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お菓子を若者が好むのはなぜか?

「塩や砂糖は少なく摂る、あるいは全く摂らない方が良い」という考えがいつからか登場して以来、低糖質や無添加の食品が増えてきた。
その背景には、糖尿病や肥満などの症状を人が持つようになっていったからだろう。確かに深刻な問題であるし、一刻も早く解決しなければならない。

一方でつい先日、とあるアートイベント販売されていた添加物不使用のマフィンを食したお客の中から食中毒が発生したというニュースが報道された。

低糖質や無添加の食品といっても、限度を超えるとこのように食中毒を引き起こし、場合によっては死亡事故につながる。糖質や添加物が一体何のためにあるのか、低糖質や無添加食品を普及させるという考え自体適切なのかどうか、について改めて考えさせられる出来事だろう。

そこで私はふと思った。
「そういえば、甘いものって比較的若い年齢の人が好んで食べているよな。じゃあ、それには何か科学的な理由でもあるのだろうか?」と。

私は幼いことはミルクチョコレートやポテトチップスなど、とにかく甘いものや塩辛いものが好きでよく食べていた。何なら母が栄養バランスを考えて作った料理より、戸棚に入っているお菓子を食べるようがワクワクしていたことさえある。そのおかげで「お菓子ばっかり食べないでご飯も食べなさい」とよく怒られていた。

しかし、今ではミルクチョコレートもポテトチップスもめっきり食べなくなった。甘すぎたり塩辛すぎると感じて体が受けつけないからだ。逆に最近は自分で調理してちょうどいい甘さや塩辛さの料理を作るようになっている。

この味覚に関する変化は祖父母と会った時に一番よく感じる。70代後半である祖父母がいわゆる子供好んで食べるようなお菓子をつまんでいるところは見たことがない。どちらかというと、フルーツや煎餅を食べている様子だった。

つまり味覚の変化は私だけでなく他の人でも起こる。だとしたら、若い人の方が甘いものを好む傾向にあるのも科学的な理由があるんじゃないか?と思ったのだ。これについてよく知ることができたら、低糖質や無添加の食品の普及に関する議論についても自分なりの見解を持つことができる。

ということで今回は、「若者が甘いものを好むの理由」について、科学的な検証を行なった研究の一部を紹介しよう。

今回参考にした文献は『子供の頃の甘さと苦さ:味の好みに関する基礎研究からの洞察』の題でモネル化学感覚研究所が2015年に発表した論文だ。

これには子供が好む甘さや塩辛さ、そして避けたがる苦さの度合いが成人と比べてどう違うのか、それは年齢の若さや遺伝子と関係があるのか、などについての検証が行われている。

子供が持つ味覚についてまとめられていたのは、次のようなこと。

  1. 子どもの甘いものへの好みや苦いものへの嫌悪は、部分的にはあるが、基本は生物学上の自然な反応である。

  2. 子供は思春期まではより高いレベルの甘味を好み、苦い味に敏感である。

  3. 子どもたちの甘いものに対する嗜好の高まりは、過去 10 年間安定している。

  4. 子供にとって、砂糖はナトリウム塩よりも苦味の一部を遮断する効果がある。

上から一つずつ解説すると、まず、多くの子供が持っている甘いものや塩辛いものが好きという感覚は、子供一人一人が持つ固有の味覚だけでなく、生物学上の自然な反応であるということ。

なぜ子供がこれほど甘いものを欲しがるのか。これは、人間の生来の甘いものへの好みと苦いものの拒絶は、高エネルギーでビタミンが豊富な母乳や果物の摂取を好んでいて、苦くて有毒な植物を避けるという進化の結果だという。
子供はそこから、無毒で栄養価の高い野菜や病気を治すのに必要な薬など、自分の体を守るための苦味を少しずつ理解していくのだ。
私が子供の頃の「お菓子好き」も、私に限った話ではなく多くの子供が感じている自然な反応であった可能性が非常に高い。

ここで断言を避けているのは、「部分的に」という表現もある通り、研究の結果で判明した子供の味覚については、生物学的な理由だけでなく遺伝的な理由も含まれているからである。実際に論文の内容を見てみると、「味覚を受容する遺伝子の中でもとある遺伝子型を持っている子供は、甘味や苦味に対する感受性が他の子供と異なる」、とある。
つまり、子供のが持つ甘味や苦味の度合いは、遺伝子によってもある程度左右されるということだ。

2つ目については、子供の甘いもの好きや塩辛いものが好き・苦いものは苦手という感覚は、思春期まで維持されるということ。逆にいえば、思春期を境に甘味に苦味の度合いは上がらないということだ。
中学生や高校生ぐらいになると、小学生の時ほど甘いものや塩辛いものを欲しがらなくなっていくだろう。あれには思春期の終わりを境に、より甘いものや塩辛いものを求めなくなっていく体の変化が起きていたからなのだろう。

3つ目は2つ目の要点と通ずるものだが、要するに、子供のことに培われた甘いもの好きの度合いは、そこから約10年間継続して続く。年齢にして20代前半まで、子供の頃と同じく甘いものは好きであり続けるということだ。
ポイントは「安定している」という表現。つまり子供の頃のように、求める甘さのレベルが年を重なるごとに上がっていくような状態にはならない。自分なりの甘さの好みが子供の頃に決まれば、その好みが20代前半まで続くことを示している。逆にいえば、20代後半以降になれば求める甘さのレベルは徐々に下がっていき、より苦味のある、甘さ控えめのお菓子を好むようになるということだ。

最後の「砂糖が苦味の一部を遮断」に関しては、子供と成人の薬を服用するときの違いのようなものと思ってくれればいいだろう。
子供は基本的に野菜や薬など、苦味を感じるものを嫌う傾向がある(これも甘いものを好むのと同じで生物学的・遺伝的な理由によるものだ)。
中でも苦味のある野菜を栄養バランスを踏まえてどうしても食べなければならないという時(親に「野菜も食べなさい」と言われている場面を想像するといいだろう)、子供が苦味を極力感じないようにするためには、塩が含まれるものよりも砂糖が含まれるものを入れた方が効果が高いということだ。

したがって、子供が野菜を食べるときは砂糖を含んだ甘味のある調味料を使った方がより食べやすくなる。これは子供に野菜を取ってもらいたい親御さんにとってはヒントとなる事実だろう。

ということでまとめると、若者が甘いものを好むのは、幼児の頃から甘い母乳や果物を摂取することで身の安全を保つという生物学的な理由であるから、ごく自然の反応である。
子供がより甘いものを求める感覚は思春期まで続き、それ以降は高止まりして20代前半まで安定する。
子供に野菜や薬などの苦いものも摂ってもらいたときは、塩よりも砂糖を含ませるとより効果的。

結論、甘いものを食べるのに罪悪感を持つ必要はない。若いうちは特に。


若者がお菓子を好む理由の一端が分かったのは収穫だった。
一方、分からないこともたくさんある。
例えば、なぜ子供の時はより甘いものを求めるのか、だ。
母乳や果物ほどの甘さで本能的には十分だったのに、そこからより甘いものを求める根拠は何なのか。

また、今回の実験研究は「系統的レビュー」という、手法としては信頼性がやや弱い部類に入る。より信頼性の強い「ランダム化比較実験」や「メタ分析」などでこのテーマを研究した文献があれば引き続き紹介してこうと思う。

今回は以上。
全ての知に「幸」あれ。


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