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【甘さの科学】 なぜ私たちは甘いものを求めるのか

前回、『お菓子を若者が好む理由』と題して若い年齢の人が甘いものや塩辛いものを成人よりも欲する理由について科学的に解説した。

結論、若い人のほうが甘いものや塩辛いものを強く欲するのには、生物学的な理由と遺伝的な理由が関係しているということだったが、研究手法の点などからはっきりと断言できるほどの理由はない、ということで終わった。

今回はその続きで、より多くの研究を分析して、若者に限らず「人類全体が甘いものを好んでいる理由」について探ってみよう。

参考にしたのは甘味嗜好の決定要因: ヒト研究のスコーピング・レビュー』と題しカナダとアメリカの研究者が2020年に公開した論文。ここでは、人が甘いものを好む理由について多くの研究論文を分析し、まとめている。

主張された内容によると、人が生来、甘いもの好きである要因は、大きく分けて12コのカテゴリーに分けられるという。それは、

  • 疾病

  • 年齢

  • 食事

  • 生殖ホルモン

  • 体重状態/体格指数(BMI)

  • 遺伝性

  • 減量

  • 性格特性

  • 民族性やライフスタイル

  • 過去の暴露

  • その他

病気・年齢・食生活・遺伝性などは想像がしやすいが、BMIや性格・民族性など、一見関係なさそうなものでも人の甘いもの好きを大きく左右する要因となっているようである。

中でも年齢・食事・遺伝性の3つは、人の甘いもの好きを予測するための証拠を持つという。つまり、人の甘いもの好きを説明する要因である可能性が他より高いということだ。これは、前回私が話した「若者の方がお菓子好きであるのは、生物学的な要因や遺伝的な要因が絡んでいる」という主張とおよそ通ずるものがある。

今回の論文では「スコーピング・レビュー」という、特定のトピックや質問に対する証拠を明確にするための分析が使われている。
明確にする対象は証拠に限らず、理論や概念・ソースなど様々あり、この手法によって特定の分野における知識のギャップを特定したり、複雑で多岐にわたる研究領域を理解するのに役立つ。

前回の論文では、一つの研究手法から得られた結果を元に主張を行っていたが、この論文では対象年齢を限定せずに人類そのものが甘いものを好み続けてきた理由を多数の研究から分析しカテゴライズしたところが他にはない特徴である。要は、範囲の広い質問やテーマに対応しやすいということだ。

また、この手法を採用するにあたり、なるべくバイアス(先入観)がかからないように、文献検索やデータ抽出に複数のレビュアーを関与させ一貫性を確保するよう努めている。なので、一定の信頼性はあるといっていいだろう。

こんな言い回しをしているからには、欠点もそれなりにある。今回の結果を一言で言うなら、
「人の甘いもの好きにはこう言う要因があるんじゃない?」
というのをある程度絞ったに過ぎない。
つまり、断言できるほど一貫性がのある要因は見つかっていないのだ。

なので、人が甘いものを好む理由が何なのかハッキリさせるためには、条件が同じか似ている研究を集めて共通する要因が何であるか突き止めることが一つ。また、甘さの好みを評価するためのアプローチを標準化する必要があるだろう。

これを知るには、人の甘いもの好きに関してメタ分析を行った論文がないか調べなければならない。
「メタ分析」とは前回も話した通り、複数の研究を調べて共通の事実を見つける手法のことを言う。一つのデータをだけを元に判断せず複数のデータを参考にするので、より正確な結論に辿り着くことができるとされる。要は「いろんな意見比較してみよう」作戦と言って差し支えないだろう。

今回のテーマに関して言えば、一番厄介なのは「甘さの好み」という極めて主観的な考えを評価しなければならないということ。

好きな異性のタイプが人によって違うのと同じで、「好きな甘さ」も人によってばらつきがある。それは年齢や遺伝・食生活が関係してるかもしれないし、あるいはBMIや性格・民族性によるものかもしれない。これらをバッチリ比較するためには、「条件を同じにして実験する」というのが基本になる。つまり、「甘さの好みの評価」を一律に揃える(標準化する)必要があるのだ。

今回のスコーピング・レビューではこの標準化がなされておらず、人の甘いもの好きに関して研究された文献を片っ端から調べているに過ぎない。研究によって好みを評価する方法は異なるため、「この理由が一番!」と比較することができないのだ。
例えるなら、50m走で一番速い人と100m走で一番速い人ではどっちの方が速いか比べようとするようなもの。条件が一致してない状態で物事を比べることはできないのである。

なので、「人が甘いもの好きである理由」を明らかにするには、このテーマに関してメタ分析を行った論文がないか、調べなければならないだろう。

ハッキリしたことが未だ言えないのは残念だが、参考にできることもある。
人が甘いもの好きである要因12コのカテゴリーを改めてみてみると、疾病・年齢・遺伝性など、およそ努力で改善するのが難しいものばかり。

ここから分かることは、人が持つ「甘いものが食べたい」欲求は、抑制しようと思っても簡単にできることではない。むしろ、「甘いもの好き」と言う欲望は素直に受け入れて、じゃあそれをどの場面で、どのように解放するか考え、肥満や糖尿病に陥らないよう自分の生活をデザインすることを考える方が、より現実的ではないか。
そういった仮説も見えてくる。

こうして一定の考えを持つことができると、例えば「糖質制限」「無添加食品」を重要視することが本当に必要なのかどうかについて、議論を深めることもできる。その瞬間、皆さんはより良い食生活に関して周りよりも高い次元で考えることができるだろう。
そうした考えにこの記事が少しでも貢献することができれば嬉しい。

今回は以上。
全ての知に「幸」あれ。


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