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【読書感想】中村文則『あなたが消えた夜に』

2020/07/01 読了。

中村文則『あなたが消えた夜に』

連続通り魔事件を追う所轄の刑事、中島。中島は殺害された死体を前にして思う。

「なぜ死体というのは、こんなにも存在感があるのだろう」

この言葉で、警察小説とは本質的に違うミステリ小説だという確信を得た。

中島は幼い頃に事件に巻き込まれており、それが時々フラッシュバックする。でも、精神は強い人間だから、それによって崩れていくことがない。言うなれば、中島の話は添え物だ。見方によっては光だ。

文学的ではあるがミステリ小説なので、ネタばれしないように書くが、中島より実行犯の精神の崩れ方が痛々しい。愛って抽象的すぎて加減が分かんないよなぁ……。

「僕には笑う資格がないから。人間を殺しているから。他のみんなと同じように、ああいう生活の風情を感じる資格がないから。僕は弾かれているから。この世界から、ああいった、温かいものから、僕は弾かれているから」

クオリティの低いパフェに失望する女性刑事を見ながら、実行犯はこう思う。

私の大好きな『悪意の手記』にもこういった文章があった。中村文則の描く殺人犯はいつも自罰的で圧倒的に孤独だ。

生きることは考えることだ。考えるのを停止するために生を捨てることを私は否定しない。ただ、苦しさを抱えながらも生きていくにはどうしたら良いのか。どういう人と出会うべきなのか。どういう人を大切にしたらよいのか。そういうことを押し付けがましくなく、教えてくれるような小説だった。







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