを調査した研究でも、中国からの輸入が増加した地域で有権者の政治行動に特徴的な変化があったことが報告されているためです。

Colantone, I., & Stanig, P. (2018). The Trade Origins of Economic Nationalism: Import Competition and Voting Behavior in Western Europe. American Journal of Political Science, 62, 936-953. https://doi.org/10.1111/ajps.12358

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