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第1章 決算書を読みこなすためのコツ

1.「決算書」と「計算書類」と「財務諸表」


会社経営と「決算書」

 会社とは、営利(=儲けること)を目的として作られた社団(=人の集まり)です。もちろん、単に儲けることだけを目的とするのではなく、社会に貢献する仕事をとおして「付加価値」の提供が求められます。

 設立手続きを行うことにより法人格が与えられた後は、基本的に、会社は「永遠の命」を持った継続企業体(Going concern)として、終わりのない経営活動を続けていきます。
 景気の波に揉まれながらも、社会貢献をとおして適正に儲けるために、設立した人の命を超えて永遠に生き続ける存在、それが会社なのです。
 このような「継続企業体」である会社が行う経営活動の結果を、人為的に一定期間で区切って、数字で報告するための書類が「計算書類」であり、「財務諸表」です。

会社とは経営活動を継続する存在


会社法での「計算書類」

 会社法では、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、注記表を「計算書類」、計算書類および事業報告、附属明細書を合わせて「計算書類等」と定義しています。
 取締役会設置会社の取締役は、定時株主総会の招集通知に際して、所定の監査を受け、取締役会の承認を受けた計算書類および事業報告を、株主に対して報告をし、または、承認を得なければならないと定めています。
 ということは、取締役の方々は計算書類の内容について、よくよくご承知おきということですね 💦

全ての会社に作成義務がある「計算書類」


(1)貸借対照表

 一定の日における財政状態(資産・負債・純資産)を表わす財産表

(2)損益計算書
 一定期間の利益(収益と費用の差額)を表わす経営成績表
 なお製造業では、当期製品製造原価の内訳を記載した明細書としての「製  
造原価報告書」(Cost Report、略してC/R)を作成して、損益計算書に添付します。製造原価報告書とは、損益計算書のなかの売上原価の内訳明細書として製品を製造するために工場で消費した原価についての報告書です。

(3)株主資本等変動計算書
 一定期間の「純資産の部」の増減明細書

(4)注記表
 計算書類の作成に当たって前提となる事項に関しての注意書き
 注記すべき事項は、会計監査人を設置しているかどうか、公開会社かどうかなどで異なります。たとえば、継続企業の前提に疑義が生じていないか、会社の選択した重要な会計方針、会計方針の変更の有無、保有する金融商品等の時価、1株当たり情報などを記載します。
 投資家は、注記表から有益な情報を得ることができます。

(5)事業報告に記載する主な事項
 (「株式譲渡制限会社」は①と②のみの記載でよい)
①株式会社の状況に関する重要な事項 ・・・ グラフや図表などを用いて、全社および部門別の売上高および利益を詳しく記載
②業務の適正を確保するための体制の整備 ・・・ 内部統制の基本方針等 
(コンプライアンス、リスクマネジメントに関する規程、体制等を記載)
③株式会社の現況(困難な場合を除き、部門別に区別)に関する事項
④株式会社の会社役員に関する事項 ・・・ 役員の氏名、地位、報酬等について記載
⑤株式会社の株式に関する事項 ・・・大株主の状況等について記載
⑥株式会社の新株予約権等に関する事項

6)計算書類の附属明細書に記載する主な事項
 (「株式譲渡制限会社」は①、②、③のみ)
①有形固定資産および無形固定資産の明細
②引当金の明細
③販売費及び一般管理費の明細
④計算書類の内容を補足する重要な事項
⑤関連当事者との取引に関する注記において、会計監査人設置会社以外の株式会社が注記を省略した事項


 また会社法では、「株式会社は各事業年度に係る計算書類(貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、注記表)および事業報告並びにこれらの附属明細書を作成し、作成したときから10年間その計算書類と附属明細書を保存しなければならない」とされています。


金融商品取引法と「財務諸表」

 上場会社または公募増資1億円以上を実行した会社、株主数が1000人以上である会社などは、会社法での計算書類に加えて、有価証券報告書の作成が義務づけられるなど、「金融商品取引法」の開示規制を受けます。 
 金融商品取引法では、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、包括利益計算書(連結財務諸表において作成)、キャッシュフロー計算書、附属明細表を合わせて「財務諸表」と定義しています。

上場会社等が開示する「財務諸表」


 「包括利益計算書」とは、資本取引(株主との取引)以外での純資産の変動を報告する書類です。株主からの増資による純資産の増加、配当金の支払いによる純資産の減少などを除いたところで純資産の変動を報告します。

 税引後の当期純利益、会社が保有するその他有価証券評価差額金、在外子会社の為替換算調整勘定などが、純資産の変動要因です。業績だけでなく、資産の含み損益も包括して会社の価値を捉えようという書類です。

 キャッシュフロー計算書は、企業活動を①営業活動、②投資活動、③財務活動の3つに区分し、それぞれの活動ごとの資金収支と資金増減結果を報告する書類です。

株式譲渡制限会社と公開会社 

 会社法では、株式譲渡制限会社と公開会社の2つの会社区分があります。
 「株式譲渡制限会社」とは、「取締役会の承認等を得なければ、当社の株式は自由に売買できませんよ」と定めている会社です。
 具体的には、「発行する全部の種類の株式について、その譲渡に係る株式の取得につき承認を要する旨の定款の定めがある株式会社」をいいます。
 種類株式とは、配当優先株や議決権制限株など株主の権利に差がある株式です。一般的に、非上場会社は、乗っ取り防止のためにすべての種類株式に譲渡制限を付けています。
 会社法において、株式譲渡制限会社は「公開会社でない会社」とも呼ばれています。公開会社とは、その発行する「全部または一部」の種類の株式について、その譲渡に係る株式の取得につき、承認を要する旨の定款の定めを設けていない株式会社をいいます。
 言い換えれば、「一部の種類でも自由に譲渡できる株式」を発行している会社が公開会社です。会社法での公開会社は、上場会社と同じ意味ではないので区別しておきましょう。

 会社法では、株式譲渡制限会社または公開会社かによって、株主総会の招集通知を発送すべき期限、事業報告、附属明細書、注記表に記載すべき項目などに違いを設けています。


 これらの計算書類および財務諸表は、決算作業の結果として作成される書類であるため、「決算書」と総称して呼ばれています。
 決算とは、期末日における財産状況(資産・負債・純資産)を調査し、経営成績(収益・費用)を計算して決算書を作成する作業です。
 すべての会社は1年以内の事業年度ごとに決算書を作成し、財政状況と経営成績を報告する義務を負っているのです。

 決算書とは、経営活動の結果を報告する成績表であるとともに、会社の良い点を伸ばし、弱い点を改善するための数多くのヒントを与えてくれる書類といえます。


<問題>
 次の書類のうち、会社法の「計算書類」に含まれないものは?
1.貸借対照表
2.損益計算書
3.キャッシュフロー計算書
4.株主資本変動計算書
5.注記表

<正解>
3.キャッシュフロー計算書
 キャッシュフロー計算書は、金融商品取引法の開示規制を受ける会社に作成が義務づけられています。

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