アラジン

沈黙は金にあらず

『女は美しければ良い。意見など不要』

こう聞いて疑問を持たない女性などいないのではないだろうか。

先日『アラジン』を見に行ってきた。

砂漠の王国アグラバーは、老年の国王と王女、そして右大臣ジャファーと盗賊アラジンからなる物語である。

この右大臣ジャファーがいわゆるヒール役で、魔人のランプを手に入れて王国を乗っ取ろうと画策する。

老年の国王陛下は妃を亡くしてしまった過去のつらさから、一人娘である王女を外出禁止にし城の中に閉じ込めた。

盗賊アラジンと王女との恋も見物なのだけれど、なんといっても好きなのは、王女がジャファーに言われた一言で覚醒する場面。

『女は美しいければ良い。意見など不要』である。

人はなにか理不尽な場面に出くわしたとき、素知らぬ振りをするか、その違和感に気づいておかしい、と自ら声を上げるかの二通りである。

王女も一度は、沈黙し仮初の権威の前になすすべなく引き下がるかのように見えた。

ここで見落として欲しくないのは、相手がどんなに権力者であろうとも、あるいは国王でも愛する父親であっても、制限された発言、自由が本当にそうであるべきか「疑問」を抱くことである。

沈黙は金にあらず』

自分の人生を誰にも明け渡さないためには、相手が一国の主であろうと、愛する人であろうと、意見を鵜呑みにせず疑問の声を上げることが大切なのである。

そして声を上げようとした時、口を封じようとする人物に対してはっきりと自分の意志を伝えることが一番の危機回避の近道であり、打開策と言える。

今や王国を乗っ取り国王となったジャファーに女はお飾り、と言い切られ、王女がついにブチギレるのである。

現実と物語がリンクし、観客に何が問題なのかストレートな言葉で突き付ける。

仮初の権力を前にしても臆さず、臣下に国王の威厳すら見せ、『あなたが言えば部下も動く。あなたが選びなさい』と命じ、王国の危機を救う。

国王の目に涙が浮かび、王女を抱きしめる。

王国は1000年余りに渡り、王位継承は男のみだった。覆せない悪しき決まり事がこの瞬間覆されるのは、見ていて気持ちがいい。心の奥底でわだかまっていたものが残らず浄化されていく。

ディズニーが時代を先導し、男女間での価値観の歪みを提示して貫く情熱は、時代が変わっても新しく魅力的である。

理不尽に抑え込まれたら声を上げよう。

耐え忍び沈黙を守り、虐げられるだけの時代はもう古い。

価値観アップデートさせ、夢物語ではなく現実を生きよう。そうディズニーは教えてくれる。


ライター。好きなものをもっと深めたり、日々のちょっとしたことをnoteにしたためたり。興味の向いたことを掘り下げてみたり。