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成長ステージを駆け上がる、グロースレバーの正しい設定とは

こんにちは!NEWhで新規事業の伴走支援をしている谷口です。
今回は以前の「【KPI沼から抜け出すヒント】新規事業の測り方-勝負はKPI設定前についている-」の実践編として、実際のグロースフェーズにある企業のKPIを50億~200億の規模別に切り取って、分析してみたいと思います。その中でも、売上の拡大に直結する資源の投下先となる「グロースレバー」をどのKPIに置いているのか、なぜそうなのか?を考察してみたいと思います。

業種による違いは当然あるかと思いますが、企業規模から4社をピックアップして、透けて見える経営者の意図や戦略、経営を取り巻く環境を推察しながら、成長ステージを上がるためのヒントを探してみます。


グロースレバーが意識されるステージ

まず、新サービスで乗り越えるステージを整理しつつ、どのあたりから、グロースレバーが意識されてくるのか、見てみましょう。

成長ステージ(筆者作成)

サービス/プロダクトのアイデア仮説が実際の顧客によって検証され、顧客から対価を払ってでも使いたいという手応えを得た後、その顧客が離れず使い続けてくれるようになるまでが大きなハードルになりますが、これを超えた後、本格的に売り上げを拡大する際に必要になってくるのが、この二つです。PMFを達成したあと、売上を拡大していくための重要なカギになります。

・どのレバーを引けば売上が上がるのか、発見できていること
・売上の急拡大に伴う業務量の増加に耐え得る、体制と仕組みの構築

代表的なグロースドライバーの分類

つぎに代表的なグロースドライバーと、具体的なKPIの例をまとめてみると、大きくこの5つに分類ができます。成長過程のなかで様々なKPIを設定し、追いかけていくなかで、売上と比例する指標を発見していくことになります。

グロースドライバーの分類(筆者作成)

前提を整理できたところで具体的な企業のIR資料から、それぞれの企業がどのようなKPIを据えていて、さらにその中でもどこをグロースドライバーとして捉えているのかを見ていきたいと思います。企業ごとの違いと、なぜその指標をドライバーとして重視しているのか、推察してみます。

ピックアップ企業

売上50億規模:株式会社うるる

市場規模20兆円以上の全国の官公庁・自治体・外郭団体、全国7700以上の機関の入札情報を一括検索・管理出来る業務支援サービスを展開。

売上100憶規模:ペットゴー株式会社

ペットヘルス分野に特化したネット通販サービス『ペットゴー』の運営および、ペットデータを活用したペット関連メーカーへのマーケティングサポート、動物病院を通じた診療サービスを提供。

売上150億規模:株式会社キャリア

高齢化社会に特化した人材サービス企業。シニアケア事業、シニアワーク事業を行い、シニア向け・介護人材向け求職サービスのポータルサイトを運営。

売上200億規模:freee株式会社

クラウド型会計ソフト、人事労務や会社設立支援と、スモールビジネスのバックオフィス業務を効率化するクラウドサービスを開発・提供。

個別分析

売上規模50億:株式会社うるる

2001年に北海道で創業、BPOデータ入力サービスを起点に事業を開始されています。
2024年3月期/第2四半期の決算説明資料内の「KPIツリー」がこちらです。

出処:株式会社うるる‐2024年3月期/第2四半期の決算説明資料

最も川上に置かれているのが「将来に渡る売上高」。それを支えるKPIが既存顧客のLTVと、契約件数です。

LTVの最大化は、ARPU(1ユーザあたりの売上)x平均契約期間で、シンプルに1契約あたりの単価を最大化しつつ、できるだけ長い期間継続してもらう、ということを追いかけているということですね。

もう一方の契約件数も、新規契約件数はもちろんのこと、既存顧客の継続率が据えられており、いかに一度獲得したユーザに満足してもらい、長く使ってもらうかというものでした。これからまだまだ売上の天井を引き上げていく、という成長拡大期ど真ん中のKPIですね。

重視されている指標は「顧客利用の継続(顧客保持)」と「ARPU(収益拡大)」の2つです。苦労して接点を持ち、サービス利用をしていただいた顧客に満足してもらい、利用を継続してもらうことに特に注力する理由の背景には、提供サービスの「全国官公庁の入札情報」にニーズがある業種や企業が限定的で新規顧客開拓の余地が大きくないからかもしれません。

蛇足ですが、ユニークな社名はエアーズロック(=アボリジニ―名「ウルル」)からきているんですね、なるほど!

