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レモンの花


これは、僕が彼女と出会った、あるひと夏の物語。


大学を卒業し、上京して3年目。

仕事もプライベートもある程度、満足している。

元々フットワークも軽かったおかげで、友人関係もそれなりに広がった。

ーーーピコン。

聞き慣れた機械音が僕を呼ぶ。

〈今度の土日、キャンプしない?〉

歳が近い、会社の先輩からの誘いだった。

「先輩とだったらどこへでも行かせていただきます!!」

〈即答すぎ。大勢でやるから、詳細決まったら言うわ〉

「おっけです。お願いします!」

こうして今週の土日も、予定で埋めることができた。

社会人になり、仕事の成果や目標達成よりも、

土日に楽しさを詰め込むことをモチベーションとしている。

プライベートに満足しなかったら、ただの仕事人間になっちゃうでしょ?

が、モットーの楽天的なのが僕。


〈土曜、10時半に池袋駅集合な〉

と告げられてから

平日5日間を駆け抜けた僕に、ついに待ちに待った土曜日がきた。

先輩曰く、2台のレンタカーを借り、現地でバイク勢と落ち合うらしい。

友人やそのまた友人の大人数で、キャンプ場がある埼玉へと向かう流れ。

「おー、お疲れ」

「おはようございます。めっちゃ楽しみっすね」

「小学生か」

「実は俺、キャンプ初めてなんですよね」

「女子もいるから、とりあえずお前は力仕事な」

「先輩より若いんで任せてください」

「うっせぇわ」

僕がふざけて、先輩がどつくまでが一連の流れ。

すると背後から、

「亮輔さん、お久しぶりです〜!」

と、大きめの声で先輩が呼ばれる。

「相変わらず元気だね。あれ、綺麗になった?」

「はいはい。もう、やめてくださいよー」

確かに、先輩は会社でも影で〝生粋の人たらし〟の言われよう。

営業成績も抜群だし、この風貌、羨ましさこの上ない…

のはいつものことだから置いといて、

この、語尾伸ばしがちな女性は誰だろう、

と頭上に、はてなマーク。

「紹介するわ。社会人サークルが一緒の池田柚ちゃん。と、その隣は?」

「柚でーす!こっちは、柚と同じ大学だった、蘭」

「橋本蘭です。よろしくお願いします」

「…あっ、高梨夏輝です。よろしくお願いしみゃしゅ…ます」

「え、お前緊張してんの?」

「いや、緊張してないっすよ」

慌てて訂正する。

「しみゃしゅ〜」

(柚ちゃんだっけか。めちゃくちゃ笑ってんじゃん。)

僕が一言目から、どもり自己紹介をかました原因は、

彼女の友人が、彼女とは対照的だったから。

ポニーテールで、半袖をさらに腕まくりしてる柚ちゃん。

一方、三つ編みでメガネっ娘、うつむきがちの蘭ちゃん。

「夏輝は25歳だから、柚と蘭ちゃんと同じ歳?」

「そうですよ〜。ね、蘭」

「あ、はい。同じです」

「なんなの?俺だけ仲間ハズレじゃん」

「歳っすねぇ〜」

「お前、年齢いじり今日二回目だからな?」

ゲラゲラと大きな声で笑う彼女の隣で、くすくすと蘭ちゃんが笑う。

(面白かったのかな?)

ーーープップ。

クラクションが鳴る。

「おー、お疲れ。車取りに行ってくれてサンキュな」

「ん〜。男こっち。女の子は後ろの車で」

「はぁい」

柚ちゃんの後ろで、ぺこりと会釈する蘭ちゃん。

「お願いします!!」

そう言って、僕が助手席に乗り込んだ車には

既に3人の(もちろん)男性が乗っていた。

「亮ちゃんの後輩なんだっけ?よろしくね」

「夏輝です。よろしくお願いします」

僕らの車を運転してくれてる人は、隼人さん。

先輩の幼なじみらしい。

「ごめん。後ろの寝てる2人は僕の会社の後輩。オールらしいから起こさないでやって」

「じゃあ起きたら挨拶しときます」

そうして〝男〟だけを乗せた車は、

夏曲縛りと言う謎の車内カラオケ大会を白熱させ(もちろん寝てる2人は起きた)

埼玉のキャンプ場へと着いた。



続く…

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