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米軍兵士のミリメシの歴史と作り方

ネット通販で世界のミリメシがお取り寄せできたり、自衛隊がオリジナルのカレーを地域住民に振る舞ったり、同盟国の軍同士で料理対決をしたり、いつからミリメシは「美味しそうな食べ物」になったのでしょうね。

軍隊食といったら、「臭くて、固くて、マズい」ものと相場が決まっていたはずです。

それがいまや、暖かくて旨いことは当たり前、各部隊が競って滋養や見た目、味の良さを競っているほどです。

「ミリメシは美味しい」というイメージが高まっていることもあって、歴代のミリメシがどういったものだったかという需要もある気がします。

ということで、今回はアメリカ軍のミリメシの歴史を、「ミリメシ★ハンドブック―独立戦争からイラク戦争まで レシピ130」より10品抜粋してご紹介します。


1. ジョージ・ワシントンのスモール・ビール

合衆国初代大統領ジョージ・ワシントンは大のビール党だったそうです。

1757年にヴァージニア市民軍の司令官になった後でも、お気に入りの「スモール・ビール」のレシピを書き残しているほど。スモール・ビールとは通常のビールの中でもアルコール度数が低いビールで、飲用に適した水が手に入りづらかった時代、「安全な飲み物」としてアメリカ人に人気がありました。

現在売られているビールの2倍ほどのアルコール度数があったそうです。

独立戦争中、ワシントンは麾下の兵士に毎日1リットルのビールを支給したそうで、おそらくそのレシピはワシントンが書き残したものであったろうと思われます。

 

作り方
大きなふるい1杯分の麦ふすまとホップを好みの具合にまでふるいにかける。

そのれを3時間煮たのちに漉し器で漉したもの114リットルを保温器に入れ、まだ熱いうちの11.4リットルの糖蜜を加える。

人肌程度にまるまで冷めたら、1リットルの酵母を加え、極寒時は毛布でくるんで24時間置いて発酵させ、それを大樽に詰める。1週間後に発酵が終わったら瓶に詰める。

  

2. ペッパー・ポット・スープ

キャンベル印のスープで非常に有名ですね。アンディー・ウォーホールの作品にもなっています。

この料理を発明したのはクリストファー・ルートヴィクという人物で、独立戦争中は大陸軍のパン焼きの責任者でした。

1777年、フィラデルフィアをイギリス軍に占領された大陸軍は、戦況は非常に不利で物資も乏しく、フォージ渓谷で野営を張ることになりました。ルートヴィクはありあわせの材料で、しなびたポテト、野菜の切れ端、何の肉かも分からない肉片を放り込んだスープを作った。味を誤魔化すために、大量の赤唐辛子と粒胡椒を入れた。

スープを飲んだ兵士は士気を回復し、「イギリス軍を迎え撃て!」と叫び再びイギリス軍に立ち向かっていったそうです。

 

作り方
バターで玉ねぎ、ピーマン、セロリを10分間炒める。

野菜を取り出し、小麦粉を入れてなめらかになるまで炒める。ルーが冷めたらスープストックを入れ、ダマにならないように炒める。そこに野菜、じゃがいも、調味料を加え、20分間具が柔らかくなるまで煮込む。最後に赤唐辛子を加える。

  

3. 鍬パン

鍬パンはその名の通り、鍬の上に載せて直火で焼いて作ったパンで、バターや砂糖をたっぷりかけて食べる。ジョージ・ワシントンのお気に入りの朝食だったそうです。

簡単に作れるので行軍中や野営中に簡単に作れるし、鍬がなければ焼けた石を使っても良い。

 

作り方
コーンミールと塩を混ぜ、ラードと熱湯を加えてほどよい硬さの生地にする。

薄い小さな形にまとめ、ラードなどの脂を塗った鍬に載せる。炎にかざして両面を焼く。 

 

4. うさぎのじっくり炙り焼き

1812年の米英戦争が始まった時、合衆国の人々の意見は割れた。戦争反対を訴えて連邦の離脱を協議した州もあったそうです。 兵も民兵ばかりで訓練が不足しており、物資も不足していた。

兵たちは戦場で自分たちがその日食べる食料を獲って食べていたらしく、「うさぎの炙り焼き」も人気メニューの一つでした。

 

作り方
薪を燃やして真っ赤な熾にする。若木を探して、小枝と葉をとって串を作る。

ウサギを獲ってきて、皮をはぎ掃除し、頭と内臓を取る。前脚、後脚をそれぞれ焼き串に縛り付ける。塩と香草で味付けし、熾の上に固定し焦げないように数時間じっくり炙る。

 

5. 野戦パン

野戦パンは部隊が作戦行動中に野営地の焚き火で焼くものなので、真似するのはお勧めできない、というか圧倒的にコスパに合いません。 

 

作り方
地面に直径50センチ、深さ50センチの穴を掘り、その中で5時間焚き火をする。

平鍋の縁を4センチ弱切り取り、切断面をギザギザにする。鍋の2/3までパン種を入れ、別の平鍋でフタをする。穴の底から8センチの高さにまで熾を残して、あとは全て取り出す。穴の熾の上に平鍋を熾、回りと上にも取り出した熱い熾を置く。その上に土をかぶせて、5時間から6時間待つ。

 

