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ビールを飲みながら速くなる~質問に答えます~

 ここまで「ビールをのみながら速くなる」の総論+αを書いてきました。
 そして読んだ方から質問を頂きました。
「お酒の強い人って、足も速いイメージがあるんだけどどうかな?」
「陸上界のレジェンド達は、みなお酒が強いイメージだけど関係あるの?」

 具体的に誰ですか?と、逆に自分も質問してみたいところですが、
 グッとこらえて、自分のわかる範囲で回答を書いていきます。

1.遺伝的にお酒の強さと、足の速さは関係あるの!?

 1-1.基本的にはないと思われる

 お酒が強いか弱いかは、多少の違いはあれどADH&ALDH遺伝子で決まります。遺伝子の活性が強ければお酒が強いし、活性が低ければお酒が弱い訳です。
 そしてアスリートの能力の遺伝子としてはACTN3遺伝子(速筋/遅筋の遺伝子です)やACE遺伝子が厚生労働省のHPにも載るほど有名です。他β-1アドレナリン受容体遺伝子やPPARGC1A遺伝子もあります。
 ただこれらのアスリート遺伝子とアルコール代謝の遺伝子の間の関係は、検索した範囲では見つけられませんでした。

 1-2.可能性のある範囲の話であれば

 文献的な裏づけはないのですが、可能性という範囲で一つ書きます。
 アスリート遺伝子のPPARGC1A遺伝子ですが、アルコールの代謝にも関与する可能性があるのではないかと思っています。
 この遺伝子はミトコンドリアの増殖に関わると言われていて、G型をもっていると活性酸素の刺激によりミトコンドリアが増殖しやすく、乳酸代謝も向上すると言われています。
 なのでこの遺伝子がG/G型であれば、トレーニングによりミトコンドリアが増殖し、アルコール代謝(MEOS経路)が高まる可能性があります。また逆に飲酒によってもミトコンドリアが増加・乳酸代謝が高まる可能性が考えられます。
 ただ過剰な飲酒はミトコンドリア機能の低下が言われています。そのような事実があったとしても、適量飲酒で期待できる効果と思われます(適量飲酒の予想:20-40g/日)。
 実は、それが前項で少量飲酒によってミトコンドリア機能が上がるというグラフを書いた理由だったのです。

2.後天的にお酒の強さと、足の速さは関係あるの!?

 2-1.お酒を飲むから速い!は、可能性あり

 飲酒していた方が、最大酸素摂取量が高かったというデータがあります。一番の理由は気道のクリアランスの向上、気管支拡張による呼吸機能の向上と予想されています。逆に飲みすぎると気道クリアランスが低下して感染のリスクが増すと言われており、その意味でも適量飲酒が望まれます(適量飲酒の予想:20-60g/日)。
 また1-2のところで述べたように、特にミトコンドリア機能が高まりやすい方は、その恩恵が受けられるかもしれません(適量飲酒の予想:20-40g/日)。

 2-2.筋肉が多いからお酒が強い!の恩恵はわずか

 走力あるランナーは骨格筋もしっかりしています。お相撲さんやレスラーに酒豪が多い事からか、世間では筋肉にもアルコール脱水素酵素はあると書いてあるものあります。ですが・・・筋肉にあるのは少量の活性の低いアルコール脱水素酵素です。筋肉にアルコールの酵素がないのは、Wikipedia程度のものにも書いてあります

 ではなぜお相撲さんや力士の方がお酒が強いのでしょうか?

 お酒の強さは筋力ではなく重要なものから①アルコール代謝の遺伝子、②肝臓の大きさ、③除脂肪体重で決まります
 ③から話すと、まずアルコールを飲むと、速やかに体の水分があるところに浸透します。水溶性なので脂肪組織にはいきません。結果体の水分・・・除脂肪体重が重い人はなかなか酔いませんし、軽い人は速く酔います。例えば除脂肪体重20kgの人がアルコール20gを摂取すると、アルコール濃度は0.1%となります。除脂肪体重200kgの人がアルコール20gを摂取するとアルコール濃度は0.01%となります。それだけ体の大きい人は酔いにくい訳です。
 次に②ですが、肝臓というのはその人のサイズに合わせて大きくなることが言われています。生体間移植では、ドナーの1/3程度の大きさの肝臓を移植しますが、やがて体にあわせて大きくなります。実際に肝臓の大きさは、体重体表面積(身長と体重で計算します)と相関すると言われていますので、体の大きいレスラーやお相撲さんは、その体を養うために肝臓も大きくなる訳です。なので、お酒に強くなると予想されます。
 最後に①ですが、肝臓がいくら大きくてもアルコールを分解する酵素がないと仕方ないですね。結局これが一番大事なのです。体の大きな力士でも下戸な人がいるわけです。

