見出し画像

KingGnuという名の“沼”【前編】


「アフリカに生息する動物かなにか?」―――

4ヶ月前、友人に「“キングヌー”を知っているか」と尋ねられた際に、僕はこう聞き返した。



“ヌー”自体見たこともないが、その名から『何となくデカくて角の生えた牛』が連想できた。後々Wikipediaで調べた結果、分布も予想通りのアフリカだった。

しかし“KingGnu”は牛などではなく、2019年に入ってから急速にその名を轟かせている日本のロックバンドだという。



出会いの曲『白日』.

友人が「とにかく曲を聞いてくれ」とやたら推すので、僕は家に帰ったあとKingGnuをYoutubeで検索した。一番上に表示された曲は、『白日』というタイトルだった。



モノクロのMVはスタイリッシュ且つ繊細な雰囲気を放ち、曲は全体的に儚い旋律でありながらもサビでしっかりと盛り上げてくる。一聴キャッチーな楽曲に感じさせつつ、曲が終わって振り返ってみると「今までに聴いたことがない斬新な曲」であったことに気づく。


『白日』のMVで最もインパクトがあるのは、言うまでもなく「ボーカル(井口理)のルックスと歌声のギャップ」だ。再生開始とともに髭モジャのオッサンが画面に現れたと思ったら、その見た目からは想像もできないほどの透き通ったハイトーンボイスで、聴く者の耳を圧倒する。



「なるほど、この人がフロントマンか」


と思いきや、突如Bメロから“和製ベートーベン”風貌のギタリスト(常田大希)が歌に参入してくる。

男性2人のツインボーカルとは...めずらしい!

井口の中性的な声色とは真逆に、常田の歌声は腹の底に響くような低音だ。常田メインでBメロを歌い上げると、サビでは再び井口がリードボーカルとなり、2つの対照的な歌声が心地良いハーモニーを生み出す。それをリズム隊のスキルフルな演奏がさらに際立たせ、何度も聞き返したくなってしまう“カッコいい”サビに仕上がっている。


と、曲が1番を終えたところであることに気がついた。



「…絵面が濃いっ!!!」


曲がオシャレなだけに、ボーカル2人のムサ苦しい見た目がやたらと気になってしまう。初っ端の井口の登場から既に「もわっ」とした空気が漂ってきていたのに、それに追い打ちをかけるが如く常田が「むわっ」と現れるので、思わず「実はこの人たちが“Official髭男dism”なのでは?」と心の中で呟いてしまった。


そんなこんなで、白日を初めて聴いたときの僕のKingGnuに対するイメージは、『ビジュアル面に気を遣わない実力派バンド』というものだった。今でこそ、僕にとって白日は彼らの全楽曲の中でも上位にランクインするくらい大好きな曲なのだが、ファーストインプレッションは「ほぉ~、良い曲だなぁ~」くらいの感じ。

しかし、その次に待ち受けていた“ある曲”が、僕を“KingGnu”という名の「底なし沼」に引きずり込んだのである。



絶妙な粗削り感が残る『Vinyl』.


白日のMVが終わると、Youtubeの自動再生で次の曲が勝手に流れ始めた。タイトルは、『Vinyl(ビニール)』。白日で多少なりとも興味を惹かれた僕は、他の楽曲はどんなもんかと思い、迷うことなく続けて聴くことにした。

(※サムネから漂う名曲感)


冒頭の「「ズッズッチャ!ズッズッチャ!」」と野性味溢れるキレの良いドラム演奏は、どことなく東京事変のドラマー・刄田綴色のプレイを彷彿とさせる。

続いてメルヘンチックな(ギターだかキーボードだかよく分からない音が)可愛らしいメロディを刻むのだが、MVはそれに相反して、怪しげな雰囲気の女が地下道を闊歩するシーンに切り替わる。曲だけに囚われず、映像作品としても視聴者を釘付けにしてしまうギミックが放り込まれているのだ。



そして、ボーカル井口の歌唱が始まる。

この『Vinyl』という曲は、彼らがメジャーデビュ―前に制作していたもので、白日よりも古い。なので白日と比較すると、井口の声は微かに荒々しさ(良い意味で洗練されていない感)を含んだ色気あるものになっている。曲の中で、それがたまらなく良い味を出している。



そして何より注目すべき点が、彼のルックスだ。




「かっ…カッコいい!!そして、痩せているっ!!!」


どことなく『the pillows』の山中さわおを連想させるその風貌は、完全に僕好みだった。ロン毛髭モジャのスタイルは白日と変わらないのだが、こっちの井口に関しては全く「ムサ苦しさ」を感じない。シブい…シブすぎる!

ちなみに、上の写真はサビの歌唱シーンなのだが、Aメロ~Bメロでは女とのベッドシーンでまさかの白ブリーフ姿を披露している。こんなやさぐれた男がズボンを脱いだら白ブリーフというギャップ萌え。セクシーにもほどがある。



VinylのMVは、曲全体を通して井口にスポットライトが当てられている。しかし、その他にも井口を取り巻く2人の女、そしてCメロ前の常田による圧巻のギターソロなど、見どころは満載である。

何より、一音楽作品として改めて聴いたときに、リズム隊の奏でるサウンドが鳥肌モノだということに気づく(ギターもドラムも良いのだが、Vinylに関していえばグニャングニャンとウネるような重低音のベースはかなり聴きごたえがある)。個々の音に注目して聴くことで、何周も何周もリピートしてしまう中毒性がそこにある。


白日に関して言うと、あの曲は2019年2月末にMVが公開されてから既に3,500万回以上の再生数を記録していて、今のところKingGnuの代表曲であることは間違いない。曲自体もドラマ主題歌用に書き下ろされ、「より多くの大衆にウケるように」と作られたのであれば、(彼らの才能をもってすれば)ヒットするのも当然といえば当然だ。


それでも、いつ何時も「これぞKingGnuの真骨頂」と思わせる曲は(個人的に)この『Vinyl』なのである。白日にはないインディーズ時代の荒っぽさが残るサウンド(意識的に作ってるのかもしれないが)であったり、彼らなりのカッコよさを追求して詰め込んだ感じが、この曲からは伝わってくる...ように思う。あくまで個人的な見解でしかないが。



『Vinyl』という曲に出会い、雷に打たれたかのような衝撃を受けた僕は、片っ端からKingGnuの曲を聴き漁るようになる。

バンドとは不思議なもので、初めの頃こそグループの顔であるボーカルにばかり目が行きがちだが、曲を聴けば聴くほど他のメンバーのルーツ思想に触れたくなるものである。

そして、僕にとってKingGnuは、その“「触れたい」という欲望”をどのミュージシャンよりも一層引き立てる魔性のバンドだ。


次回は、バンドのリーダーを務める常田大希にフォーカスして記事を書こうと思う。


                終

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?