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8月31日の夜に、旅の支度をしよう


 8月31日の夜に、学生のみなさんが考えることってなんですか?『明日からまた、学校が始まるな』っていうあとに続く心の言葉はきっと千差万別なんでしょうけど。【夏休み 学校】っていうキーワードでググったら、すぐに【行きたくない】って出ましたから、みんなグーグル神にとりあえず聞いてみるんですね。ネットの世界は広い。そして学校の世界は狭い。これは、まぎれもない事実ですから、わかりますよ。

 やはり、夏休み明けの9月1日に18歳以下の自殺が突出して多いらしい〈ー内閣府調査ー〉精神論は言いたくないです。ちなみに僕は中学・高校と体重が100キロ以上あり、夏休み明けようが明けまいが、エブリデイ憂鬱でしたね。中学生のころ、V6が流行ってましてね。放課後、TAKE ME HIGHERっていう曲を、べつに好きでもないのになんとなく口ずさんでいたら、クラスのわりと可愛い女の子に『歌うなちゃ!』と冷たく言い放たれたのをぼくは、いまでも根に持ってます!ひどし!そんな感じの(どんな感じよ?)、不登校になった(なってしまった、とは決して言わない!!)原因をいくつかググりました。

夏休み前に友達と距離をとった。だからどんな顔をして話せばいいかわからない。距離をとった理由は自分でもよくわからず、突発的なものだった。
クラスメイトの汗、体臭、整髪料の匂いなどに耐えられない。
学校の授業についていけてない状態で夏休みに突入したので、休みが明けてからの授業に、ついていける自信がない。
なんとなく憂鬱で母親に『学校に行きたくない』と言ったら、『べつに行かなくていい』とだけ言われた。それが逆にプレッシャーになり、無理やり学校に行ったがいつも吐きそうだった。ほんとは『なんで、行きたくないの?』と言ってほしかった。

などなど。もうね、ぜんぶ共感しまくりです。社会に出ると精神が鋼みたいになるけど、いまだに中身は脆いままですよ。ちなみに公式の相談窓口とかは、たぶんやめといたほうがいいんじゃないかと思います。それだったら作家・坂口恭平さんの【いのっちの電話】にかけてみて(いのちの電話じゃないですよ!)。ぼくだったら、そうする。この人は本当に現実的な手を打つ人のようですから、好きです。空想家ではなく、行動派。あと、もうひとつ、この記事も読んでほしいっす。ぼくは学生の頃、ぜんぜん本を読まなかったです。漫画ばっかり。で、25歳くらいに仕事をやめて、次の仕事に就くまでバイトしてた時期があったんですよ。そのあいだ、社会からつまはじきにされたような感覚に陥りました。人の視線が怖くて、コンビニすら行きたくなかった。けれど図書館にはよく通いました。あそこって静かなんですよね、ひたすら。

 静けさには3種類あります。ひとつめは、森の中や廃墟みたいに、そもそもの性質としての静けさ(たぶん自分の部屋なんかもこのあたりに属するのかな)。ふたつめは、誰もいない教室のように、もともとは騒がしいんだけど、それがぼっこり抜け落ちてしまったような静けさ。そしてみっつめは、図書館のように、生きている人がたくさんいるんだけども、声を潜めて、努めて自らの存在を消そうとしているような静けさ。ぼくはその、みっつめの静けさが、とても落ち着いたんです。いろんな人が無関心なんだけど、彼らの総体としての存在が僕を受け入れて包んでくれているような感覚になりました。ウーン、なんか、うまくいえねぇ(北島康介風に発声していただけると幸い)。とりあえず、本読まなくていいから、つらいときは学校早退して地元の図書館に行っちゃってもいいんじゃない?経験者は語る。

 あぁ、ぼくは、悩める学生さんたちに、なんか現実的な手を打てるかな。Oh...。なんにも持たない僕がそんなたいそれたこと、できっこない。と思ったら、ありました。読書感想文。あの、めんどうな、あいつですよ。どうせ、みんな書いてないでしょう(いまどき、そんな課題あんのかな?まぁ、いいや)?だから、僕が代わりに書きます。それ、コピペして印刷してくださいな。クオリティを求める方には、すいません、役に立たんかも。題材はぼくが一番好きな本。伊坂幸太郎/終末のフール、です。

《この本はまず以下のコンテンツで構成されています。

1終末のフール
2太陽のシール
3籠城のビール
4冬眠のガール
5鋼鉄のウール
6天体のヨール
7演劇のオール
8深海のポール

 ハライチのネタじゃないですから、注意。で、ぜんぶについて感想文書くのはだるいので、ぼくが一番好きな話について書きます!2太陽のシール、です。

 全体を通した基本的なテーマとしては、一言でいうと、”たぶん希望”、です。主人公たちが生きる時代から5年前、終戦記念日である8月15日に発表されたニュースがすべての始まりでした。ニュースはしきりに8年後、小惑星が地球にぶつかり、世界が滅亡すると報道します。主人公の富士夫と妻の美咲はそのニュースの内容を、とある旅行代理店に向かっている途中、ビルのエレベーターにて鉢合わせた婦人から聞かされます。