6. ごたまぜチャプスイ

チャプスイは純然たるアメリカ料理ですが、「中華料理もどきアメリカ料理」です。

1890年代にアメリカを訪問した清国の大臣・李鴻章は、どうにもアメリカ料理に馴染めずに中華街の中華料理ばかり食べていました。

アメリカメディアは、東洋からやってきた珍しい客人の一挙手一投足を連日報じており、ある日こんな質問をした。

記者「大臣、中華レストランでは何をお召し上がりに?」

李鴻章「チャプスイだね」

翌日の新聞には「李鴻章大臣、中華街でチャプスイを食べる」の文字が踊った。アメリカ人たちは、李鴻章が食べたという「チャプスイ」を食べてみようと中華街に押し寄せた。

実は「チャプスイ」とは、広東語で「中途半端」という意味で、李鴻章は「中途半端な味の中華料理を食べたよ」という意味で言ったのが、料理名として定着してしまった、ということ。(起源は諸説あり)

チャプスイはアメリカ人の「オリエンタル・フード」としてポピュラーになり、第一次大戦の時にはミリメシとして採用されるにまで至りました。

 

作り方
大きな耐熱皿にベーコンを広げ、カリカリになるまで焼く。

そこに玉ねぎを入れてある程度炒めてから、牛ひき肉、カブの粗みじん切り、コーンの缶詰、チリパウダー、スープストック、トマトの缶詰を入れて、オーブンで1時間焼く

 

7. 燻製牛肉のクリームソース

第二次世界大戦を経験した兵たちにとってCreamede Chipped Beefは

「皿の上から這っていって、いなくなってくれと何度思ったことか」

と言われるほど悪名高い料理だったそうです。

その味は「パンの上に壁紙用の糊を載せたもの」だそうで、上手く作れば旨かったんでしょうけど、軍隊で出されたものは燻製牛肉も牛乳も低品質でクソマズかったようです。

 

作り方
乾燥牛肉の薄切りを刻み、牛乳を温めておく。小麦粉と脂を滑らかになるまで練り、牛乳に入れてとろみがつくまでかき混ぜる。コショウと牛肉を加え、弱火で10分ほど煮込む。トーストに載せて支給する。

  

8.  ベイクドビーンズ

ベイクドビーンズは1775年からミリメシとして採用されており、独立戦争中も豆が毎日兵士たちの腹を満たしていました。

時代が経つにつれ豆の依存度は減っていきましたが、それでもベイクドビーンズは「温めて冷めても食べられる」ため重宝された食事でありました。

 

作り方
豆を洗い4時間から一晩水に浸け、水気を切っておく。豆を湯に入れて弱火で2時間茹で、水気を切って耐熱皿に移す。刻んだ玉ねぎとトマトを加え、塩コショウで味付けする。薄切りにしたベーコンを上に広げ、糖蜜、ケチャップ、マスタードを合わせたものをまわしかける。フタをして低温のオーブンで4時間、豆が柔らかくなるまで焼き、熱々を支給する。

  

9. 牛肉のコロッケ

朝鮮戦争中の時のこと。

ある従軍コックは、兵たちに昼食として牛肉とマッシュポテト、パンを供した。ところがどういうわけか、兵たちはそれらを大量に食い残していった。

コックは腹をたてた。

故郷でおとなしく殺された牛の命を、お前たちは無駄にするつもりか!

そうして兵たちが食い残した肉とポテトをごちゃまぜにし、パンの衣をつけて揚げて夕食に供した。すると兵たちは喜んで平らげてしまったとさ。

 

作り方
牛ひき肉に塩コショウをし、玉ねぎをきつね色になるまで炒め、最後に小麦粉を入れて一緒に炒めてスープストックを入れてかき混ぜて煮立たせる。

冷めたら溶き卵、パン粉、メース、牛ひき肉を加え、よく混ぜあわせて冷蔵庫で冷やす。エバミルクを水で薄め、卵を入れてかき混ぜる。固まった肉を整形し、小麦粉をつけて卵とミルクにくぐらせ、180度の脂できつね色になるまで揚げる。

  

10. クラムチャウダー

クラムチャウダーは、アメリカ東海岸出身者にとっては「魂の味」だそうです。

しかも、ボストン、ニューヨーク、ロードアイランドがそれぞれ「元祖」を主張しており、それぞれレシピが違う。ボストン風はクリームを使い、ニューヨーク風はトマト、ロードアイランド風はハマグリの味を活かしたすまし汁。

ハーメン・メルヴィルの「白鯨」で描かれたクラムチャウダーの描写は、旨そうすぎて今すぐに食べたくなるほどです。

だが湯気をたてるチャウダーが運ばれてくると、謎はめでたく解決した。ああ、みんな聞いてくれ!ヘーゼルナッツほどの大きさの汁気たっぷりのハマグリに砕いた堅パンと塩漬け豚の薄切りを混ぜ、たっぷりのバターでこくを出し、塩コショウをぴりりときかせてある……我々はあっという間に平らげてしまった。

第一次世界大戦のときには、クラムチャウダーはミリメシとして登場しており、気の利いたことに、ボストン人とニューヨーク人がケンカしないように、クリームとトマトは使用されていません。

 

作り方
スープストックでじゃがいも、ベーコン、玉ねぎを柔らかくなるまで煮込み、ハマグリを加えて煮立たせる。少量のバターと小麦粉を加えてとろみをつけ、塩コショウで味付けしたらできあがり。

 

 
まとめ


面倒くさくて実践できないものもあれば、家庭で手軽にできそうなものもありますね。

うさぎがそこら辺を飛び回ってる前提のレシピですからね。

そして、ざっくりとしたレシピではありますが、マズくはなさそうです。ご興味ある方は是非お試しください。

「ベイクドビーンズ」を作ったことがあるのですが、時間がかかる割には「普通の味」でした。


参考文献 ミリメシ☆ハンドブックー独立戦争からイラク戦争までレシピ130 J.G.リューイン, P.J.ハフ, 武藤崇恵 原書房

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