出処:株式会社うるる‐2024年3月期/第2四半期の決算説明資料

売上規模100億:ペットゴー株式会社

2004年に東京で創業、スタートは通販サイト「ペットゴー」から。その後業容拡大し、動物病院の吸収合併、自社プロダクトの展開を行い、売上を拡大されています。
2024年3月期第2四半期の決算説明資料内の主要指標はこちらになります。

出処:ペットゴー株式会社‐2024年3月期第2四半期決算説明資料
出処:ペットゴー株式会社‐2024年3月期第2四半期決算説明資料

財務指標の連結売上高、営業利益のほか、2つの主要KPIとしているのがアクティブ購入者数(過去1年間に当社を1回以上利用した購入者)と、累計ユニーク購入者数(過去の購入者)です。出自がEC店舗ということもあるからか、顧客リスト、それもアクティブな購入者と、今はアクティブでなくとも、過去実際に購入というアクションを行った人を追いかけているのが特徴的ですね。

グロースレバーは「顧客エンゲージメント」になりそうです。なぜそうしているのかの答えは、同資料の中期経営戦略に垣間見えました。

出処:ペットゴー株式会社‐2024年3月期第2四半期決算説明資料

自社の強みをペットデータと認識されていて、より多く、深くペットデータを蓄積することこそ、今後広がっていくモノ、コト両面の市場を確保できると考えているからですね。

売上規模150億:株式会社キャリア

東京、大阪で人材派遣業から開始され、ビルメンナンスや別途メイキング向けのシニア人材派遣から、ロジスティックス、有資格者、介護分野へと領域を広げられています。
2023年9月期の決算説明資料からの主要KPIがこちらです。

出処:株式会社キャリア‐2023年9月期決算説明資料

明確に収入サイドと、支出サイドでKPIが据えられていますね。
収入サイドは登録シニア人材の稼働人数その単価となっていて、稼働人数は新規シニア人材の応募者の大きさ実際のポジションへの応募率、そして企業側で応募に対していかに適切なお仕事にマッチングさせるか、そのマッチング率を追いかけられています。売上を決める人材をいかに多く集めて、適切なお仕事に結びつけるか、さらにそのお仕事の単価を引き上げていくことで売上の最大化を図っているという構図ですね。

一方の支出サイドは、新規人材獲得のための広告宣伝費の最適化と、お仕事獲得のための営業効率の2つを追いかけるシンプルなKPIとなっています。人材が多く稼働し、単価の高いお仕事を行い続けるという人材派遣業で、スタートから150億まで伸ばしてきたことが窺えるような、愚直なKPIという印象でした。

グロースの肝に据えられているのは色付けされた応募者数(=新規獲得数)となっているようです。150億規模を超えているなかで、なお応募者数の確保にこだわるのはなぜか、その背景には限られた派遣人材数がありそうです。世の中の派遣社員雇用数は150万人前後で変動が少なく、限られた機会を奪い合うような構図。単価を上げることはなかなか困難で、それよりも雇用側が望む人材プールを持つことが売り上げに結び付くのではないかと、推察します。

出処:株式会社キャリア‐2023年9月期決算説明資料

売上規模200億:freee株式会社

2012年に東京で創業、当時から変わらず主力はクラウド会計ソフトfreeeです。
2024年6月期第1四半期決算説明資料のハイライトがこちらです。

出処:freee株式会社‐2024年6月期第1四半期決算説明資料

SaaSサービスらしく、ARR(Annual Recurring Revenue:年年次経常収益)、有料課金ユーザ数、ARPU(Average Revenue Per User:加入者1人当たりの一定期間内の平均収入)、サブスクリプション売上高比率を4大KPIとして投資家に示されています。

内部KPIとしては細かく目標に合わせてKPIがセットされていることと思いますが、企業全体としてはSaaSの王道として、獲得した顧客を有料化し、サブスクサービスを長く継続してもらいながら、さらに売上を拡大させるために利用サービスの幅や深さを広げて単価を引き上げていく、ということですね。

freeeのグロースドライバーは、先にまとめた5分類のほぼ全方位に広げられていますが、中でも「新規顧客獲得による市場拡大」と「収益拡大」により重点が置かれていました。

これはメインターゲットである、個人・中小規模事業者のSaaS未導入の領域と、自社のサービスで解決できる課題の両面が広大と捉えていることの表れですね。

さいごに

業態の考慮はあえて無作為にして、企業規模別にスタートアップ初期から成長フェーズにかけての企業のKPIを眺めながら、そのグロースレバーについて考察してきました。

わずか4社からの考察ですが、分析を通して見えてくるのは、新規事業を成功させるうえで欠かせない顧客理解から、さらに一歩踏み込んだ市場、業界の構造と、今後の中長期のトレンドを見据えていることです。

・TAM/SAMの余地
今目の前にしているような顧客と課題が、依然市場に数多く存在しているのか
・競争環境
同じ顧客を狙う競合サービスは多数存在しているのか
自社が優位に顧客に対して振る舞えるのか
・周辺市場の余地
顧客が抱える課題は他にもあり、自社のリソースで解決可能なのか

新規事業という制限/制約が多いなかで、現顧客を最大限注視しながらも、さらに5年、10年先を見据えたうえで、どこにグロースレバーを据えるべきか、戦略的な意味合いをより強く感じ取れました。

PMFを達成するプロセスのなかで、売上に直結するグロースレバーを「いかに発見するか」それ自体が困難かつ重要ですが、成長ステージをさらに踏みあがっていくためには、それを「いかに設定するか」が問われているように思います。

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