 ではランナーに当てはめるとどうでしょうか。速いランナーは除脂肪体重も、体重も体表面積も一般の人とほとんど変わらないと思います。なのでお酒の強さは変わりません。でも骨格筋が多いランナーは、除脂肪体重や体重が多くなるので、多少お酒が強くなるかもしれませんね。

3. ではなぜ?お酒によるメンタル効果

 医学的?にはここまでですが、自分はランニングコーチや運動型健康増進施設(医師のいるスポーツジムのような施設です)での副業もさせて頂いています。なので医療とは離れたことについても書いてみますね。

 3-1.脳のリラックス効果

 速いランナーは、スピード練習、距離走などつらい練習を継続しないといけません。ただ最初は我慢と根性で継続できても、やがて「練習は辛いもの」と頭が認識して、練習を拒絶するようになります。そうしてハードな練習を継続することが困難になるのです。
 ですが練習後に飲酒をして脳をリラックスさせると、「練習+飲酒はそんなに辛くないもの」と認識して、努力が継続できるのです。

 もちろん飲酒以外にも「練習は辛いもの」と脳が認識してしまうことを避ける方法はあります。しっかりとした目標を達成したり、コーチやトレーナーに褒めてもらったり、SNSにアップして友達に頑張りを認めてもらう方法もあります。また練習会で仲間と一緒に頑張ったり、魅力的な異性にコーチしてもらうのもいい方法です。

 また別の考え方をしてみましょう。マラソンを頑張って走ることは、ドMと例えられるくらい辛いものです。でもランナーは「辛い事」が好きなのでしょうか? おそらく多くのランナーは、辛さ自体が好きで走っているのではなく、それが解放された時の快感が上回るから、辛さを享受できるんだと思います。だから解放された時の快感が大きければその分、強い辛さ・・・要は「厳しい鍛錬」を享受できるんではないでしょうか。お酒は辛さに対する報酬としての役割があるという文献があります。走った後の解放感とお酒、それがあるから、より高いレベルのトレーニングを継続できるのではないでしょうか。

 3-2.お酒も負けない!の精神

 アメリカの文献からですが、大学の学生は飲酒量はアスリートの方が多く、特にオフシーズンでは勝利志向が強い学生ほど飲酒量が多いとのことです。競技のみならず、飲酒でも他人に負けない、限界を目指す!そんなパッションがお酒を強くするのかもしれません。
 逆もあるかもしれません。お酒を頑張って飲む!そういうものの考え方をする人は、頑張って走る!足も速くなるのかもしれません。

 3-3.お酒のコミュニティーが作り出す効果

 宴会はコミュニケーションが活発になり、本音が出る場所です。努力をして結果を出した人は、大いに承認欲求が満たされる場になります。さらに頑張る活力になるわけです。
 さらにアスリートは負けず嫌いです。お酒飲んでも自分に負けまいと、ついつい許容量以上のお酒を飲んでしまいます。
 自分も普段の飲酒量は日本酒4合、許容量もその程度ですが「先生もうお酒いらないの~」と言われると、ついついそれを超えて飲んでしまいます。決して強くないのですが、強がっています(泣)。

4.最後に

 医学的には、お酒が強い=ランニングが速いというわけではありません。あっても僅かです。
 一番の理由は、
・お酒もランニングも妥協せずに限界に挑戦する!というストイックさ
・「お酒もランニングも強いね」とおだてられて頑張ってしまう安直さ
 と思われます。そのため立てなくなるまで練習して、ふらふらになるまで酒を飲む。そういう姿勢が足を速くして、またお酒を強くしているんだと思います。

 飲酒を継続すると、肝臓のアルコール代謝も高まりますし、脳もアルコールに対して耐性がつきます。一見すると、お酒に強くなったと感じるかもしれません。でもこれは体によいとはいえません。「足も肝臓も壊しました!」ということがないように気を付けたいものですね。

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