 キャラ設定:富士夫→32歳/優柔不断、美咲→34歳/鷹揚で理知的。この二人を軸に物語は進んでいきます。富士夫は選択をすることが苦手で、悩んでいるときは、たいてい美咲が決めてくれました。


ー「どうしようか」とまずは僕の顔を覗き込み、僕が、「実は迷っているんだ」と打ち明けるのを待って、「それは知ってる」と笑ったー


 美咲の、『ぜんぶ私が決める!』じゃなくて『なんだったら私が決めたげよっか』的な感じが、いいです。そして、富士夫に人生で最高に悩ましい選択が訪れます。美咲が妊娠してしまうのです。


ー楽しそうに僕を見据え、「産むか産まざるか。選択の時よ。富士夫君の得意な選択だよ」-


 富士夫はそもそも、以前罹患したおたふく病が原因で、限りなく無精子症に近い状態になっていました。治療をするかどうかも、もちろん、ずっと決めかねてずるずると来ていましたが、ここにきてなぜかストライクしてしまったのでした。あと3年しか生きられない命を、はたして産むべきかどうか。富士夫と美咲は究極の選択を強いられることになります。

 ある日の食後、ふたりはオセロ盤を囲みながら、産むべきかどうかを話します。話し合うのではなく、いつものように”話す”。あ、うんの呼吸というやつですね。オセロの白と黒の石が文中で幾度かひっくり返されます。会話をなぞっているかのように。



「試されてる気がするんだ」



 富士夫は3年後に小惑星が落ちない可能性がゼロではない、と言います。だから、試されているんだ、と。もし子供を産んで、3年後に小惑星が落ちてしまったとき、『思い過ごしだったね』、で済ますつもり?と美咲は返します。でも、けっきょく、このふたり、答えわかってるんですよね。そこに至るまでのプロセスがわりと大事だってことも。二人でも、三人でも家族って当たり前にあるものじゃなくて、家族に”なっていく”んです。

 二日後、たまたま通りかかった、高校のサッカー部で一緒だった友人の誘いで、富士夫は河川敷にてサッカーをすることになります。休憩時、ベンチに座っているとサッカー部の主将を務めた土屋が話しかけてきました。土屋は人望があり、そしていつでも最後まであきらめませんでした。「我慢してれば、大逆転が起きるんだよ、富士夫」。土屋には7歳になる子供がいて、子供は生まれつき難病にかかっていました。先天性の進行性。土屋は3年後、世界が滅びることを喜び、いまもっとも幸せだといいます。なぜなら、土屋自身が恐れていたのはただひとつ、”自分が子供より先に死ぬ”ことだったから。昔のように土屋がつぶやく。「大逆転だ」。しばらくして土屋が、見ろよ、と指さした先には、空に貼りついたシールのような太陽。この場面で、ついに物語のカタルシスがやってきます。


ー試合再開から十分、土屋からふんわりした柔らかいパスが飛んできて、それを直接ゴールに叩き込んだ瞬間、僕は決断をしたー


 富士夫は、産む決断をします。「いや、実際に出産するのは美咲かもしれないけど」と前置きしながらも、はっきりと美咲にその旨を伝えます。


ーこういうのは、許すとか許されないとか、そういうものじゃないんだ。僕には自信があるー


 美咲は、富士夫がはっきりと自分の考えを決めたことに驚きながらも、今までに見たこともないくらいに顔をくしゃくしゃにして、薄っすらと涙を滲ませます。そして、告げるのです。「あそこの産婦人科は特にね、診断が怪しいので有名なんだって」。


 念のため、美咲は、別の信頼できると評判の産婦人科へ向かいました。しかし、そこで、さらなる大逆転が待っていました。「ごめん、富士夫君」。富士夫は美咲が帰ってくるまでの間、人生の重要な局面できちんと決断できたことを誇りに感じながら、仮に、子供が産まれたとしての十年後のことを想像していました。子供と二人でオセロをしている風景。そして美咲が「わたしも混ぜてよ」とつまらなさそうに言ったり、「お母さんは待ってて」と子供が生意気な口を利いたりする穏やかな未来。

 「結局、妊娠してるみたいなの」と続けて美咲が言います。しかも、双子だってさ。「それならオセロを二組に分かれて、できるじゃないか」。富士夫のほころんだ表情が目に浮かびます。

 どんなに深いと思った絶望も、きちんと半径数メートルを見つめなおせば足場の周りを白線の円に囲まれていることがわかります。その白線は、僕やあなたの家族がバラバラにならないようにするためのお守りであり、それこそが、”たぶん、希望”、なのだろうと僕は思えてならないのです。》

追記:学生の方に読んでいただけていると信じて、僭越ながら、私が所属するバンドの音源のリンクを貼らせてください。めっちゃ聞いてほしい。僕が学生の頃に、この曲があればなぁ。


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