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夜の鳥、記憶

夜、12時21分。
部屋のカーテンを開けて、まだこんなに起きている人がいるのだと隣のマンションを見る。
白、青、赤、黄、暗闇に光る窓の灯りはカーテンの色が浮かび上がるとこんなにいろんな色になるのだなと、ぼうと思う。

こんな風にぼう、とどうでもいいことを考えていられる余白が日々のなかにはあってほしいし、寝る前はできるだけ今日のことも明日のことも考えずにいたい。

そうこうしているうちに、ひとつ窓の灯りが消え、外ではバラバラと雨が降りはじめ、はやいとこ目を閉じないと眠れなくなりそうな、そんな雨のにおいがしてきた。

わたしにとって、夜に眠れなくなる場所の定番は、深夜の道路。

青春ごっこを今も続けながら旅の途中
ヘッドライトの光は手前しか照らさない

壊れたいわけじゃないし壊したいものもない
だからといって全てに満足してるわけがない

即座にフラワーカンパニーの『深夜高速』の曲があたまを流れる。

小さい頃、父の運転で九州の父方の祖父母の家に車でよく行った。

夜中に京都を出発し、次の日の昼くらいに着くようにして向かう。普段は寝ている時間に車に乗り、暗闇のなかをヘッドライトが照らす道を眺めながら遠くの地へ向かうのは、わくわくしてすこし心細かった。

運転席の父のとなりの助手席には姉弟4人が交代で座り、運転途中に父が眠らぬよう監視する役目も担っていた。

父は物知りで、道にも歴史にも文化にも詳しかったので、道中気になって見つけたものについて聞けば大抵のことは答えてくれ、子どもながらに誇らしかったことを覚えている。

母は、大量のおにぎりを握ってタッパーに詰め、誰かのお腹が空いたときに食べられるように持たせてくれ、自分は仕事のために一緒に乗らずに残った。

そんなあるとき、祖父が危篤だという連絡があり、家族みんなで車に乗り九州へ向かった。途中、田舎道の端に車をとめてすこしの仮眠休憩をとる。わたしは目を閉じても眠れず、父も眠っているのかわからなかった。

すこしして動き出した車のなかで父が言う。「寝てたら急に目が覚めて、目の前の山の崖から鳥が一匹飛んでいくのを見た。こんな時間にあんな場所に鳥はいいひん。多分、おじいちゃんが会いに来てくれたんや」

九州の病院につくと、祖母や叔母たちに囲まれて祖父はすでに息を引き取っていて、臨終の時間はちょうど、父が鳥を見た時間だった。

そんなことをぽつぽつと思い出していた。

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